40 敵味方入り乱れて
「ダーッハッハッハッ!」
ブルーノ保安官の下品な笑い声が聞こえる。
俺は慌てて、まだ燃えているゴーレムとストームキャットをストレージに放り込むと、ニキのゴーレムの後ろにあるかご型搭乗席に飛び乗り、サラを送還した。
この間、わずか数秒の早技で、獣人達を見ていたニキには気付かれてない、はずだ。
気のせいか、サラがニキの頭を鷲掴みして、こちらを見ないようにしていた気がする。
「ニキ、どういう事だ?」
「分からねえ。どうやら逃げたと思っていたブルーノ保安官が先回りしていたようだ。」
ついに、ブルーノ保安官のゴーレムと山賊のゴーレム4台が姿を現した。
「これはこれは、またお会いしましたなぁ〜。お仲間は、姿が見えないようだが、ストームキャットにやられたのかな?」
「メアリー達は、まだストームキャットと戦ってるけど、もうすぐ来るぞ。お前達は、とっととこの場から早く逃げたらどうだ? まったくとんだ保安官だぜ。」
ニキは怒り心頭である。
「それじゃあ早く済ましてしまおうか、お前達をぶっ殺してなぁー。こいつら獣人の命が惜しかったら、さっさとゴーレムから降りろ!」
ブルーノ保安官のゴーレムや山賊のゴーレムは、獣人達を囲んで剣を向けると、獣人達は、一箇所に集まり小さくなっている。
俺のゴーレムは燃えちまったし、また使えるか怪しい状況である。
もう残る手札はあれしかない。エドガーの新兵器がうまく行く事を願うしかあるまい。
俺はブルーノ保安官を睨んでいるニキに聞こえないよう、ディエゴ警備隊長とスケルトン兵士を呼び出した。
「召喚」
俺はニキのゴーレムの後ろに呼び出したディエゴ警備隊長らに目で合図すると、すぐさまディエゴ警備隊長と10人のスケルトン兵士は、剣と盾を構え「ワアー!」という雄叫びを上げながら、ブルーノ保安官達のゴーレムに向かって走り出した。
なお、ディエゴ警備隊長だけは、盾や剣は持たず、大きなハンマーを肩に担いでいる。
ニキは、ゴーレムの脇を駆け抜けていくスケルトン兵士に驚き「ギャー! スケルトンだー!」と叫んでいる。やはりスケルトンが苦手らしい。
しかし、ブルーノ保安官は「これはスケルトン兵士だ、落ち着いて討伐しろ!」と冷静に指示し、山賊達はゴーレムの盾と剣を構えた。
ところで、ただのスケルトンとスケルトン兵士の違いは、ただのスケルトンは骸骨のままでゾンビの様にウロウロするだけだが、スケルトン兵士は生きている兵士のように鎧を着て、剣や盾を持って襲ってくるという違いがあるらしい。
先頭で走っていたディエゴ警備隊長は、山賊達のゴーレムの一台に近付くと「そうらよ!」と言いながら、ゴーレムの前で、担いでいたハンマーを地面に打ち下ろす。
『ドン! モコモコモコ』
どうやら試作品では、エドワードのゴーレムのように地面から巨大なトゲは出ないらしい。
しかし、山賊のゴーレムの足下の地面がモコモコと盛り上がり、それに足を取られて一台のゴーレムが転倒した。
そして、半身型のゴーレムから投げ出された山賊が地面に転がると、スケルトン兵士が群がり、タコ殴りしている。
「あのスケルトン妙な武器を持ってるぞ! 皆んな注意しろ。」
さっそくブルーノ保安官が山賊達に指示を送っている。
ディエゴ警備隊長が「そうれ、もう一丁!」と別のゴーレムの足下にハンマーを叩きつけるが、山賊のゴーレムは慌てて後ろに下がっていく。
俺は、この混乱の隙を突いて獣人達を逃がそうと指示を出す。
「今のうちに逃げろ!」
獣人達は、一斉に国境に向かって走り出した。
ブルーノ保安官も「アイツらを逃すな!」と叫んでいるが、ディエゴ警備隊長がハンマーを連打するので、山賊達のゴーレムも前に行けず、戦いはこう着状態となった。
獣人達が逃げた道を守るようにニキのゴーレムが立ち、その前にディエゴ警備隊長らスケルトン兵士が並びブルーノ保安官達のゴーレムと戦っている。
「な、何でスケルトン兵士は、こっちに向かって来ないんだろな?」
「た、たまたま運が良いんだろ? ここは、こっちに気付かれないよう、そーっとしとこ。」
ニキは仕切りに首を捻るが、俺が召喚したとは口が裂けても言えそうに無い。
しかし、こちらの有効な武器はディエゴ警備隊長のハンマーひとつだけであり、少しづつ押され始めている。
ただ、山賊達のゴーレムでスケルトン兵士の体がバラバラにされても、すぐに骨同士が集まり復活している。
これがアンデッドの恐ろしさかと、妙に納得したその時、敵味方入り乱れての混戦の終わりは突然やって来た。
『ボン!』
俺達が戦っている場所の近くの木が突然燃えだしたのである。
全員がギョッとして火の付いた木を見ている。
『ボン! ボン!』
さらに、違う木も次々に燃え上がり始めた。
「フレアキャットだー!」
山賊の誰かが叫んでいる。
「なぬ? フレアキャット?」
ブルーノ保安官も胸部ハッチが無くなった操縦席から身を乗り出して辺りを見ているが、フレアキャットの姿は見えない。
ついに山賊の一人が「フレアキャットまで出てくるなんて冗談じゃねえ! 皆んな引き上げるぞー!」と言うと、ガッチャンガッチャン音を立てながらキャンサーの街の方に逃げ出した。
ブルーノ保安官も「ちょっと待て! お前ら約束が違うぞー!」と言いながら一緒に逃げて行く。
俺達がブルーノ保安官達が逃げて行くのを呆然として見ていると、魔境の木々を押しのけながら、メアリー達のゴーレムが現れた。
俺は慌ててディエゴ警備隊長達を送還しておく。
メアリー達がゴーレムから降りて「大丈夫か?」と聞いてきたので、「フレアキャットが近くにいる。」と伝えると、皆んなで辺りを見回した。
フレアキャットの姿は見えないが、仮にフレアキャットが襲って来たとしても、このメンバーなら問題なく討伐できるだろう。
「どこにもいないぜ。」とマーティン達からも見えないようだ。
ただ、メアリーだけが魔境の右手の少し丘になっている辺りを見つめており、その顔は少し驚いているようにも見える。
「何か見えるのか?」
マーティンがメアリーに問いかけると、ようやくメアリーの意識がこちらに戻ったようにこちらを見て「いや、気のせいだった。フレアキャットは見当たらない。」と首を振った。
その後、俺達はそれぞれの出来事について説明して、キャンサーの街に帰る事とした。
ちなみに、最初のストームキャットはメアリー達が無事に討伐したらしい。
逃げたブルーノ保安官が気になるが、山賊と一緒にいるところを見られており、迂闊には動けないだろうとの予想である。
もちろん獣人達も気になるところではあるが、後は自分達で運命を切り開いて行くしかあるまい。
腹も減ったので、キャンサーの街で何か食べようという話になったが、メアリーだけが一人で考え事をしたいと言い出して、別行動になった。
少し深刻な様子だったので、どうしたものかとも思ったが、そういう日もあるだろう。
………
キャンサーの街のとある酒場では、酒を飲んで出来上がった客達が騒いでいた。
その酒場のカウンターの片隅で、冒険者の格好をした一人の男がショットグラスで酒を飲んでいる。
男は、歳は50代前半で髪の毛にも白いものが目立っているが、体は引き締まり、眼は青く軍人のような鋭い眼光をしており、近付き難い雰囲気を纏っていた。
「ここにいたのね。探したわ。」
男の横に女性が立っている。
メアリーであった。
男は横に立つメアリーをチラリと見上げたが、また視線を前に戻して何も言わない。
「お久しぶりです。スペンサー伯爵。」




