55 人魚の使い道
俺達は、異世界で無事に海賊船を撃退し、パオロ商会の商船で船旅を続けることができた。
このまま順調にいけば、3日後にはリオの港に到着予定である。
そして商船で眠りにつくと、ニューヨークの朝が始まった。
………
今日は仕事は非番だったので、朝からゴードン工房に行くと、ディエゴ達が沢山の人魚を捌いているところだった。
「人魚の素材は、これから使うんだから、傷が付かないように慎重に切り取っていけよ!」
ディエゴがスケルトン達に指示を出している。
工房の別の場所では、エドガーとサラが透明な棺桶のようなマシーンを前にして、何やら相談している。
「皆んな、おはよう。サラ、昨日は異世界で助かったよ。ところで何の相談しているんだ?」
「リュウ様おはようございます。3Dプリンターの使い方について、エドガー教授と相談していたのです。」
「3Dプリンター? 3Dプリンターなんて何に使うんだ?」
すると、俺の質問にエドガーが答えてくれる。
「3Dプリンターは、コンピューターで作ったイメージを立体的に造形してくれる装置だが、これを使ってサラ君達に肉付けしていこうと思ってね。いつまでもスケルトンのままでは、行動範囲が限られるからね。」
「サラ達に肉付け? しかしどうやって?」
「まず、3Dプリンターにシリコンゴムをセットして、サラ君達にこの中に寝てもらう。そして、骨の上にシリコンゴムを吹き付けて整形していくんだ。」
なるほど、シリコンならある程度の弾力性があるだろうが、上手くいくのか?
「しかし顔の筋肉とか動かなかったら、やはりロボットみたいに見えるんじゃないか?」
俺は疑問に思う事を聴いてみた。
「確かに昼間の明るい場所で見られたら、すぐに違和感を感じるだろう。しかし、我々には人魚の素材が手に入ったのだよ。」
どういう事だ?
「異世界の魔獣の皮は、土魔法で様々な素材に貼り付ける事ができ、その素材の持つ特徴を失わない。つまり、シリコンゴムで整形した肉の上に人魚の顔や手の皮を貼り付ける事で、人の顔や手の皮膚ように利用する事ができるのだよ。」
俺がエドガーの説明になるほどと頷いていると、サラが追加で説明してくれる。
「人と同じように顔の皮膚を動かすには、土魔法の力が必要となるでしょうが、私達はリュウ様の闇魔法のおかげで無限に魔法を使えますので、問題無いはずです。」
「まあ、実際にはやってみないと分からんがな。じゃあ、最初に誰からやる?」
エドガーはそう言ってサラ達スケルトンを見回すと、全員が一斉に手を挙げた。
「実験なら俺がやるぜ!」
真っ先にディエゴが名乗り出る。
「隊長ずるいですよ! 試すなら俺たちでお願いします。」
人魚の解体をしていたスケルトン兵士の皆さんも、わらわらと集まってくる。
皆んな10年もこんな姿でいたのだ、早く人間の姿に戻りたいだろう。
皆んな俺が俺がと言い合いしており、収集がつきそうに無い。
「それじゃあ逆に、誰に一番先に元の姿になってほしいか聴いたらどうじゃ。」
スケルトン達の様子を見ていたゴードンが声を掛けた。
するとスケルトン達が顔を見合わせて、一斉に「サラお嬢様です。」と声を上げる。
全員の視線がサラに集まる中、エドガーはサラに「それじゃあサラ君、3Dプリンターの中に入りたまえ。」と声を掛けた。
サラが透明な棺桶のような3Dプリンターの中に横たわると、エドガーが装置をセットして、パソコンの操作を始める。
「エドガー、これで肉付けすると言っても、それぞれの個性とかはどうするんだ? 全部同じ顔とかだと不気味なんだが。」
「そこは考えてあるさ。すでに全員の骨の3Dスキャンは済んでいて、コンピューターで解析済みだ。そして、それぞれの骨格から元の姿も予想してある。考古学の応用だね。」
なるほどと頷いていたら、3Dプリンターが動き出し、みるみる内にサラの骨格の上にシリコンゴムで作られた肉が盛り上がっていく。
皆で「おお〜!」と声を上げて見ていたら、執事のセバスが騒ぎだした。
「お嬢様の裸の姿を見てはなりません!」
なるほど、確かに見ようによっては裸のサラを男達で凝視しているようにも見える。
セバスは、3Dプリンターの前で両手を広げ、皆にサラの様子を見せないようにしている。
まあ、スケルトンだから隙間だらけで隠せてないのだが。
「まあ、そうだな。これ以上は見ないようにして、エドガーに任すとするか。ニキもエドガーを手伝ってくれ。」
俺はそう言うと、その場から離れて、ディエゴ達と人魚の解体作業を行う事とした。
それから4時間程の時間が経ち、エドガーが手術で使うような白衣を着て「終わったー!」と叫びながら、工房に作られた簡易のオペ室から出てきてソファーに寝転んだ。
このオペ室は、サラ達スケルトンに人魚の皮を貼り付ける為に用意したそうである。
エドガーに続いて、ニキも手術着を着てオペ室から出てくる。
「サラさん用の服を用意してなかったから、まだツナギのワークウェアを着てもらってるけど、早く服を買いに行かなきゃね。」
ニキがそう言いながら後ろを振り返ると、サラがオペ室から出てきた。
サラは、思ったとおりの10代後半くらいの可愛い少女であり、栗毛の髪をショートカットにし、目は美しいブルーアイだった。
やや俯き加減にこちらを見てくる。
「リュウ様、おかしくないでしょうか?」
「サラなんだな。初めましてと言う感じだが、サラは、思っていたとおり可愛いよ。なあ皆んな、以前と比べてどうなんだ?」
俺が後ろを振り返り、スケルトン達の様子を見ると、全員が跪いて肩を震わせていた。
「お、お嬢様…、良かった…。」
スケルトン達の間からすすり泣きと、しきりに「良かった」という声が漏れている。
スペンサー家の警備にあたる者として、サラの骸骨の姿は、これまで辛いものだったのだろう。
俺は、ディエゴ達を見て涙を流すサラの肩を抱いて、優しく声をかけた。
「サラ、良かったな。以前と変わりないようだ。」
「はい…。リュウ様、エドガー教授、皆様、本当にありがとうございました。ディエゴ達も、本当に苦労を掛けました。皆んな…ありがとう。」
スケルトン達は肩を震わせて、相変わらずすすり泣いているので、俺は元気よく皆に声をかける。
「さあさあ、これで終わった訳じゃないんだぜ。次は誰がやるんだ?」
すると、ディエゴがゆっくりと立ち上がった。
「サラお嬢様の次は、いよいよ俺の番だな。」
しかし、他のスケルトン兵士達も黙ってない。
「いやいや、隊長ずるいですよ。ここは公平にジャンケンで決めましょうよ。」
「お前ら、隊長の言うことが聞けないのか!」
何やら、また言い合いを始めた。さっきの感動的な雰囲気が台無しである。
俺達が呆れて見ていると、ゴードンが話しかけてくる。
「リュウ、他のスケルトン達はまだまだ時間がかかるだろうから、ニキとサラと一緒に服を買いに行ってはどうじゃ。」
俺はゴードンの提案を受けて、三人でニューヨークの街に繰り出す事にした。
サラにとっても初めてのニューヨークだし、どこを案内するか楽しみだ。
すると、エドガーがソファーから体を起こして、話しかけてくる。
「リュウ君、サラ君は人魚の内臓も移植してあるから、食事もできるか試してくれたまえ。」
「おお〜、さすがエドガーだ。サラ、約束した美味しい紅茶の店を案内するからな。」
「リュウ様に会った時の約束を覚えていたのですか。嬉しいです。」
サラは嬉しそうに微笑むのだった。




