51 初めての船旅
異世界の翌日、俺達はパオロの用意した商船に乗り込んだ。
商船には、マリオと俺達が助け出した獣人達が船員として乗り込んでいるようだった。
「マリオ自ら乗り込むなんて、良いのか? 危険かもしれないんだぜ。」
俺がマリオに聴くと、マリオはニヤリと笑う。
「だからこそ俺が乗り込むのさ。俺は風魔法が使えるからな。」
風魔法が使える事と船旅の安全と何の関係があるんだ?
俺が首を捻っていると、呆れ顔でマリオがため息をつく。
「おいおい、船に初めて乗るのか?」
「そうなんだ。はじめての船旅でドキドキするよ。夕べも興奮してよく眠れなかったし。」
横からニキが割り込んできた。
ニキは、内陸部のロドス城塞都市に住んでいたから、船旅は初めてらしい。
海を見て喜んでいたから、初めての船旅もうれしそうだ。
「それじゃあ仕方がない。帆船は風を帆に受けて進むのは分かるよな?」
俺とニキがうなずく。
「しかし、風は気まぐれだ。風が弱かったりしてあまり進まない事もある。そこでこの装置だ。」
マリオは、メインマストの後ろの船尾の方にある、大きな筒状の装置を叩く。
「風魔法で風を起こし、その風を吹き出して進むんだ。」
どうやら風魔法で風をジェット噴射のように吹き出して進むらしい。
水面を浮いて進むホバークラフトが、巨大なプロペラで起こる風で進んでいくが、あのプロペラの役目のようだ。
「ただし魔法を使うには魔石が必要だから、いざという時だけだがな。変な奴らが追いかけて来ても、逃げ切ってみせるぜ。」
マリオは自信あり気に胸を張ってみせた。
………
パイシースにある船会社の応接室には、ブルーノ保安官と船会社の社長がソファーにかけて向かい合っていた。
「奴らがリオへ行く船を調達しちまった。このままでは、サマル王国へ逃げられてしまうぞ。」
ブルーノ保安官は、かなり追い詰められた様子で話している。
「旅客船ではなく商船を使うとは、なかなかやりますな。」
「感心している場合じゃない。このままでは伯爵に説明できんし、き、貴様もただでは済まんぞ!」
船会社の社長はため息を漏らすと、手元にあったベルを鳴らす。すると扉を開けて人相の悪い大男が部屋に入ってきた。
「こいつは、海賊のロドリゴです。商船はこいつに始末してもらいましょう。」
ロドリゴはブルーノ保安官に軽く一礼すると、船会社の社長の横に立っている。
「海賊だと? 何で船会社と海賊が一緒になってるんだ。」
「我々は持ちつ持たれつの関係なんですよ。旅客船が襲われるより金を与えた方が良いし、こんな時にも重宝しますからね。」
海賊のロドリゴが凄みのある声で話しだす。
「心配すんなよ、商船なんかは俺達のいいカモだぜ。ところで、捕らえた船や積荷、乗組員はこちらで好きにしていいんだよな。」
「ああ、どう売りさばいてもかまわん。」
「ちょっと待ってくれ。」
ブルーノ保安官が慌てて話に割り込んでくる。
「サマル王国から来た保安官達は、必ず始末してもらう必要がある。」
「チッ、面倒くせーな。」
「ワシもお前達の船に一緒に乗り込むから、奴らを始末するのを優先しろ。その後は、どうしようが構わん。」
「ああ、分かったよ。」
海賊のロドリゴは、渋々頷いていた。
………
俺達は、無事にパイシースの港を出港し、海上を進んでいく。
船は、東に進路を取りサマル王国のリオの街を目指している。
天候にも恵まれて波は穏やかで、青空と青い海が広がっていて、白い帆船とのコントラストが美しい。
「うひゃー! 気持ちいい〜。」
ニキが海や空を見上げて感嘆の声を上げる。
メアリー達も潮風に髪をなびかせて、気持ちよさそうである。
「あっ! イルカだ!」
ニキが指差す方向を見ると、イルカの群れが近付いてきて、船の前を先導するように泳いでいく。
「この辺りに出るのはイルカとか可愛いものだが、この先は人魚が出るから気をつけろよ。」
皆んなでイルカの群れを見て、ほのぼのしていたら、マリオが妙な事を言い出した。
「人魚がいるのか? 気を付けろって?」
「もう少し行くと半島沿いに進んでいくんだが、半島が魔境になっているのは知ってるよな。」
確か10年前の戦争で半島の付け根が魔境になって、半島の先端のリオの街だけが助かったとマーティン達に聞いた。
「魔境は、海の中にまで広がってるらしくて、半島に近付くと海の魔獣が出るんだ。」
「すると、人魚も魔獣の一つなのか?」
「ああ、船の上にいる分には大丈夫だが、海に落ちると奴ら襲ってくるからな。くれぐれも船から落ちないように気を付けろよ。」
そんな話をしながら船が進んで行くと、遠く左手に半島らしきものがみえてきた。
すると、いつの間にかイルカ達はいなくなり、左前方に人が浮かんでいるのが見えてきた。
しかも、その浮かんでいる人達は、船に向かって手を振っている。
「こっちよー。」
「助けてくれー。」
「ふふふ。ははは。」
「人魚が出たぞー!」
見張りの船員が大声で注意を呼びかける。
人魚達は、船と並走するように泳ぎ、乗組員達に手を振ったり微笑んだりしている。
マリオから事前に聞いてなかったら、海に飛び込んで助けに行くところだ。
「マリオ、なぜ人魚は言葉を話せるんだ?」
「おそらく、人を襲った時に聞いた言葉を、おうむ返しに話しているだけだと言われていて、人魚達は意味を理解して話している訳ではないらしい。」
人魚をよく観察すると、性別は男と女の両方いるようで、男も女も長髪で肌の色は白く上半身は裸である。
いずれも美男美女といった感じであるが、笑った時の口から見える歯は、まるでサメの歯のように三角形に尖っている
あの歯で食いつかれたら、かなりやばい事になるのは間違いない。
海面から船の看板までは3メートル程の高さがあるので、海に落ちなければ大丈夫ではあるが。
俺の横で、ニキが船の手すりから身を乗り出して、海面を見ている。
俺は慌ててニキの肩に手をかけた。
「それ以上、身を乗り出すと危ないぞ。」
船の下では人魚達が「こっちよー、ふふふふ。助けてー、ははは。」とニキを引きずり込もうと手を振っている。
「ニキ! しっかりするんだ!」
「おえ〜〜〜。」
ああ、…船酔いか。
俺はニキの背中をさすり、スッキリさせた。
真下にいた人魚達が慌てて海に潜っていく。
魚みたいに、エサは何でも良い訳では無さそうだ。
「ニキ、海面を見ずに出来るだけ遠くの景色を見るんだ。そうすれば、少しは船酔いがおさまるから。」
船旅が初めてのニキは、船酔いを知らなかっただろう。夕べも興奮して良く眠れなかったと言っていたな。
「ごべんなざい。ぎもぢがわるぐで…。」
「いいんだ。最初はそんなもんさ。ほら遠くの景色を見な。」
ニキの背中をさすりながら、遠くの景色を眺めていると、さっき海に潜っていた人魚達が戻ってきた。
「やめろー。」
「殺してやる。」
「ウガー!」
なぜか言葉遣いが、さっきと違うような…、人魚達の表情も荒々しいものに変わっている。
言葉の意味は分からないはずだが、言葉が通じなくても何となく悪口とかは分かるというやつだろうか。
すると、遠くを見ていたニキが船の後ろの方を指差している。
「リュウ、船が近づいてきている。」
俺もニキの指差す方を見ると、何やら黒い帆を上げた帆船がこちらに向かっているのが見えた。
その黒い帆船を見ていると、何やら胸騒ぎがするのだった。




