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56 ニューヨークのクリスマス

 ついにサラがスケルトンから人間の姿に戻ったので、サラとニキと俺の三人でニューヨークの街に繰り出した。


 異世界は夏だったが、こちらは逆に冬で、ニューヨークの街はクリスマス前の賑やかな装いとなっている。

 サラはツナギのワークウェアだけなので、ゴードンから借りた革のジャンバーを羽織った。

 中身はスケルトンなので、寒くは無いそうである。


 ニキとどこに行こうか相談したら、折角だからロックフェラーセンターのクリスマスツリーを見に行こうという事になった。

 ニューヨークで最も有名な巨大ツリーである。


 ロックフェラーセンターに到着すると、さっそくサラがツリーを見上げてニキに質問している。

「このきれいに飾られた大きな木は何ですか?」

「これはクリスマスツリーと言って、こちらの世界で信仰されている神様の生誕を祝うイベントの飾りよ。」


 クリスマスツリーの前では、ゴスペルを歌う一団もいて、雰囲気を盛り上げていた。


「神の生誕を祝うのですか。私の世界では、竜神様は最初から存在するものとされていて、生誕を祝うというのは無かったです。」


「神様なのに生誕を祝うというのはだな、神なのに人になったというか、まぁ色々あってこの世界に降臨された事を祝うイベントだな。」

「私達の世界に降臨されたリュウ様のようですね。」


「おいおい、俺は竜神様の依頼を受けているただの人間だぜ。」

「ふふっ。いずれにせよ、クリスマスツリーを見ていると、皆さんが、この世界の神様を大事にしているのは良く分かるです。」


 それから俺達は、五番街をぶらぶら歩いて、クリスマスできれいに飾り付けられたお店のウィンドウを見ながら、セントラルパークの前までやって来た。

 セントラルパークは、ニューヨークのど真ん中にある広大な公園である。


「リュウ、サラ、セントラルパークでちょっと待っててくれない? すぐそこのお店で、お父さんに頼まれた買い物を済ましてくるから。」

 ニキはそう言うと走っていった。


「しょうがない。サラ、その先のベンチで待っていよう。」

 俺は、そう言うと、セントラルパークに入って、近くのベンチに腰掛けた。

 目の前には、ホットドッグ屋が屋台を開いていて、屋台のコンロからは煙が上がっている。


 すると、一人の男が大慌てで公園の入口から駆けてきて、俺達の前を通り過ぎて行った。

 走って行った男の背中を眺めていると、「待て〜!」と言いながら警官が追いかけて来る。

 ニューヨーク市警の同僚のゲーリーである。


「ゲーリー! どうしたんだ?」

「ああ、リュウか。ちょうど良かった。今、ひったくりを追いかけてたんだ。俺はあっちから追いかけるから、お前はこちらから追いかけてくれ。挟み撃ちだ。」

 ゲーリーはそう言うと、こちらの返事も聴かずに犯人を追いかけて走って行った。


「おい! 俺は今日は非番なんだ。ちくしょう、行っちまった。」

 俺はサラに「ちょっと行ってくる。ニキが来たら、ここで待っててくれ。」と言うと、犯人を追いかけた。


………


・・・サラ視点へ・・・


 ニキさんもリュウ様もいなくなり、私は一人セントラルパークのベンチに残された。

 この場所は、広場に芝生や木々が植えてあり、これまで見てきた巨大な建物に囲まれた場所よりは落ち着ける。


「おい、おい、こっちに来い!」

 誰かが呼んでいる。


「おい、お前だよ! そこのワークウェア着た子。」

 ふと前を見ると、何かの屋台の男が私を呼んでいた。


 初めて見る人だがと不思議に思いながら、私はその男の元まで行った。


「ちょっとトイレに行くから、この屋台の前に立って商品を見張っててくれ! こう寒くっちゃトイレが近くてしょうがねえ。」

 屋台の男はそう言うと、どこかに行ってしまった。


 店番を頼まれた? 何も了承した覚えはないが、むしろ命令されたのか? なぜ?

 私が首を捻っていると、屋台の前に10代中頃の少年が立っているのに気が付いた。


「ホットドッグ一つ。」


 どうやら、屋台の商品を注文されたようだ。


「えーと、私は店番を頼まれたのですが、ただ立ってるよう言われただけで…。」

「そうなんだ。それで、お店の人はいつ帰ってくるの?」

「…分からないです。」


 その少年はため息をつくと、頭をかいてこちらを見てくる。

「君はホットドッグ作れないの?」

「ホットドッグというのが何なのか知らないです。」


「本当に? どこかよその国から来たのかい?」

「まぁ、そんなところです。」


 私がそう言うと、少年は両手を広げて頭を左右に振っている。

「ホットドッグを知らないなんて、君は人生の半分を損してるよ。そうだ! 僕がホットドッグを作ってあげるよ。」


 少年はそう言うと、屋台の前に立ち、食材やコンロを眺めた。

 そして、細長いソーセージとパンをコンロに2本ずつ並べて焼いていく。


 コンロからは、肉の焼ける美味しそうな匂いが漂ってくる。

「君の分も作っているから、ちょっと待ってて。」


 そして、ソーセージとパンに軽く焦げ目が付いたところで、大きめの紙ナプキンにパンを乗せてソーセージを挟んでいく。

「トッピングはどうする?」


「分からないです。」


「トッピングのおすすめはザワークラウト、オニオンにスパイシーマスタードだ。トマトケチャップは邪道だね。」

「じゃあおすすめで。」


 少年は慣れた手つきでトッピングをすると、「はい、どうぞ」と手渡してきた。

 私はホットドッグを手に持ち、どうしたものかと少年を見ていると、「ほら、冷めないうちに食べて」と急かされた。


 仕方ないと思い、私が恐る恐る食べようとすると、少年は「違う、違う。もっと大きく口を開けて、一気にかぶりつくんだ」と食べ方の講釈までしてくれる。


 私は大きく口を開けて、ホットドッグにかぶりついた。

 口の中でソーセージの薄皮がパリッとはじけ、肉汁とザワークラウトの酸味が一体となって広がる。10年ぶりに感じる味覚が私の中を駆け抜けていった。

 そして、私の頬を涙が流れた。


 なぜか私の前で少年は笑っている。

「あーはっはっは! ソーセージが熱かっただろ! 一気に食べるからだぜ。」


 特に熱さは感じなかったが、私が涙を流したので勘違いしたらしい。


「そんなに泣くなよ。悪かったよ。じゃあ、これ、お金。」


 少年は気まずそうにそう言うと、紙幣を3枚出して私のジャンバーのポケットにねじ込んで、ホットドッグを片手に去っていく。

 私が少年を見送っていると、少年は10メートル程行き「そうだ!」と言ってこちらを振り返った。


「メリークリスマス!」


 少年はそう言うと、今度こそ本当に去って行った。


………


・・・リュウ視点へ・・・


 やっと、ひったくり犯を捕まえてゲーリーに引き渡して戻って来ると、サラがホットドッグの屋台の前で食べかけのホットドッグを片手に持ち、涙を流していた。


「サラ、どうしたんだ?」

「…。」

 サラは涙をジャンバーの袖でぐしぐし拭きながら、口をもぐもぐさせている。


 そこにニキも戻ってきた。

「お待たせ〜。あら、サラさんどうしたの?」


 するとサラがようやく口を開いた。

「…美味しくて、…嬉しくて、…クリスマスなのです。」


 うん、意味が分からん。

「まぁ、美味しくて、嬉しくて、クリスマスなんだったら、ハッピーって事で良いんだよな?」


 俺がそう言うと、サラは頷いた。

 そこに屋台のオヤジが戻って来た。


「やあ、すまんすまん。おや? どうかしたのかな?」

 俺とニキが首を左右に振ると、サラがポケットから一ドル札を三枚出してオヤジに渡す。


「これは売れたホットドッグの代金です。私の分はまだですけど。」


 どうやらサラが、店番をしてホットドッグを売ったらしい。

 ホットドッグなんて知らないはずなのに、さすがサラである。


「じゃあ、俺達もホットドッグを食べようか。あと二つ頼む。代金は俺が三人前払う。」

「あいよ! 代金は二人前で良いよ。お嬢ちゃんのは店番のお礼だ。」


 俺達は三人で熱々のホットドッグを食べながら、セントラル・パークを歩いた。


「あ〜あ、せっかくのサラさんの10年ぶりの食事がホットドッグになっちゃったね。ゴードンさんからおすすめのレストランを教えてもらってたのに。」

 ニキは、残念そうに話しながらホットドッグにパクつく。


「ハハ、まぁホットドッグはニューヨークのソウルフードだから、良いんじゃないか?」

 サラもホットドッグを美味しそうに食べながら、頷いている。


 すると、ニキがサラの前で振り返り、サラに向かって両手を広げた。

「ようこそ、ニューヨークへ!」


 今さらであるが、ようやくサラもニューヨーカーの一員になったようである。

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