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44 悪だくみ

 俺達が教会の中で、サターン神教のカルロス神父から話を聴いていると、教会の外から獣人の子供の泣き声が聞こえてきた。


「ワー! 痛いよー!」


 慌てて皆で外に出ると、ウサギ型の獣人の女の子が、ひたいから血を流して泣いている。


「どうしたの! 何があったの?」

 すぐにシスターが獣人の女の子に駆け寄り、周りの獣人の子供達に聴いている。


「柵の外から、人族の子供達が私達をからかって石を投げたの。そしたら石がこの子の頭に当たって…。どうしよう、血が止まらない…。」

 周りの子供達も一緒に泣き出してしまった。

 既に人族の子供達は逃げてしまったようで、どこにも姿は見えない。


 俺は、メアリー達と顔を見合わせると頷き、右手に魔石を挟んだベルトを巻いた。


「どれ、お兄さんが見てあげよう。」

 俺はそう言うと、獣人の女の子の横にしゃがんで右手を額の傷に向けた。

「ヒール!」

 獣人の女の子の額の辺りが淡く光ると、染みるように消えていく。


「どうだい? もう痛くないだろう?」

 獣人の女の子はぐずりながらも、頷いている。


「か、回復魔法…。」

 カルロス神父が驚き、声を上げた。


 俺はカルロス神父に向き直り、「ええ、俺は回復魔法を使えるんです。」と説明すると、「そうでしたか…。」と言葉少なに答えた。幾分、顔色が悪いようにも見える。


「本当にありがとうございます! 何とお礼を言っていいか。」

 シスターも獣人の女の子を抱きしめたまま頭を下げてくる。


「こんな事ぐらい、どうって事ないよ。リュウにとっては朝飯前さ、気にすんなよ。」

 なぜかニキが自分がした事のように話す。


「そうだ、ドラゴンの肉が余ってるんだ。皆んなで食べないか?」

 俺は、地龍アースドラゴンの肉をストレージから出してみせる。

 キャンサーの獣人達に分けたが、まだここの子供達と食べるくらいは残っている。

 俺は、さっそく「バーベキューしようぜ。」と言い、教会の庭に土魔法でかまどを作っていく。

 獣人の子供達からは「やったー」との歓声が上がり、ようやく元気が出たようだ。


 俺は「そうだ、カルロス神父も一緒にいかがですか? 」と尋ねると、「いいえ、私はこれで。バーベキューは子供達とで食べてください。」と言い、シスターに挨拶すると帰って行ってしまった。


 ドラゴンの肉を串に刺して、ニューヨークで買ったハーブ入りソルトをまぶして焼いていく。

 うまそうな香りに子供達も「早く、早く!」と催促の声が上がる。

 焼き上がったものから子供達に渡してやると、早速かぶりつき「美味しい〜!」と歓声が上がった。


 そうして、皆でバーベキューを楽しんでいると、先程シスターのところに来ていた冒険者らしき男が現れた。

「やあ、これは賑やかだな! ちょうど良かった。魚を持ってきたから、一緒に焼いてくれないか?」


 その男は、歳の頃は30過ぎのがっしりした体格で、その顔は日に焼けてたくましさを感じさせるが、ひと懐っこい笑顔が印象的であった。


 するとシスターが紹介してくれる。

「こちら隣街のパイシースから来られたマリオさん。こちらは、サマル王国から来られた保安官の皆さんよ。」

「マリオだ、よろしく。パイシースの商会で働いている。」


 その後、全員で自己紹介した後、ニキがストレージから鉄板を出して、マリオが持ってきた魚も焼いていった。

 思わぬご馳走に、子供達も大喜びだ。


………


 楽しいバーベキューも終わり、子供達も教会の横の孤児院に帰った後、俺達はシスターとマリオに、これまでの旅の話を面白おかしくしてあげていた。


 するとシスターが「マリオ、この保安官達に昼間の話を相談してはどうかしら?」と言い出した。

 マリオは「うーん、そうだな。」と、しばらく考えていたが、俺たちの方に向き直り話し始めた。


「実は俺がパイシースの街からここに来たのは、うちの商会で雇っていた獣人達10人が誘拐されて、ここトーラスの街に連れ去られたという情報があったからなんだ。」


 俺達は驚き顔を見合わせると、ニキが声を上げる。

「そんなのすぐに保安官に言って、街中を捜索してもらえば良いんじゃないか?」


「サマル王国はどうか知らんが、カサンドラ共和国じゃあ保安官は、獣人達のために捜索なんかしてくれないよ。飼ってる犬猫の迷子と同じ扱いなんだ。それに10人も一緒に誘拐するなんて、警察もグルに決まっている。」


「誘拐した獣人は、どうなるんだ?」

 難しい顔をしたマーティンが尋ねる。

「奴隷にされて、売り払われるだろうな。だから、売り払われる前に見つけ出して連れ戻さないといけない。」


「しかし、どこにいるか分からないんじゃなぁ。」

 俺達の間にしばし沈黙が流れる。


「ここで話してても始まらない。明日、皆んなで手分けして探してみよう。」

 その晩は、メアリーの言葉で終わりにして宿に帰り、明日捜索する事になった。


………


 その夜、トーラスの街の北側にある墓地の横に建つサターン神教の教会の中では、カルロス神父とカサンドラ共和国の保安官の男が話をしていた。


「まさかキャンサーで失敗するとは思わなかった。あれだけゴーレムを用意したっていうのに。」

「ふっふっふっ、ただ力任せにやろうとするから失敗するんだぜ。ここを使わんとな。」

 カルロス神父は、自分の頭を指差しながら話す。声も話し方も昼間とは別人である。


「それで、どうするつもりだ。」

「誘拐してきた獣人達をおとりに使うつもりだ。」

「せっかくパイシースから誘拐してきたのに、連れて行かれたら大損じゃないか。」

「そんな考えだから、失敗するんだぜ。獣人達は足腰立たねえくらい痛めつけてある。そんな獣人達はただのお荷物だ。獣人達を連れて逃げようとするところを一網打尽にしてやるのさ。」


「しかし、あまり街中で派手にやるのはまずいぞ。」

「なぁーに、ここの隣の墓地で片付けてやるさ。幸いあそこは墓がびっしり並んで狭いから、ゴーレムは使えまい。」

「なるほど、それはいい。」


「しかし、それにはあの回復魔法を使う男が邪魔だ。まあ、方法はいくらでもあるがな。」

「クックックッ、これでようやくあの小娘を始末できるわい。ダーッハッハッハッ!」


………


 翌日、ニューヨークのゴードン工房に行くと、サラ達が俺達のキャンプ中の警備について反省会をしていた。

 警備隊長のディエゴがスケルトン達の前に立っている。


「初めての警備は、おおむね良くできたと思う。何か気になるところは?」

「はい! サバイバルナイフの切れ味が鋭かったです。」

 スケルトン達の間から「おお〜、確かに。あれは凄かった。」との声が上がる。


「はい! 夜の魔境の中は、見えにくかったです。少し危ない場面がありました。」

 スケルトン達の間から「確かに、俺もコボルトのしっぽ踏んづけちゃったよ。」との声が上がり、皆で頷いている。


 するとゴードンが「それなら暗視スコープを装着すれば良かろう。」と言い出し、「ゴードンのおじさま、それでは手配をお願いします。」とサラが締めくくった。


「それではリュウ様、次の警備の予定はいつ頃でしょうか?」

スケルトン達も期待のこもった目を向けてくる。


「え〜と、警備じゃないんだが、誘拐された獣人達を探すから、もしもの時の為に準備しといてくれ。」

「なるほど、皆さん次は人質奪還作戦です! しっかり準備するです!」

 サラが声を張り上げると、スケルトン達が「おー!」と右手を振り上げた。


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