48 港町パイシース
「わあ〜海だ!」
ニキが俺達の先頭を馬に乗り走って行く。
俺達が向かう先にはパイシースの港町が見えていて、その先には真っ青な海がキラキラと光っている。
ニキがはしゃぐ姿を見ていると、数々の妨害にもめげず、ようやくここまで来れたかと感慨深い。
俺は、ふと昨日の出来事を思い出していた。
………
昨夜の俺は、こっそりサラ達と合流して、ニューヨークに送還してからメアリー達に合流した。
サラ達から、人質奪還作戦は成功した旨の連絡を受け、ホッとしてメアリー達の下に向かった訳だが、メアリーの表情は優れなかった。
竜神様の教会に行くと、心配して一晩中祈りを捧げていたシスターが出迎えてくれ、獣人達を全員救出できた事に涙を流しながら喜んでいた。
そこで、サターン神教のカルロス神父が誘拐犯の主犯であった事、ブルーノ保安官に殺された事などを聞くと、シスターの顔は一転して青くなっていた。
そして、精神的にまいってしまったシスターを寝かせて、俺達も仮眠してすぐにトーラスの街を後にしたという訳だ。
いつブルーノ保安官達の新たな妨害があるか分からない状況では、出来るだけ早くトーラスの街を出た方が良いとの判断である。
ところで、俺も教会で仮眠するとニューヨークの朝が始まった。
普通なら疲れて寝ていたいところだが、宇宙人のメンテナンスのお陰で、体力気力共に完全に回復しており、翌日に疲れを持ち越す事はない。
いつものとおり警察の仕事をして夜にゴードン工房に行こうと考えていたら、ゴードンからブルックリンの造船ドックに来てほしいとのメールが入っていた。
何事かと思い仕事が終わってからピックアップトラックを走らせ造船所に行くと、一つのドックの入口にゴードン工房用との立看板がしてある。
ドックの鉄製の扉を開けて中に入ると、何やら月明かりに照らされた真っ黒い船がドックに入っていた。
船の上では、溶接の火花があちこちで光っている。
「リュウ! ここじゃ、ここじゃ!」
ゴードンが手を振って呼んでいる。
ゴードンの横には、ニキ、エドガーとサラも立っている。
「ゴードンさん。こんなところに呼んで、どういう事ですか?」
「突然こんなとこに呼んでびっくりしたろう。お前さんのサポートのための新たな道具を用意しようと思ってな。」
「新たな道具?」
俺が首を捻ると、エドガーが代わって説明してくれる。
「リュウ君達一行は、次は船旅になると言ってたろう?」
「ええ、パイシースから船に乗って半島の先にあるリオの街を目指すって事でした。」
「もしも船の上で何かあったとしても、ゴーレムを出す事はできない。となると、安全に船旅をするには安全な船に乗るのが一番だろうと判断したのだよ。」
「…それで?」
「それでこの船だ! アメリカ海軍から払い下げてもらった潜水艦だよ。原子力ではなく、ディーゼルエンジンなのは残念だが、異世界のどの船よりも安全だろう。」
「…。」
「ワシが海軍の知り合いの提督に潜水艦で遊びたいと言ったら、魚雷込みで譲ってくれたんじゃ。やはり、持つべきものは友じゃなぁ。」
「ちょっと待てー! うちの海軍大丈夫かー! いやいや、そもそも潜水艦はダメだろう。」
「何がダメなの? やっぱりイージス艦の方が良かった?」
ニキが小首を傾げて不思議そうに聴いてくる。これの何が問題なのか分からない方が問題だと思うが。
「こんな船を異世界に持って行って、皆んなに乗れって言ったら誰でも驚くし、俺が異世界人だとバレるだろ?」
「意外にバレないかもしれないです。」
サラが思わぬ事を言い出した。
「異世界のニキさんなど、私のリュウ様の変装でもまったく気付かなかったくらいですから、案外変わった船だと言えば大丈夫かもしれません。」
「ニキでもあの変装はギリギリだったよ! むしろかなり疑われてたし。それよりも、こんなのどうやって異世界に持っていくんだ?」
すると俺を除く全員が顔を見合わすと、俺の顔をジッと見てくる。
「そこはリュウのストレージで運ぶしかないじゃろ?」
「いやいや、こんな大きな船が入るわけがない。」
「しかし、まだ限界を試したわけじゃない。良い機会だ、ここで試してみようじゃないか。」
エドガーがそう言うと、潜水艦の整備中だったスケルトン達に潜水艦から降りるよう指示を出していく。
スケルトン達は、皆んな作業服を着て、溶接マスクを頭に乗せて潜水艦から降りてきた。溶接マスクは、鉄板の溶接の際に出る火花から目や顔を守るあれだ。なんか、皆んないいように使われて申し訳ない気持ちになる。
まあ、そもそも溶接マスクが必要なのかという問題はあるが。
「さあやってみたまえ!」とエドガーが言うので、俺は渋々呪文を唱えた。
「ストレージ収納!」
結果は潜水艦は俺のストレージに収納された。俺のストレージには、本当に限界がないらしい。
まあいいか。…いや良くない。
俺は、ふたたびストレージから潜水艦をドックに戻すと、「いける、いける!」と頷き合っている皆んなに釘を刺す事にした。
「とにかく、こんな船などダメだ! 船を用意するにしても、向こうの世界に合わせた帆船とかにしてくれ!」
「リュウ君は知らないかもしれないが、帆船の操縦は長年の経験が必要で、かなり難しいんだよ。」
「そこは、潜水艦でも同じじゃないのか?」
「リュウ様、潜水艦の操艦は、おおむねマスターしたです。」
「そう、うちにはサラ君という天才がいるから心配無用だよ。分厚い説明書をあっという間に読破したからね。」
「いずれにせよ、帆船にしてくれ! エンジン積んでスクリューを回すとかあるだろ? 船を動かす動力は何でもいいので、海から上に出ている部分は帆船にしてくれ。」
俺を除く全員で「意外に頑固」とか「異世界かぶれ」とか小声でささやき合っている。
「そこ! 聞こえてるから。とにかく、異世界に合わせて、リアリティのある物で頼む。」
俺がそう言うと、皆んな渋々了解していた。
かなり心配だ。
………
パイシースの街へ到着すると、マリオは獣人達を連れて商会に戻ると言い、そこでお別れとなった。
笑顔で手を振る獣人達を見ていると、少しの幸せと達成感を感じる事ができた。
「さあ、私達も明日リオに行く船を予約したら宿屋を探しましょう。」
メアリーがそう言うと、ニキがすぐに反対する。
「ええー。せっかく海に来たんだから、ちょっと遊ぼうよ〜。」
「ニキ、ここはカサンドラ共和国なのよ。遊びたい気持ちは分かるけど、早くサマル王国に戻った方が安全なの。」
「そうだな。いつまたブルーノ保安官が邪魔してくるか分からないからな。」
俺もメアリーに賛同すると、ニキは渋々頷いていた。
パイシースの港には、たくさんの帆船が浮かんでおり、青い海に白い帆船が映えて美しい。
ここに真っ黒い潜水艦が並んでいたら、違和感しかないだろう。反対しておいて良かった。
パイシースで旅客船に乗るには、船会社で予約をする必要があるそうで、俺達は早速パイシースの船会社を目指した。
………
「残念ながら、あんた達を乗せられる船は無いね。」
俺達は、船会社の受付の男の言葉に驚いた。
「それはどういう事なの?」
メアリーが慌てて聴いている。
「悪く思わんでくれ。上の方から、あんた達サマル王国の保安官は船に乗せるなと命令されてるんでな。」
「それじゃ、あなたの上司に合わせてちょうだい。私達は、カサンドラ共和国の許可証を持っているのよ。」
受付の男は、厄介な事になったとぶつぶつ言いながら、「今日は誰もいない。どうしても聴きたいなら、明日また来るんだな。ほら、もう邪魔だから、どっか行ってくれ。」と言い、俺達は追い払われてしまった。
船会社を追い出され、全員で顔を見合わせため息をついた。
「この様子だと、パイシースの全部の船会社が同じだと考えた方が良さそうだな。」
マーティンの言葉に全員が頷く。
とりあえず、明日他の船会社に当たってみようという話になり、今日は宿屋でゆっくりする事になった。
ニキは、少し嬉しそうだった。




