45 判明した獣人達の行方
異世界の翌日、俺達はトーラスの街を攫われた獣人達を探し回った。
トーラスの街は、キャンサーの街と同じくらいの大きさだが、人口はそれなりにありそうである。
街で獣人を見かけると、声を掛けていくのだが、攫われた獣人の情報は見つからない。
街の奴隷商は、昨日パイシースのマリオが全部の店を確認したとのことで、そちらからの手掛かりも得られそうにない。
俺達はサマル王国の保安官ではあるが、ここカサンドラ共和国には捜査権が無いから、建物内への強制的な捜査はできないことが歯がゆいところだ。
結局、俺達は何の手がかりも得られず、再びトーラスの街の南側の外れにある教会に戻ってきた。
「いったいどこに連れて行かれたんだろうな。」
ニキが心配顔でつぶやくように話し出すと、マーティンも口を開く。
「奴隷商人のところへ連れて行かれてないなら、どこかに監禁されているのは間違いないが…。」
すると、教会の外から「すみません。よろしいかな?」という聞き覚えのある声が聞こえてきた。
カルロス神父である。
早速シスターが扉を開け、中に招き入れた。
「こんな夕暮れ時に来てすみません。実は、急いでお願いしたい事があって来ました。」
カルロス神父は、額の汗を拭いながら息を整えるようにして話し出した。
どうやら、街の北側にあるサターン神教の教会から走ってきたようである。
「まあ、どうされたのですか?」
シスターも驚いているようだ。
「実は、教会の裏の墓地を見て回っていましたら、墓地の中を街のごろつき達がうろついてましてな。」
俺達は頷きながらも、墓地を不良どもがうろつくのはよくある事と思いながら聞いていた。
「注意しようと思い、墓の陰から近づくと、そいつらが『獣人ども10人は、墓場の中にバラバラに隠した。明日の朝早くに出荷するから、今日は早く帰って寝よう。』と話していたんです。」
「えっ!」
その場にいた全員が、驚きの声を上げた。
早速マリオがカルロス神父に詰め寄る。
「獣人は10人と言っていたのですね!」
「ええ、確かに10人と言っておりました。」
全員で顔を見合わせると、誰もが確信しているのが分かる。
俺達は、ついに誘拐された獣人達の手掛かりを見つけたのである。
しかしここで俺は、少し不思議な事に気がついた。
普通、墓地にある墓は、地面に大きめの石が置かれているとか、石が立ててあってもせいぜい膝の高さまでしかなく、遠くまで見通せるのだ。
そんな場所のどこに獣人を隠すというのか?
「あの〜、ちょっと聞いていいか? 獣人を墓地に隠したというが、墓地を見てまわればすぐに見つかるんじゃないか?」
「ああ、皆さんは、サマル王国から来られたのでしたな。ここトーレスの墓は、一つ一つが小さな小屋くらいの大きさがありましてな、その小屋のような墓の中に棺を並べるのです。棺はいくつも並べられるよう空間が作られていて、夫婦や家族で入れるようなっているのです。」
どうやら、アメリカのニューオリンズにあるラファイエット墓地のような一つ一つが大きな墓が並んでいるらしい。
そして、10人の獣人達はその墓のどれかに拘束されて隠されているという事のようだ。
「ちなみに、その墓の数はどれくらいあるんだ?」
「そうですね、500から600基くらいはあるかと。」
それだけの数の墓の中を夜中に探し回るとなると、かなりの時間がかかるだろう。今夜中に見つけられるかどうか。
「街の保安官に頼んで、大勢で探せばいいんじゃないか?」
ニキの提案に俺達はなるほどと頷く。
「それはダメだ。この街の保安官は信用できねえ。」
そうマリオが言うと、カルロス神父も同意する。
「そうです。残念ながらこの街の保安官は、人攫い達とグルになっているという噂があります。保安官に通報すると、犯人グループに筒抜けになるおそれがあります。」
皆の間に沈黙が流れた。
「つまり、俺達でやるしかねえって事だな。」
テッドがそう言うと、全員が力強く頷いた。
「他国の保安官にお願いするのは、気がひけるのですが、何とぞお願いします。」
頭を下げるカルロス神父をメアリーが止める。
「我々は保安官として、かわいそうな獣人達を見過ごすことはできません。それが他国の事であったとしてもです。」
………
それから俺達は教会を出発し、街の北側にある墓地を目指した。
なお、シスターは子供達をほっとけないので、教会に残っている。
カルロス神父は、トーラスの街を北から南に縦断し、また南から北へと往復してもらったが、意外に健脚である事に驚いた。ちゃんと遅れずについてくる。
そうして、ようやくトーラスの街の北側にある墓地に到着した頃には夕日は沈み、辺りは真っ暗になっていた。
墓地の回りは2メートル程の高さの石壁に囲まれており、中はより一層暗くなっている。
カルロス神父が墓地の隣にあるサターン神教の教会から松明を7本持ってきて、それぞれに渡していく。
なお、カルロス神父は墓地の入口に残り、入口の見張りと、見つけた獣人の世話をする事になり、メアリー達やマリオはそれぞれバラバラに行動し、俺はニキと一緒に行動する事となった。
俺はニキの足元を見ると、足元がカクカク震えている。
ニキはスケルトンとか苦手で怖がりだから、夜の墓地は恐ろしいだろう。
「ニキ、竜神様にお祈りする時の言葉はないのか? それを唱えれば怖さも和らぐんじゃないか。」
「お、お祈りの言葉? そんなもんねえよ。」
ふむ、ここでアーメンは違うだろうし、何かないかと考え、俺はふと閃いた。
「ニキ、昔聞いた話を思い出したんだが、ある国の人々は竜神に祈る時に両手をすり合わせて『ナンマイダブ』って唱えるらしいぜ。」
確か、両親が旅行で行った竜神の絵がある日本の寺院で、そう聞いたと話していた。
「そうなのか? そりゃいいな。ナンマイダブ、ナンマイダブ〜。」
「それでは、各自で手分けして捕らえられている獣人を探そう。もしかすると見張りがいるかもしれないから、それぞれ十分注意してくれ。」
メアリーの合図でそれぞれが墓地へ分かれて捜索しようとしたその時、墓地の入口に見知らぬ男が駆け込んできた。
「大変だー! 竜神の教会でシスターが襲われた。」
カルロス神父が慌てて男から話を聞いている。
「どうしたというのです?」
「竜神の教会に街のごろつき供が難癖をつけてきて、それに抵抗したシスターが頭に大怪我をしたんだ。」
皆で驚いて顔を見合わせたが、ここは俺が行くしかないだろうと、俺はメアリーに頷いた。
「俺が行く。俺なら回復魔法で怪我を治せるからな。」
「リュウ、すまないが頼む。こっちは私達で何とかしよう。」
俺は、ふとニキを見た。ニキは「後は任しとけ!」と胸を叩くが、その足元は震えている。
ニキが心配だが、俺は竜神の教会に行かざるを得まい。
………
俺は墓地を出て、墓地の壁ぞいに裏側まで回ると、サラ達を呼び出した。
全員アメリカ陸軍みたいな格好をしており、目には暗視スコープを装着している。
えーと、どこの特殊部隊の人ですか〜?
「そういう訳で、俺はトーラスの街の南にある教会まで行く事になった。獣人達の救出は皆に任せる。できれば、仲間に気付かれないように頼む。」
「了解したです。」
サラはそう言うと、スケルトン達に向き直った。
「これから、人質奪還作戦を実行するです。墓の中を一つ一つ確認していき、獣人達が見つかれば、墓から出して見つけやすいところに寝かしておくです。怪我をしていれば、回復魔法を忘れないようにするです。」
「イエス、マム!」
「行くです!」
サラの合図で、スケルトンの一人が壁を背にして手で足場を作ると、次々にその足場に足をかけて、2メートル程の高さの壁を乗り越えていく。
そして、あっという間に壁の向こうに全員消えていなくなってしまった。
俺は、それを呆気に取られて見ていた。




