53 海王との闘い
『ゴウン、ゴウン、ゴウン』
ニキは低く唸るような音に目が覚めた。
確か海に投げ出されたはずだが、いつの間にか知らない部屋のベッドに寝かされている。
しかも壁は鋼鉄の壁のようで、天井には見たこともない円筒形の明かりが、部屋を昼間のように照らしていた。
「急げ! 急げ! 人魚はまだ大量に浮いてるんだ。早く運んで甲板のイスに括りつけろ。」
騒がしい声がして、ニキがベッドに寝たまま頭を左に捻ると、開いた扉の先を大勢の人が駆けてくる音がする。
そして、大勢のスケルトンが人魚を抱えて廊下をバタバタと走って行った。
悪夢である。
ニキは静かに目を閉じて、ふたたび意識が遠のいていった。
………
俺はストレージから船を取り出すと、サラ達を呼び出して、今は船の乗組員に指示を出す発令所にいる。
そしてサラ達は、ゴードンが用意したアメリカ海軍の服を着ており、サラは潜望鏡で海上の様子を見ている。
そう、ここは潜水艦の中である。
俺は帆船を用意するよう要望していたが、すぐに手頃な帆船は入手できず、結局、潜水艦を見た目は分からないようにカモフラージュする事で間に合わせる事になった。
「海王が商船を襲っているです。直ちに排除するです。」
サラはそう言うと、潜望鏡を元に戻してスケルトン達に指示を出す。
「1番から4番発射管に魚雷を装填し、準備するです。」
「お嬢様! このまま魚雷を発射すると、商船と海王の距離が近過ぎて、商船に被害が出る可能性があります。」
レーダーを確認しているスケルトンが報告してくる。
「分かったです。ソナーを打つです。」
俺はサラ達のやり取りを唖然として聞いていたが、恐る恐る質問してみた。
「さ、サラさん、ソナーを打つとか何なのかな?」
「ソナーとは、本来は敵艦を見つけるために海の中に音波を発生させる装置です。一部の海洋生物はソナーの音波の影響を受けるらしいので、ソナーを使って海王の気をこちらに引きつけるです。」
もはや俺より現代兵器や装置に詳しいようなので、何も言わない事にした。
「ソナー打て!」
『カーン!』
強烈なソナーの音波が発生した。
「ボエ〜〜〜!」
さっそく海王がソナーの音波に反応したようである。
「海王が、こちらに方向を変えて向かって来ています。」
「狙いどおりです。魚雷発射管に注水を開始するです。」
潜水艦の前の方から、ゴボリ、ゴボリと魚雷発射管に海水が満たされる音が聞こえてくる。
「注水完了しました。」
ふたたびサラが潜望鏡を覗いて、海王の位置を確認している。
「1番、2番魚雷、発射するです!」
「ファイヤー!」
『バシュッ! バシュッ!』
魚雷が続けて発射された音が聞こえてきた。
「海王に命中するまで30秒…、20秒…、10秒…」
レーダーを確認しているスケルトンが時間を読み上げる。
『ドゴーン!』
おそらく海王までの距離が近かったのだろう。
船内にまで、魚雷が爆発した音が聞こえた。
「魚雷命中しました!」
船内に安堵感が広がる。
「やったなサラ! 一発で当てるとはさすがだ。」
しかし、ふたたび潜望鏡を覗いたサラが「まだです!」と叫んだ。
レーダーを確認していたスケルトンも叫ぶ。
「海王、なおも近付いて来ています!」
「3番、4番魚雷の発射準備! 発射の指示を待つです。」
サラが潜望鏡を覗いたまま指示を出す。
しばらくすると、スケルトンから「魚雷発射準備完了」の声が上がるが、サラはなかなか発射の指示を出さない。
艦内が緊張に包まれる。
「海王までの距離1000メートルを切りました。」
「ボエ〜〜〜!」
「発射するです!」
海王が海上に顔を出して大きく咆哮を上げたタイミングでサラは魚雷発射を指示した。
「ファイヤー!」
『バシュッ! バシュッ!』
『ドッゴーーン!!』
今度の魚雷の爆発音は、すぐ近くで聞こえた。
潜水艦の艦内が大きく揺れる。
「魚雷命中しました。レーダーから海王の表示が消えました。」
レーダーを確認しているスケルトンからの報告で、艦内に「やったー!」という声が上がり、俺達はハイタッチをして喜んだ。
「サラ、良くやった。最後は危なかったな。」
「海王のウロコが思った以上に硬かったようです。最後は、海王がこちらに喰らい付こうと口を開けたところに魚雷を打ち込んだら、粉々に吹き飛んだです。」
「…そうか。いずれにせよ良くやった。」
海王が口を開けるのを待ってたなんて、いつの間にかサラは、かなり過激な性格となっていたようである。
「ところで、商船の方はどんな様子かな? 何とかしてニキと一緒に戻りたいんだが。問題はどうやって戻るかなんだよなぁ。」
俺がサラ達に戻る方法を相談していると、レーダーを確認していたスケルトンから声が上がる。
「商船が海賊船と思われる船に捕まったようです。」
「なんだってー?」
一難去ってまた一難のようだ。
………
・・・メアリー視点へ・・・
時間は商船からニキとリュウが落ちた時にさかのぼる。
「リュウー! ニキー!」
「メアリー危ない!」
リュウ達に手を伸ばそうとした私を、テッドが抱えるようにして、メインマストに押さえつけた。
「離してー! ニキとリュウは必ず連れ帰るってバッカと約束したのよ。」
「このまま海に飛び込んだらメアリーまでも死んでしまう! そんな事は、リュウ達だって望んでない。」
「メアリー! 冷静になるんだ。俺達に課せられた使命を忘れたのか?」
隣でメインマストにしがみついているマーティンも必死の形相で説得してくる。
私は、テッドとマーティンの顔を交互に見て、涙が溢れてきた。
二人の表情を見ればテッドとマーティンも辛いのは同じなのに、その気持ちを押し殺しているのは明らかだった。
「ごめんなさい、分かったわ。でも、今はまだ気持ちの整理ができなくて…。」
私は、メインマストにもたれてしばらく泣いた。
すると、嵐のようだった海が突然静かになったのだ。
「海王が離れて行くぞー!」
乗組員の一人が魔境の方へ遠ざかっている海王を指差して声を上げている。
指差す方を見ると、海王は咆哮を上げながら、猛烈なスピードで魔境の方へ進んでいた。
「今のうちに、魔境から距離を取るんだ!」
マリオが乗組員に指示を飛ばしている。
『ドゴーン!』
何かが爆発したような音がして、慌てて音のした方を見ると、小島のような海王が一瞬海から浮き上がり、火柱が上がったところだった。
いったい、この海で何が起こっているの?
全員が呆然として海王の方を見ていたら、突然、船尾の方に炎の塊が飛んできた。
『ドーン!』
炎の塊は船をかすめるように海上に落ち、大きな水柱を上げる。
「貴様らー! 船を止めろー!」
いつの間に近付いたのか、海王の様子に気を取られた隙に、反対側から来た海賊船がすぐ横にいて巨大な魔銃砲で威嚇していたようだ。
「変な動きをしたら、船ごと魔銃砲で焼くからなー! そのまま停船しろー!」
もはや海賊どもの顔まではっきりわかる距離となり、こうなってしまっては、どうしようも無さそうである。
商船が停船すると海賊船は横付けしてきて、武器を手にした海賊達が乗り込んできた。
私達は全員、縄で後ろ手に縛られて甲板に一箇所に集められている。
そして、最後にあの男も乗り込んできた。
「ダーッハッハッハッ! 皆さん、またまたお会いしましたなぁ。」




