49 番外編 それぞれの休日
俺達はパイシースの港町で、次のリオの街へ行くための船が見つからず、じたばたしてもしょうがないって事で、のんびり過ごす事にした。
そうと決まれば、ニキが黙っていない。
「海、海、海に行きたい!」
宿屋の主人に聞いたところ、パイシースにはカサンドラ共和国有数のビーチがあるとの事。
俺達はニキの希望を叶えてあげる事にして、皆んなで水着を購入してパイシースのビーチにやって来た。
大勢の異世界人でビーチは賑わっている。
水着の種類や色合いは、異世界も同じようなもので、大きな差異はない。
男達の水着はハーフパンツで、特に詳細を説明する必要は無かろう。
なお、俺は胸や背中の竜紋をあまり見せたくないので、白いTシャツを着ている。
メアリーの水着は、シンプルな三角ビキニという、胸の布地が三角形の形をしたビキニタイプの水着で、色はシックな黒である。
そして大きなつば広の、女優が被るような帽子を被り、薄手のカーディガンを羽織っている。
さすが貴族というか、メアリーによく似合っている。
ニキは、バンドゥビキニで、胸の部分が横長の帯状で、花柄の可愛いビキニである。
「ヤッホー!」
さっそくニキは海にかけて行った。
メアリーは、ニキの保護者のように海辺に行き、ニキの様子を見ている。
男達3人は、そんな女性陣の様子を見ながら、ビーチパラソルの下でリクライニングチェアーに寝そべりビールを飲む。
これまで緊張の連続だった事もあり、こんな休日は大歓迎だ。
ここで俺はふとサラ達の事が思い出された。
そういえば、これまで無事に旅をして来れたのは、少なからずサラやスケルトン達の力によるところが大きい。
それなのに、俺だけがこんなリゾート気分を味わうのはどうだろう?
かと言って、スケルトンのサラ達に水着を着せる訳にはいかないし。
そこで、俺はメアリーの姿が目に入った。
別に、ニキみたいに海に入らなくても、潮風を受けて波打ち際を歩くだけでも、十分リゾート気分を味わえるのではないだろうか。
そうと決まれば、俺はサラ達を召喚する事にした。
俺は、マーティン達にトイレに行くと断って、ビーチから外れた岩場にやって来た。
ちなみに、岩場の先にもビーチが広がっているが、この辺りの砂浜はウニがたくさんいて、泳げないので誰も近付かないとの事。
しかもメアリー達がいるビーチからは、岩場が邪魔で見えない。
ちょうど都合がいい。
「召喚」
サラ達は船の修理中だったようで、全員が作業服に、溶接マスクを着用している姿で召喚された。
いきなりビーチに召喚されて慌てている。
「リュウ様、ここは?」
「ここはパイシースのビーチだ。今日召喚したのは、いつもサラ達には頑張ってもらってるから、ゆっくりしてもらおうと思って呼び出したんだ。」
「しかし、我々はスケルトンですし、海に入ると単に死骸が浮かんでるようにしか見えませんが。」
さっそく執事のセバスが突っ込んでくる。
「まあ、このきれいな景色を眺めながら、ビーチでゆっくりするだけでも楽しいかなって思ってな。」
「分かったです。リュウ様が私達の事を思って召喚していただいたのです。皆さん、今日はこのビーチでとことん楽しみましょう!」
「オー!」
サラの一言で、召喚した意味は理解してもらえたようだ。
俺は、夕方に向こうのビーチから戻る旨を伝えて、メアリー達の方に戻った。
………
俺はやれやれと思って、リクライニングチェアーに寝そべっていると、ニキが海からあがって走って来る。
「リュウ、ビーチバレーやろうぜ!」
「ビーチバレー?」
俺は異世界にもビーチバレーがある事に驚いた。
さっきまでは気付かなかったが、確かに砂浜にビーチバレー用のコートとネットが張ってあり、ニキはバレーボールを脇に抱えている。
「ビーチバレーか、久々にコートの魔術師と呼ばれた俺の技が披露できるな。」
マーティンが髪をかき上げながら立ち上がる。
「たまには体を動かすのも楽しそうだ。」
テッドもやる気のようだ。
「それじゃあ、やるか。」
俺がそう言うと、ニキは「そうこなくっちゃ!」と喜んでいた。
さて、異世界のビーチバレーとはどんなものかと思っていたら、基本的にルールは同じだが、魔法を使える点が異なっており、土魔法しか使えない俺は早々に得点係となってしまった。
試合はメアリーとニキのチームとマーティンとテッドのチームの対戦となっている。
「さあ、このサーブがとれるかな?」
マーティンはそう言うと、風魔法を込めたサーブを放つ。
ボールは強烈な風魔法がかかり、右へ左へと複雑な動きをしてメアリー達のコートへ。
「あわわわわ!」
ニキがフラフラしながら、何とかボールをレシーブすると、メアリーがかろうじて相手コートに戻す。
「ドッセーイ!」
ちょうど打ちごろで戻って来たボールをテッドが直接スパイクして得点となった。
マーティンとテッドがハイタッチしている。
ニキが「ちくしょう! こんなの反則だー!」と騒ぐが、マーティンは涼しい顔だ。
「魔法には、魔法で返したらどうだね。さあ次いくぞ。」
ふたたびマーティンから強烈なサーブが飛んできたが、わずかにコートから外れ、サーブ交代となった。ニキがサーブをするらしい。
「よーし、いくぞー。」
ニキが打ったサーブは、相手コートに入るものの、何の魔法もかかっておらず、易々とマーティンにレシーブされてしまう。
そしてテッドのトスでふたたびマーティンが強烈な風魔法のスパイクをするも、今度はメアリーがレシーブする。
なかなかの好ゲームである。
ニキのトスで今度はメアリーが火魔法が込められたスパイクを放つ。
「はぁーっ!」
ボールは燃えながらマーティンの元に。
「アチャチャチャ!」
マーティンは、果敢にもレシーブするが、燃えるボールに体が逃げてしまい、ボールはコート外に。
次もニキのサーブから始まり、テッドのレシーブがそのまま相手コートへ。
そして、ふたたびメアリーが火魔法のスパイクを放ったのと同時に、テッドがネット際で右足を踏み下ろした。
「ドッセーイ!」
すると、ネット際の砂が壁のように3メートル程盛り上がり、メアリーのスパイクをはじき返してしまった。
『ピピー!』
「えーと、今のはセーフなの?」
そう俺が尋ねると、テッドが「ただの土魔法を使ったブロックだ。」と答え、皆んな特に問題としていないようだ。
俺は試合続行を指示する。
そんなこんなで試合は進み、いよいよメアリー達のマッチポイントとなった。
ニキのサーブはあっさりとマーティンにレシーブされて、テッドのトスでふたたびマーティンの風魔法がかかったスパイクで決まるかと思われたが、マーティンは痛恨のミス。
「ああ〜、しまった!」
ボールは風魔法が込められたまま、フラフラと飛んで相手コートへ。
「もらったー!」
メアリーが火魔法を込めてスパイクすると、風魔法と融合して特大の炎がボールを包んだ。
「ドッセーイ!」
テッドが土魔法のブロックをするも、そのブロックを突き破って、テッドとマーティンを吹き飛ばしながらボールはコートに突き刺さった。
『ピピ〜!』
「勝者、メアリー、ニキ組!」と俺がコールしたところで、目が覚めた。
ふぅ〜、やっぱり夢だった。
俺はリクライニングチェアーから体を起こすと、太陽はかなり傾いていた。
ビーチバレーのコートなどどこにもない。
ところで、皆んなはどこに行ったのだろう?
俺は人の少なくなったビーチを見回すと、メアリー達が岩場の方から戻って来るところだった。
ニキが俺の姿を見て、手を振り走って来る。
「リュウ、やっと起きたんだな。よく寝てたから、置いて行ったけど、あっちの岩場の向こうにスゲエもんがあるってんで見て来たんだ。リュウも見てこいよ。」
岩場の向こう?
嫌な予感しかしないのだが。
慌てて岩場の向こうに行くと、砂で出来た巨大な城や、ゴーレムが並んでいた。
そして、作業着に溶接マスクを被ったサラ達が観衆の賞賛を受けている。
何やってくれてるんじゃー!
俺はすぐに、観衆に手を振るサラ達を砂の城の陰に呼んで送還した。
サラ達は強力な土魔法を込めたらしく、しばらく砂の城はパイシースのビーチに残り、多くの見物客を集めたそうである。
番外編いかがでしたか?
次からは、第三章に入りたいと思います。




