38 集団脱走
俺達はキャンサーの獣人達による、集団でのカサンドラ共和国からの脱出をサポートする事になった。
俺とニキは、早速キャンサーの街の宿屋に帰りメアリー達に相談した結果、夕方に食事に行くふりをして、獣人達の村へ行く事で話がまとまった。
ブルーノ保安官達の監視がされてないか心配ではあるが、幸いにキャンサーの街はロドス城塞都市の様な巨大な城壁が無いから、街のどこからでも外に出る事ができる。
夕暮れ時であれば、人の出入りも多そうなので、うまく紛れて行こうという話になった。
それから、夕方までのわずかな時間で、俺は宿屋の部屋でこっそりサラを召喚した。
「そういう訳で、キャンサーの獣人達の集団脱走をサポートする事になった。またゴーレムを使うかもしれないので用意しといてほしいんだ。」
「了解したです。例のマスクを被ってスタンバイしとくです。」
「…そ、そうか、そうだな、よろしく頼む。ところで、今度は大勢の獣人達を守りながらだから、警備隊長のディエゴ達も念のため準備しておくよう言っといてくれないか?」
「それでは、全員にあのマスクを被らせますか?」
「…いや、それだと俺がたくさん現れる事になるから、やめとこう。スケルトンのままで良いので、武装だけしといてくれ。」
「了解したです。ディエゴ達には、必ず伝えておくです。ところで、エドガー博士が新兵器の試作品を作ったです。」
そう言えば、エドガーが土魔法を使ったハンマーの武器を作るとか言ってたな。
「ゴーレム用のはまだですが、人が持つサイズの試作品ですので、ディエゴに持たすです。」
「さすがエドガーだ。もしディエゴ達を呼び出したら、試作品を試すチャンスになりそうだな。」
………
夕方、俺達はキャンサーの宿屋に夕食に行くと告げて外に出た。
周りに監視の目がない事を確認して慎重にキャンサーの街を出て、獣人の村を目指す。
「監視の目が無かったのは、意外だったな。」
マーティンが後ろを振り返りながら言う。
てっきり厳しい監視が付いていると思ったが、思い過ごしか?
「奴らが油断してるのなら、都合が良い。急いで獣人の村に行こう。」
メアリーもホッとしている様子である。
………
俺達が獣人の村に着くと、もう既に準備はできているようだった。
村長をはじめとする老人達と一部の者が村に残り、30人程の獣人の家族がエアリーズの獣人の村を目指すらしい。
獣人達は、旅立つ者と残る者が最後の別れを惜しんでいる。
「勝手ばかり言うてすまんが、みんなをよろしく頼む。」
村長がメアリーを拝むようにして、お願いしてくる。
「キャンサーを抜けるまで、必ず皆を守るから安心してください。」
村長は、その後も「すまない。すまない。」と何度もメアリーを拝むのだった。
………
いよいよ俺達は魔境に入ると、冒険者達に見つからないように少し魔境の深いところを北上していく。
普段ポーターなどをしている獣人が先導し、ゴブリンやコボルトが出てくると、ニキがゴーレムで一蹴していく。
そうして、魔境の中を順調に進んでいたところで、先導していた獣人が慌てて戻ってきた。
「この先にたくさんのゴーレムがいて、道を塞いでいる!」
俺達は、顔を見合わせて、そろそろと近付き薮の中から様子を伺うと、確かに半身型のゴーレム4台が並び、その後ろに全身型のゴーレム1台で道を塞ぐようにこちらを向いていた。
「どういう事だ? まさか、情報が漏れてる?」
俺達が慌ててどうするか相談しようとしたところ、半身型のゴーレムに乗った山賊のような風貌の男が声を掛けてきた。
「お前ら、そこにいるのは分かっているんだ。大人しく出てこい!」
どうやら、こちらが隠れているのもバレているらしい。
やむ無く、獣人達を藪の中に隠れているよう指示して、俺達が男達の前に出て行った。後ろから、ニキがゴーレムに乗ってついてくる。
山賊のような男達は、ニキの半身型のゴーレムを見ると、ニヤリと笑う。
「お前ら、獣人どもを連れて、コソコソ何処に行こうってんだ?」
俺達が顔を見合わせいると、メアリーが一歩前に出た。
「我々は、魔境の調査をしている保安官だ。お前達こそ、こんな時間に魔境で何をしている?」
「へっへっへっ、俺達は山賊だ。お前達はぶっ殺して、後ろの獣人は奴隷として売っ払うのさ!」
山賊はそう言うと、ゴーレムで前に出てきた。
すぐにニキのゴーレムが前に出て盾を構えると、山賊達は一斉に「うひゃひゃひゃひゃ!」と笑い出したが、メアリー達がゴーレムをストレージから出して乗り込むと、一瞬で顔色が変わり、後ろの全身型のゴーレムを見上げた。
山賊達の後ろには、テッドのゴーレムと同じくらい大型の、がっしりとした全身型のゴーレムがおり、盾は装備していないものの、巨大な両手剣を担いでいた。
その両手剣は、刃の長さが3メートル以上あり、幅も1メートル近くありそうで、どうやって振り回すのかと驚きの大きさである。
その両手剣のゴーレムは、両肩の辺りからプシューと蒸気を噴き出すと、ゆっくりと前に出てきた。
テッドのゴーレムも蒸気を噴き出しながら前に出て、巨大な盾を構える。
すると突然、魔境の中から「ゴウアー!」という咆哮が響いて、森の木々の上を何かが駆け抜けていった。
「ストームキャットだ!」
山賊の一人が上を見て叫んでいる。
俺達も上を見上げると、フレアキャット位の大きさの四本足の魔獣が木々の枝から枝へ、軽々と空を飛ぶように移動している。
メアリー達はとっさに後ろに下がり、獣人達を庇うように態勢をとる。
すると、ストームキャットは、テッドのゴーレムに向かって飛び掛かってきた。
テッドは、盾を前に出して構えると、ストームキャットは盾にトンと足をつき、また木の上に飛んで行く。
俺は、ニキのゴーレムの後ろの搭乗席に乗り「ストームキャットは、何であんなに身軽なんだ?」と聴くと、ニキは「ストームキャットは、風魔法の力で、空中を自由自在に飛び回るんだ。とにかく捕まえるのが難しい魔獣なんだ。」と教えてくれる。
次にストームキャットは、山賊の両手剣のゴーレムに狙いを定めたようで、そちらに向かって飛んで行く。
両手剣のゴーレムは、その巨大な剣を担いだまま蒸気を上げると、迷わずストームキャットに渾身の力で剣を振り下ろした。
これは当たった! と思った瞬間、ストームキャットは空中で向きを変え、両手剣をするりとかわすと、その胸部ハッチの辺りに飛び付いた。
「ゴウアー!」
ストームキャットは、胸部ハッチの辺りにその鋭い爪を立てると、頑丈そうに見えたゴーレムのハッチが、バリバリと音を立てて引き剥がされていく。
「ウワー! ハッチが取れたー!」
操縦席にいる男が叫んでいる。
そこで俺達は、その中の男を二度見した。その操縦席に座っていたのはブルーノ保安官だったのだ。
「ブルーノ保安官!?」
ブルーノ保安官のゴーレムがストームキャットを掴もうとして、ストームキャットが飛びのくと、ようやくブルーノ保安官は、こちらの視線に気付いたようで、慌てて両手剣を操縦席の前に横にして顔を隠す。
「なぬ、も、もしかして見えた? ダーッハッハッハッ! 逃げろー!」
ブルーノ保安官と山賊のゴーレム達は、魔境の中をガッチャンガッチャン音を立てながら逃げて行った。
俺達は、呆気に取られて見送ってしまったが、ストームキャットはまだその辺りを飛び回っている。まだまだ危機が去ったとは言えない状況だ。
メアリーが気を取り直して、指示を出す。
「ニキとリュウは、獣人達を護りながら予定どおり国境に向かってちょうだい。私達はストームキャットを仕留めるわ。」
「「「「了解!」」」」
俺とニキは獣人達を護りながら、魔境の中を北上する事になった。




