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52 海賊船

 俺達は、パオロ商会の商船でリオの街を目指して、東に進んでいたところ、後ろから黒い帆船が追いかけて来ているのに気が付いた。


 マリオ達も何やら騒いでいる。

 望遠鏡で黒い帆船を見ていたマリオが、大声で「海賊船だぁー!」と叫び、船上は大騒ぎとなった。


 不安になった俺達は、乗組員達と話しているマリオに近付き何か出来ることはないか聴いてみる。

「マリオ、俺達にも何か出来ることはないか?」

「これから海賊船から逃げるから、柱とかにしっかり掴まっていてくれ。かなり揺れると思うから気を付けろ。」


「俺は風魔法が使えるから手伝うぜ。」

 マーティンがマリオに言うと、「それはありがたい。風魔法の推進機の方へ行ってくれ!」とマリオは船尾の方を指差した。


 俺達はメインマストの辺りに集まり、船から滑り落ちないように、近くの物をしっかり握る。

 すると、マリオとマーティンが船尾にある筒状の推進器で風魔法を起こしたようで、グンとスピードに乗った感触が伝わってきた。


「ニキ、大丈夫か?」

 俺は船酔いしているニキが心配になり、声をかける。

「ああ、今はあまり気持ち悪くない。」

 かなり揺れているものの、動いている船は船酔いがおさまるから不思議だ。


「海賊船との距離が開いてないわ。」

 メアリーが後ろを振り返りながら不安気に言う。

 確かに、先程とあまり距離は離れていないようだ。むしろ近付いているように感じる。


 マリオが船尾から俺達の方に慌ててやってきた。

「海賊船の方が早い。どうやら奴ら風魔法の推進機を二つ積んでるらしい。」

 マリオが望遠鏡で確認したところ、海賊船の船尾に筒状の推進機が二つ見えたようだ。


「危険だが左に進路を取って、魔境に近い海を進もうと思う。奴らも魔境の海は近寄らないからな。」

「海賊も近寄らない海って、何があるんだ?」

 マリオが不穏な事を言い出すから、俺は理由を聴いてみた。


「魔境に近い海は、海の魔獣の海王かいおうが出る事があるが、そう頻繁に出るもんじゃねぇ。一か八かの掛けになるが、海賊にただやられるよりはマシだ。」

 マリオはそう言うと、他の乗組員のところに行ってしまった。


「海王ってどんな魔獣なんだろうな?」

 ニキに聴くが、さすがのニキも首を捻っている。

 するとテッドが代わりに答えてくれた。

「海王は、その名のとおり海の王様だ。全身真っ白で、暴れ出したら大型の帆船も沈めるそうだぜ。海で最も会いたくない魔獣だな。」


「それって、白いクジラなんじゃないのか?」

 白くて大きい海の生き物といえば、シロナガスクジラが思い浮かぶ。


「クジラ? そんな生易しいもんじゃねえ。白い大鯰おおなまずの魔獣だよ。」

「ちょっと、ちょっと、鯰は水生の生物じゃなかったか? それに海の王様って名前を付けるのはどうかと思うが…」


「10年前に魔境ができた時に、何故か魔境の河口付近に白い大鯰が出没するようになったらしいぜ。なぜ海でも生きられるのか理由は分からん。」


 俺達がそんな話をしていたら、徐々に魔境が近くに見えてきた。

 なるほど、海賊船は魔境の近い海は嫌なのか、こちらに近付こうとはしない。

 しかし、こちらの船と並走するように進んでいるため、海賊船に進路を限定されているような形となっている。


………


 海賊船の上では、ブルーノ保安官が海賊のロドリゴに詰め寄っていた。

「奴ら魔境の方に逃げて行くぞ。ロドリゴ、早く追いかけろ!」


「ブルーノの旦那、これ以上魔境に近付くのは危険だ。大丈夫、心配しなくても奴ら慌てて戻ってくるから。もうそろそろ海王の住処だからな。」

 ロドリゴの言葉に、他の海賊達もニヤけている。


「そして慌てて戻って来たところを、魔銃砲の2、3発もぶっ放せば、奴らも白旗を揚げるだろうぜ。」

 ロドリゴはそう言うと、船に装備されている特大の魔銃砲を叩きながら逃げて行く商船を眺めていた。


………


 俺達が海賊船からかなり距離を取り、魔境に近い海を東に進んでいると、突然に、海上を聞き慣れない声が響き渡った。


「ボエ〜〜〜!」


 パオロ商会の商船上に緊張が走る。


 商船の左に見える魔境との間の海が大きく盛り上がり、真っ白い巨大な生き物が跳ねた。


『ドッパーーーン!』


 船が大きく揺れてまるで嵐に遭ったようである。

 頭上からは、海水が雨のように降り注いでくる。


「海王だぁー! 海王が出たぞー!」

 見張りの乗組員が声を張り上げると、鯰の魔獣である海王が再び浮上してきて、俺達の船と並んで進み出した。

 このパオロ商会の商船よりも大きな白い小島が、船と同じ速さで並走してくる。


 マリオが慌てて声を張り上げる。

「早く逃げないと、尾びれに当たって船が粉々になるぞー!」


「テッド、尾びれに当たるって、どういう事だ?」

「俺も詳しくは知らんが、クジラの尾びれは上下に振られるが、海王の尾びれは左右に振られるので、横に並ぶとその尾びれで船は沈められると聞いた事があるぜ。」


『ドドド〜〜〜』


 海王が尾びれを大きく振った事から、巨大な波がやってくる。


「海王の大波が来るぞー! 皆んな掴まれー!」

 船は巨大な横波を受けて、激しく左右に揺れる。

 俺達は、船から振り落とされないようにメインマストにしがみついた。

 海水が足元を川のように流れていくが、何とか皆んな堪えている。


「ボエ〜〜〜!」


「また来るぞー!」


 今度は更に大きな波がやってきて、船が大きく揺れて体が浮いた。

「あっ!」

 ニキの手がメインマストから離れて、宙を舞う。


「ニキー!」


 俺はとっさにメインマストを掴んでいた手を離し、飛び上がってニキの手を掴んだが、ニキと一緒に宙を舞った。

 そして、俺達はそのまま荒れ狂う海に投げ出され、海中に落ちてしまった。


「リュウー! ニキー!」

 遠くでメアリー達が叫ぶ声が聞こえるが、みるみる船は遠ざかって行く。

 船を追いかけるように海王も遠ざかり、徐々に海は静けさを取り戻していった。


「ニキ! 大丈夫か?」

 俺は抱えているニキに声をかけるが、ニキからは何も反応はなく、気を失っているようだ。


 そうして、波が収まるまでしばらく立ち泳ぎしながらニキを抱えていると、俺達を遠巻きにして大勢の人が浮かび上がってきた。


「ふふふふふ。助けてー。イヤー。ははははは。」


 どうやら人魚達に囲まれたようである。

 人魚達は、こちらを見てニタニタ笑いながら、徐々に近付いて来る。

 笑った口からは、サメのような歯が覗いている。

 人魚達は、近くで見ても美男美女ぞろいであるが、あの奇妙な声を出しながら近付いて来る様は、完全にホラーである。


 もう一刻の猶予も無いようだ。

 まったく気は進まないが、俺は観念して俺の船を取り出し、サラ達を呼び出す事にした。


「ストレージオープン! そして召喚サモン!」


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