39 魔境の中の攻防
俺とニキは、魔境の中を獣人達を護衛しながら北上する。もちろん俺はニキのゴーレムの後ろの搭乗席に乗って、辺りを警戒している。
キャンサーの街から離れたところまで行ければ、俺達の任務は終了だ。
ちなみに後ろの方から、メアリー達がストームキャットと戦闘中のようで、「ゴウアー!」というストームキャットの咆哮と『バリバリッ!』という森の木々をなぎ倒すような音が聞こえてくる。
ストームキャットとの戦闘音もかなり遠くに感じられ、このまま順調に行くかと思われたその時、ふたたびストームキャットの咆哮が響き渡った。
「ゴウアー!」
「ストームキャットだ!」
獣人の一人が上を見上げて叫んでいる。
「ニキ! さっきのやつか?」
「いや、さっきの奴よりデカい。もしかして番いか?」
どうやら、この辺りにはストームキャットが二頭いたらしい。もしかすると、番いかもしれないが、こっちの方が大きいとは最悪である。
「皆んな、先に行くんだ! 後ろは俺達が守る。」
俺はそう言うと、獣人達を先に行くよう誘導し、ニキがゴーレムの盾を構えた。
獣人達が先に行くのを見届けて、俺は躊躇せずサラを召喚する。もちろんニキには内緒でだ。
………
俺はサラと交代すると、少し離れたところでストレージからゴーレムを出した。
先日のフレアキャットとの戦闘で、炭素繊維のボディーは煤けたような黒になっていたが、今日は一段と黒光りしている。
おそらくサラやディエゴ達スケルトンが懸命にワックスがけをしてくれたおかげだろう。
まるで、大統領の専用自動車のような深みのある黒色をしている。
これを戦闘に使うのはもったいないような、サラ達に悪いような気がしてくる。
さっそくゴーレムに乗り込み、ニキとストームキャットとの間に躍り出ると、ニキが驚いていたが、構わずストームキャットに剣を振るう。
しかし、ストームキャットはヒラリヒラリとこちらの攻撃を躱して、全く当たる気がしない。
なんせ、風魔法の力で空中でも軌道を変えられるのだから手におえない。
そのうち、後ろのニキが魔銃砲を撃って、俺を援護してくれる。
援護は有り難いが、やけに火の玉が俺のゴーレムの近くに飛んできて危ないのだが。
………
・・・サラ視点へ・・・
私はふたたびリュウ様から召喚され、ニキさんの後ろの搭乗席に座った。
予定どおり、リュウ様がゴーレムに乗り込みストームキャットを攻撃している。
しかし、リュウ様の攻撃は当たらない。
風魔法で空中を移動するストームキャットに剣を当てるのは至難の技であり、やはりリュウ様のゴーレムの真価を発揮せねば、ストームキャットを仕留めるのは難しいだろう。
幸い、ニキさんのゴーレムには魔銃砲が装備されている。
「魔銃砲を使うです。」
ニキさんは「えっ?」と言うと、後ろを振り返り、私の顔をまじまじと見てくる。
こんな時に、こちらを見ているヒマは無いです。
私はニキさんの顔を両手で掴み、無理やり前を向かせると「魔銃砲を使うです!」ともう一度言った。
「な、なんかよう、またリュウが縮んじまったような…。て、手も骨みたいに冷たいような気がするんだ…。」
「気にしたら負けです! 魔銃砲です!」
私がふたたび強く言うと、ようやくニキさんが「わ、分かった。」と言って、魔銃砲をストームキャットに向けて撃った。
………
・・・リュウ視点へ・・・
やはり、ストームキャットにゴーレムの剣を当てるのは、難しいようだ。
ここで俺は、先日のフレアキャットとの戦闘で出来なかったゴーレムの物理耐性を試すことに決めた。
そうと決まれば、剣と盾をストレージに仕舞い、レスリングの要領でストームキャットに飛びかかり、後はタコ殴りするだけだ。
エアリーズのバトルトーナメントでの、マーティンとハンスの兄弟げんかのようなバトルが参考になる。
しかし、やけにニキの魔銃砲の火の玉が近くに飛んでくる。
そう思ってたら、ついにストームキャットが驚いたような顔でこちらを見て、動きを止めた。
ようやくストームキャットが隙を見せたのだ。
俺は迷わずゴーレムでストームキャットに飛びついた。
………
・・・サラ視点へ・・・
ニキさんの魔銃砲は、なかなかストームキャットにも、リュウ様のゴーレムにも当たらない。
ニキさんの魔銃砲は、ゴーレムの操縦席の横に装備されていて、ニキさんが銃の引金を引くと、小さなファイアーボールが『ドドドー』と3個連続で飛んでいく。
ストームキャットもファイアーボールを嫌ってか、リュウ様のゴーレムの陰になるよう移動している。
「もっと、ストームキャットを狙って撃つです!」
「でもよう、ストームキャットがあの黒いゴーレムの陰に入るから、これ以上は無理だぜ。」
「もっと黒いゴーレムのギリギリを狙って撃つです。」
私は、ニキさんの頭を後ろから鷲掴みにしたまま指示する。
『ドドドー』
「もっとギリギリを攻めるです!」
『ドドドー』
「攻めるです!」
『ドドドー』
「ああー! やっちまった!」
「やったです!」
ついにニキさんのゴーレムの魔銃砲から飛び出たファイアーボールが、リュウ様のゴーレムにヒットした。
『ボン!』
リュウ様のゴーレムが青い炎に包まれた。いえ、燃え上がった。
以前フレアキャットとの戦いで見た炎の3倍は、いえ5倍はありそうである。
そして、ストームキャットが驚き固まっている隙を逃さず、リュウ様のゴーレムがストームキャットに飛びかかった。
これぞ、阿吽の呼吸である。
………
・・・リュウ視点へ・・・
俺は、ストームキャットの一瞬の隙を逃さず、ストームキャットに抱きついた。
ストームキャットは、「ギャー!」と叫び必死に逃れようとするが、逃すものか。
俺は、ストームキャットに馬乗りになりゴーレムの下に組み敷くと、上からゴーレムの拳を叩きつけていく。
昔テレビで見た正義の味方の様に、拳が炎で包まれているようだ。
…あれ? 本当に拳が燃えてる?
このゴーレムにそんな機能があったっけ?
俺は、恐る恐るゴーレムの拳から腕、ボディー全体を確認すると、確かに尋常で無いほど燃えている。
既に、ストームキャットも俺のゴーレムの下で燃え上がり、どうやら息絶えているようだ。
「アチャーチャチャチャ!」
俺はゴーレムを慌てて立ち上がらせ、ゴーレムの両手や胸の炎を叩くが、全く消えそうに無い。
何かの火がついたと言うよりも、ゴーレムそのものが燃えているようである。
そのうち、操縦席の室温もみるみる上がり、中は蒸し風呂状態である。
何かの警告灯が点滅しており、俺は「消火装置は? 消火器の備え付けは無いのか?」と呟きながら消火方法を探すが、次第に煙がもうもうと立ち込め、とても探しているヒマは無い。
ついに俺はゴーレムの胸部ハッチを開き「アチャーチャチャチャ!」と言いながら、操縦席から外に飛び出した。
外の新鮮な空気を吸い込んで、ホッと一息付いて、ハッ! としてニキ達の方を恐る恐る見ると、ニキ達は魔境の獣人達が逃げて行った方を見ている。
そこには、逃げて行ったはずの獣人達がゾロゾロと戻って来ており、その先には複数のゴーレムが続いているようである。
あの下品な笑い声が遠くから聞こえてきた。
「ダーッハッハッハッ!」




