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43 トーラスの街

 異世界の翌日、俺達は昼過ぎにトーラスの街に着いた。

 トーラスの街は、キャンサーの街と同じくらいの大きさの街で、やはり街を囲む城壁などは無い。

 ただ、街の北側に広大な墓地が広がっており、その墓地には高さ2メートル程の石壁があり、回りを囲んでいた。

 街の大きさに対して不釣り合いな大きさの墓地なのが気になるところだ。


 さっそく宿屋を見つけ、宿泊の手配をし、宿屋の主人に獣人の村の場所を聴く事にした。


「ご主人、すまないが獣人の村に行きたいんだが、場所を教えてくれないか?」

「獣人の村? そんなものはトーラスにはねえよ。」

「ない? それじゃあ、冒険者ギルドの場所は?」

「冒険者ギルドなら、魔境の近くだ。」


 これまで、どこの街でも獣人の村が近くにあったものだが、それなら獣人達はどこに住むのかと不思議に思いながらも、とりあえず冒険者ギルドで話を聴く事にした。


 魔境の近くにある冒険者ギルドに入ると、冒険者達が各パーティー毎にテーブルについて、酒を飲んだり、次の予定を話している様子が目に入る。

 獣人達の姿もちらほら見え、決して獣人がいない訳ではなさそうだ。


「獣人の村はねえって言ってたけど、獣人はいるんだな。」

 俺がそう言うと、ニキが目を輝かして言い出した。

「ここでは、人族と獣人族が仲良く暮らしているんじゃねえか?」


「ブフー! おいおい、そこのお嬢ちゃん、今なんて言った?」

 突然、近くで酒を飲んでいた冒険者が吹き出すと、俺達に話しかけてきた。


「トーラスでは、人族と獣人族が仲良く暮らしているんじゃねえかって言ったんだよ。」

「ワーッハッハッ! こりゃ傑作けっさくだ。」

「何がおかしいんだよ!」


「ハッハッハッ、こりゃすまん。お前さん達はどこから来たんだ?」

「サマル王国から旅して来たんだ。」

「あ〜、それなら知らないか。トーラスで獣人は奴隷なんだぜ。」


「えっ? ど、どういう事だよ。なんで奴隷なんかに…。」

「おっと、勘違いするんじゃねえぞ。まあここに座んな。説明してやるから。」


 俺達は、冒険者のおっさんから話を聞く事にした。

 このおっさんのパーティーなのか他に四人おり、うち一人は熊型の獣人である。


「お前さん達がサマル王国から来たっていうんなら、隣のキャンサーの獣人達も見たろう。あいつらはかわいそうに使い潰されてボロボロだ。」

 確かに痩せ細った獣人達の様子が思い出される。


「その点ここトーラスでは、獣人の奴隷制度があって、獣人達は誰かの所有物なんだ。わざわざ高い金を払って買うんだから、粗末には扱えねえよ。まあ、冒険者の場合は奴隷というよりは同じパーティーの仲間っていう感じだな。」

 そう言って隣に座っている熊型の獣人を見ると、その獣人も頷いている。

 確かにこの熊型の獣人は、がっしりした体格で健康そうである。


「食事や住む所も用意するし、もし他人の獣人にちょっかいを出す奴がいたら、俺達が黙っちゃいないって事さ。」


 なるほど、獣人を保護する目的で奴隷制度があるって事か。

 しかし何か腑に落ちない。ニキも難しい顔をしていて、とても納得しているようには見えない。


 すると腕組みして聞いていたマーティンが口を開いた。

「女子供の獣人はどうなる?」


「女の獣人は、大概が酒場のウェイトレスとかの下働きとして買われていくな。子供は、誰も買わねえよ。」


「ちょっと待てよ! 子供の獣人は、子供達だけで放り出されるって事か?」

 ニキが冒険者のおっさんに食ってかかる。


「いや、まあ、それはだな…。」

 冒険者のおっさんも困り顔である。


 すると隣の熊型の獣人が、ニキをなだめるように話しかけてきた。

「お嬢ちゃんは、俺たち獣人を大切に思ってくれてるんだな。お嬢ちゃんは竜神様を信じているかい?」

「あったりまえだ。サターンとかいう奴は嘘くさくて信じられねえ。」


「そうか、それならトーラスの街の南の外れに昔ながらの竜神様と精霊をまつった教会があるから、そこへ行ってみな。」


 どうやら、その教会で話を聴くのが早いとの事だった。

 俺達は、顔を見合わせて、さっそく街の南の外れにある教会を目指す事にした。


………


 その教会は、ロドス城塞都市のルース牧師の教会のように町外れにポツンと建っていた。

 教会の回りを木の柵で囲んであり、柵の中では獣人の子供達がたくさんおり、遊んでいるのが見える。


 俺達は獣人の子供達を横目に見ながら、教会の中に入ると、正面奥に竜神様の像が祀ってあり、その前に長椅子がたくさん並べられていた。

 その長椅子の一番前の席に、シスターらしき女性と冒険者のような格好をした男性が座っており、何やら話し込んでいるようだ。


 俺は呼び掛けてみた。

「すみません。ちょっとよろしいですか?」


 話し込んでいた二人は、ビクッとしてこちらを見ると、シスターらしき女性が立ち上がり、こちらへやって来た。

「この教会に御用ですか?」


「俺達はサマル王国から来た保安官なんだが、魔境の調査で魔境と獣人の様子を聴いて回ってるんだ。冒険者ギルドで、獣人の子供の事を知りたいなら、ここで聴くよう言われたんだが。」

「まぁ、獣人の子供達の事を?」


 シスターはそう言うと、奥の男を見た。

 すると冒険者らしき男は立ち上がり、「また来る。」と短く言い教会を出て行った。


「えーっと、良かったのか?」

「ええ、ちょうど話も終わったところでしたので。それで、子供達の何をお聞きしたいのかしら?」


「ここトーラスでは、獣人達は奴隷になっているが、子供達は行き先が無いと聞いたんだが、そうなのか?」

「ええ、残念ながらその通りです。ここでは、行き場のない獣人の子供達を預かる孤児院もやってるんです。」


「あんまりじゃないか! そんなの、酷すぎるよ。」

 ニキがたまらず声を上げる。


「本当に、ひどい話よね。でも、獣人達はそれぞれの場所で一生懸命に生きているわ。そして少ないけど、そんな獣人達を応援している人もいるのよ。そういった善意でこの教会は成り立っているのよ。」


「さっき会った冒険者達も、違う形で獣人達を応援している一人なんじゃねえかな?」

 テッドがニキを慰めるように言う。


「ただ、いずれにせよ根本的に解決しない限り、獣人達は奴隷として生きていくしかないぜ。」

 マーティンの一言に皆んなで頷いたところで、教会に新しい来客があった。


「ちょっとよろしいですかな?」

 来客は、神父の服を着た初老の男性であった。

 何やら大きな包みを担いでいる。


「あぁ、ようこそカルロス神父。」

「今日は、信者から頂き物が沢山あって、おすそ分けですよ。」

「まぁ、いつもすみません。」


 どうやら他の教会の神父が食料を持ってきてくれたようだ。


「お客様でしたかな?」

「ええ、こちらサマル王国から来られた保安官で、魔境と獣人の調査をされてるそうよ。」

「ほう、そうでしたか。私はサターン神教の神父のカルロスです、よろしく。」


 俺達はカルロス神父の挨拶にギョッとした。


「何だって! サターン神教だって?」

 さっそくニキがいきり立つ。


「誤解なさらないで。カルロス神父はサターン神教の神父ですけど、獣人の子供達の事を心配されて、こうやって支援してもらってるんですよ。」


「皆さんがご不審に思われるのはもっともでしょう。サターン神教は獣人を人とみなしていませんからな。ただ一部には私のような変わり者もいるという事です。」


 俺達は顔を見合わせると、とりあえずカルロス神父の話を聞く事にした。


「トーラスの街は、10年前のサマル王国との戦争で戦った兵士や家族が多く暮らす街だったのですよ。街の北側に大きな墓地があったでしょう。あれは死んだ兵士達を埋葬した墓地なんです。」


 そういえば、石壁に囲まれた大きな墓地があった事を思い出した。


「サターン神教の教会は、その墓地の隣にありましてな、本当は獣人の子供を当教会でも預かりたいのですが、隣が墓地では子供は怖がりますからな。それで、こちらで全部預かってもらってるんで、こうして食料などを持って来ておるのです。」


 俺達がカルロス神父の話に、なるほどと思いつつも、何か腑に落ちない気持ちでいると、外から子供達の泣き声が聞こえてきた。


「ワー! 痛いよー!」

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