36 キャンサーの街と新発見
異世界の翌日、俺達はキャンサーの街に到着した。
キャンサーの街は、サマル王国のロドス城塞都市のように、街を囲む外壁は無いが、それなりに大きな都市のようである。
その街の入口に、馬に乗ったカサンドラ共和国の保安官が俺達を待っていた。
テッドと同じくらいの堂々とした体格をしている30代前半の男で、鼻の下には立派な口ヒゲがあり、胸にサマル王国の物とは色合いの違う保安官のバッチが輝いている。
その男は、俺達がキャンサーの街の門を潜ると、馬を寄せてきた。
「サマル王国のメアリー保安官御一行ですかな?」
「そうですが、貴殿は?」
「申し遅れました。カサンドラ共和国で保安官をしておる、ブルーノ・ピコリと申します。」
その後、俺達はひととおり挨拶を済ますと、ブルーノ保安官がキャンサーの街を案内すると言い出した。
「キャンサーの街の御領主様から、皆さんを案内するよう言われてましてな。キャンサーは美しい街で見所も多いので、私がサポートするという訳です。異国の地で勝手の分からぬ事もあるでしょうが、私がいれば大丈夫ですぞ。ダアーッハッハッハッ!」
ブルーノ保安官が下品に笑う。
俺達は顔を見合わすと、メアリーが代表して答える。
「ご親切にありがとうございます。しかし、我々はご存知のとおり魔境の調査を目的にしており、街の観光などは予定しておりません。魔境の中の事ならば冒険者や獣人から聴きますので結構ですと、御領主殿にお伝えください。」
「あらぁ? いえいえ、そう言わず、宿屋やお食事のお世話だけでも、させてもらえませんか。なに、魔境の調査まではついていきませんので、ご安心ください。」
そこまで言われてしまうと、イヤとは言えず、「それでは、お願いします。」と言わざるを得なかった。
キャンサーの街は、家々が鮮やかなペンキで塗ってあり、なるほどカラフルで美しい街だった。
「キャンサーの街の家は、それぞれ違う色のペンキを塗ってましてな、この色で誰の家か分かるようにしてあるのですよ。綺麗なもんでしょう。」
ブルーノ保安官が街の説明をしてくれる。
「獣人達もこの街にに住んでいるのか?」とマーティンが聴くと、ブルーノ保安官は「獣人が? フッ、人間が獣人と一緒に暮らすなどあり得ないでしょう。」と笑いながら答える。
「すまないが、魔境の様子を聴きたいので、獣人の暮らす場所を知りたいのだが。」とメアリーが聴くと、ブルーノ保安官は「それならば、私が明日ご案内しましょう。」と答え、どうやら明日もついてくるようだ。
その後、ブルーノ保安官から宿屋へ案内され、食事にも付いてくる勢いだったので、丁重に断り宿屋の前で別れた。
夕食を終え、メアリーの部屋に全員集まると、マーティンが「あれじゃ、まるで監視だぜ。」とイライラしながら言う。
街の酒場で食事中にも、こちらの会話を伺っている、怪しげな男達がいたのである。
「余計な事はするな、という脅しだろうな。」とテッドも応じる。
「明日、獣人の村に行って、頼まれた地龍の話をしてあげたいが、あの保安官が一緒では、話すタイミングがあるかどうか。」
俺がそう言うと、皆でどうしたもんかと頭をひねったが、あとはメアリーが作戦を考える事となり、その日は宿屋で就寝となった。
………
ニューヨーク市警の仕事を終え、ゴードン工房に行くと、サラ達が何やら騒いでいた。
「私達もゴーレムに乗り、リュウ様をサポートするです。」
ふむ、何やらサラがゴーレムを操縦して、俺をサポートしたいという事らしい。
サラ達にゴーレムの操縦ができるのか?
「今、話聞いたけど、サラ達はゴーレムの操縦できるの? 確か、土魔法が使えないとダメなんだよね。」
「あっ、リュウ様。そうなのです。私達は10年前にスケルトンの魔物になってから、魔法は使えなくなったです。」
「それじゃあ…」
「ところが、ゴーレムの整備をしている時に、土魔法が使える事に気付いて試してみると、リュウ様と同じように魔石を使用せず土魔法が使えるです。」
「えっ? という事は、俺と同じように魔法が使えるという事?」
「そうなのです。どうやら、リュウ様と闇魔法で契約した魔物は、リュウ様と同じように魔法を使用できる事が分かったです。あれを見てください。」
そこでは、スケルトン達が魔素石にまたがり、「ワッセ! ワッセ!」と言いながら土魔法を込めていた。
「本当だ。」
「そして、あちらも見てください。」
俺のゴーレムに、警備隊長のディエゴ達スケルトンがワックスがけをしている脇で、スケルトンの一人が、もう一人のスケルトンに両手を突き出し「くらえ回復魔法、ヒール!」と唱えている。
それを受けたもう片方のスケルトンが「ギャァ〜、もうサボりませんから許してー!」と叫んでいた。
「…。」
「隠れて一服していたので、こらしめているです。」
確か、回復魔法はアンデッドには地獄の苦しみとか言っていたな…。
ふむ、使い方が正しいかはともかく、確かに俺と同じように魔法が使えるらしい。
これは、すごい発見である。
もし、サラ達13人のスケルトン達に、現代の技術を融合したゴーレムを与えれば、最強のゴーレム部隊が出来上がるのである。
「そういう訳で、エドガー博士に新たなゴーレム製作をお願いしていたのです。」
「サラ君達が魔法を使えるというのは、うれしい驚きだよ。ただ同じものを作るのではなくて、ゴーレムや武器にバリエーションを持たせたいと考えている。」
「バリエーションと言うと?」
「まだ使える魔法が多くはないが、ゴーレムは、リュウ君のものと同じタイプと、前で盾を構えて敵の攻撃を防ぐものが作れるだろう。あとは、武器を普通の剣と土魔法を使ったものを考えている。」
「土魔法を使った武器?」
「ああ、リュウ君から聞いた地龍の討伐の際に、土魔法を使った攻撃があったと言っていただろう?」
冒険者のエドワードの異形のゴーレムが放った、地面が盛り上がりトゲとなる攻撃である。
「そこからヒントを得て、巨大なハンマー型の武器を作ってみてはどうかと考えている。まずは試作品作りから始めるがね。」
どうやら、新しい武器の構想もあるらしい。
「サラお嬢様がゴーレムで剣を持って戦うなど、とんでもありません。おやめください!」
執事のセバスが横で反対している。
「私はリュウ様のお役に立ちたいです。一緒にゴーレムに乗って戦うです。」
心配するセバスとサラが言い合いを始めると、エドガーが話に割って入ってきた。
「分かった、分かった。それじゃあ、サラ君には後方支援をしてもらうようにしよう。」
「エドガー、どうするの?」とニキも心配そうだ。
「サラ君のゴーレムには、大型の対戦車ライフルを装備しよう。対戦車ライフルは、人が手に持って撃つことは出来ないが、ゴーレムなら可能だ。ライフルの照準をゴーレムのモニターとつないで…、あーやる事がいっぱいだー! また寝れないぞ。」
エドガーは、髪をかきむしりながら叫ぶが、実に嬉しそうなのは、皆が感じていた。




