47 仲間割れ
メアリー達は、トーラスの墓地の入口の方から墓を一つ一つ扉を開けて中を確認していく。
すると、だいたい墓地の中頃まで来たところで、墓地の奥の方から捕らわれていたはずの獣人達が一人、また一人と現れた。
パイシースから来たマリオが、獣人達とハグをすると、肩を叩いて無事を喜んでいる。
「無事だったか、良かった。しかし何で解放されたんだ?」
「それが俺達も分からねえんだ。気が付いたら、墓の外に寝ていて。しかも足腰立たねえほど痛めつけられたはずなのに、どこも痛くねえ。」
「それで、何でニキは背負われてるんだ?」
ニキは獣人の一人に背負われており、気を失っているようだ。
「墓の中を松明がゆらゆら動くから、そっちに向かって行ったらこの子が倒れてたんだ。」
ニキを背負った獣人が説明してくれる。
「いずれにせよ、捕らわれた獣人達が全員見つかって良かった。誘拐犯達が気付かない内に、早くこの墓地から脱出しよう。」
………
サラ達は、ニキが獣人に背負われて行くのを見届けると、墓地の一番奥の壁際まで移動していた。
隣に立つ執事のセバスの背負った野外無線機からは、他の獣人達も捜索に来たメンバーと合流しているとの連絡が次々に入ってくる。
一方で、捕らえた殺し屋は、全員拘束して近くの墓の中に入れた旨の連絡も入ってくる。
目が覚めたら驚くだろう。
そのうち、スケルトン兵士達は全員がサラの下に戻って来て整列した。
「皆さんの奮闘のおかげで、人質奪還作戦は無事に成功したです。しかし、一つの勝利に一喜一憂する事なく、さらに訓練に励み、さらなる高みを目指すです!」
サラの訓示にスケルトン兵士達は「おー!」と右手を上げていた。
………
メアリー達が墓地の入口に近づくと、松明を持ったカルロス神父と十数人の男達が一緒にいるのが見えた。
サターン神教の信者の人達だろうか?
それにしては、人相の悪い男達が大勢いるように見える。
メアリーは悪い予感がして、マーティンに合図して、皆を止らせて自分だけカルロス神父の下に歩いて行く。
「メアリー殿、お疲れ様です。おや、他の皆さんも。獣人達は見つかりましたかな?」
「ええ、なんとか全員見つける事ができました。」
「もう全員を⁉︎ ほう、思った以上に皆さん優秀だったようですね。」
メアリーは、カルロス神父の不穏なセリフに怪訝な表情となった。
「しかし、それもこれまでです。皆さんには、ここで死んでもらいます。」
「どういう事だ?」
「おやおや、まだ気付かないのか? 俺こそが獣人達の誘拐犯のボスなんだよ。昼間はサターン神教の神父、夜は犯罪組織のボスってね。」
「なんだと? それじゃあ、私達にわざわざ獣人達の居場所を知らせたのはなぜだ?」
「ふっふっふっ、それはある方からの依頼でね。あんた達を始末するために一芝居打ったのさ。こちらもいろいろ都合ってもんがあるんだ。さあおしゃべりはお終いだ。みんなやっちまえ! どうせコイツらは、足手まといの獣人達を抱えてまともに戦えまい。」
カルロス神父の後ろにいたゴロツキ達が、ヘラヘラ笑いながら前に出てきた。
手には大ぶりの剣を持っている。
「殺しちまう前に、ちょっと楽しんでもいいんじゃないか?」
「ヒャーハッハッ! そりゃいいや!」
メアリーが一歩後退るのと同時に、メアリーの背後から雄叫びが上がった。
「ウォー!」
先程メアリーに言われ、後ろの暗がりで待機していたテッドや獣人達が一斉に走り出し、メアリーを追い越して行く。
「ど、どういう事だ? 獣人ども、みんな元気だぞ?」
不意をつかれたゴロツキ達は、棒立ちになってしまっている。
「貴様らかー、犯人はー!」
マリオがそう叫ぶと、獣人達は次々にゴロツキ達に飛びかかり、殴り倒していく。
熊型の獣人に殴られたゴロツキは、空中で回転しながら3メートル程も飛んでいく。
獣人族の腕力は、人族とはまったく違っていて、犬型の獣人でも屈強な冒険者並みにあり、狼型や熊型の獣人に至っては、人族のほぼ倍くらいの力があるので、人族が殴られると面白いように飛んでいく。
「そ、そんなバカな!」
カルロス神父は、予想外の展開にワナワナと手を震わせ、慌てて逃げ出そうとするが、テッドがその肩をむんずと掴んだ。
「逃すかよ!」
テッドはそう言うと、カルロス神父のみぞおちに強力なボディーブローを放つ。
「ガハッ!」
カルロス神父はテッドのボディーブローにたまらずその場にうずくまり、動けなくなった。
「な、何で獣人達が動けるんだ。か、回復魔法が使える奴が他にもいたのか?」
カルロス神父はメアリー達を見上げると、絞り出すようにつぶやく。
「そうなのね。リュウを竜神の教会に向かわせたのは、あなたの策略だったのね。」
カルロス神父は、苦悶の表情でメアリーを見上げている。
「獣人達がなぜ回復したのかは知らないわ。もしかすると、ここに眠るカサンドラの兵士達があなた方の非道なやり方に怒り、私達を助けてくれたのかもね。」
「そ、そんなバカな。」
「世の中には、たまにそういう奇跡が起こるものよ。」
メアリーはそう言うと、獣人達を振り返り、声を張り上げた。
「あまりやり過ぎてはダメよ。誘拐犯達はロープで拘束して、ここの保安官に引き渡すわ。」
マリオがストレージからロープを出すと、獣人達は犯人達にロープをかけていく。
さすが商会で働いていただけあり、手際が良い。
犯人達の拘束があら方終わったと思った時に、墓地の扉が勢いよく開き、大勢の保安官がなだれ込んできた。
しかも先頭にはブルーノ保安官がいて、大きく声を張り上げた。
「誘拐犯ども、大人しくしろ!」
メアリー達は、ブルーノ保安官の突然の登場に驚き固まってしまったが、気を取り直してメアリーが前に出る。
「これはブルーノ保安官、キャンサーの魔境の中以来かしら?」
「おおー、これはメアリー保安官殿。キャンサーの魔境の中? 何の事ですかな?」
ブルーノ保安官は、シラを切るつもりらしい。
「それより、ワシらは獣人達を誘拐した犯人がここにいるという情報を得て、駆けつけたのですが?」
「それなら、すでに私達が捕まえて拘束しています。」
メアリーが後ろを振り返り、拘束されている犯人達を指さした。
すると、後ろ手に縛られたカルロス神父が立ち上がりニヤリと笑うと、ヨロヨロとブルーノ保安官の方へ歩いていく。
「いやぁ助かりましたブルーノ保安官。危うく犯人にされるところでしたよ。」
メアリー達の顔が曇る。恐らくカルロス神父とブルーノ保安官はグルだからだ。
「ブルーノ保安官、その神父は…」
メアリーがブルーノ保安官に声をかけようとしたその時、突然、ブルーノ保安官は腰に下げたサーベルを抜くと、カルロス神父の左肩から右脇腹にかけて切り裂いた。
「ぐわー! き、貴様、う、うらぎり…」
カルロス神父は絶叫し、最後は何かをつぶやくようにして絶命した。
皆その様子を呆然として見ていたが、メアリーが我にかえり、ブルーノ保安官に詰め寄る。
「ブルーノ保安官! いったいどういう事ですか!」
「こやつは獣人達の誘拐犯として生死不問で指名手配されておりましてな、このような悪党は言い逃れせぬよう殺してしまうのが、カサンドラ流なのです。サマル王国の保安官にはちと刺激が強かったですかな? ダーッハッハッハッ!」
メアリーは怒りに震えたが、もはや何を言っても手遅れと思い、この場を出て行く事にした。
「それじゃあ、皆んな帰るわよ。ブルーノ保安官、犯人達のことよろしくお願いします。」
メアリーが、サーベルを鞘に戻したブルーノ保安官の脇を通り過ぎようとした時、ブルーノ保安官が笑いながら話しかけて来た。
「いやぁ〜お手柄、お手柄。さすがはメアリー保安官殿。」
そうしてメアリーに顔を近付けると、誰にも聞こえないようにささやいた。
「いつまでも、幸運が続くと思うなよ。」
メアリーは、前を向いたまま一瞬目を大きく見開いたが、すぐに普段の表情に戻り、前を向いたままつぶやいた。
「あなたの悪運もいつまで続くかしら? 勝ったのは私達よ。」
ブルーノ保安官は、メアリー達全員が墓地を出て行くと後ろを振り返り、先程の笑顔とは異なり、怒りの表情でメアリー達の方を睨みつけた。
「小娘がぁ〜! 次は必ず始末してやるからな!」




