33 フレアキャットの討伐
俺は、フレアキャットを前にして盾を下ろした。
俺のゴーレムの全身を覆っている炭素繊維の性能を試したかったのだ。
「ゴウアー!」
フレアキャットは、俺の注文どおり、特大の火の玉を放ってきた。
『ドーン!』
俺は、フレアキャットの放った特大の火の玉をゴーレムの体で受けたが、操縦席には、さほどの衝撃は無かった。
攻撃を受ける前はドキドキしたが、受けてしまえばこんなものである。
気のせいか、全身が燃えている気はするが?
………
・・・サラ視点へ・・・
私は、気を失ったニキさんを抱えて、フレアキャットとリュウ様の戦いを見つめていた。
ニキさんは、一瞬意識を取り戻したかのように見えたけど、ふたたび気を失ってしまっている。
おそらく、リュウ様のゴーレムが助けに入り、命がけの戦いから解放されて、気が抜けたのだろう。よくある事である。
さて、リュウ様のゴーレムとフレアキャットの戦いは、リュウ様のゴーレムの一方的な展開となっている。
一方的といっても、リュウ様のゴーレムが攻撃する事はないのだが、フレアキャットの攻撃がまったく当たらないのである。
リュウ様のゴーレムの製造に関わった身としては、この戦いを見ていて誇らしい気持ちになる。
ところが、何を思ったのかリュウ様のゴーレムがフレアキャットに向けていた盾を下ろしたのだ。フレアキャットからは特大のファイアーボールが!
「危ないです!」
思わず声が出たが、リュウ様のゴーレムは、何事もなく特大のファイアーボールを体で受けてみせたのだ。
しかも、全身が青く燃えている。
「すごい…。」
私は、リュウ様のゴーレムの神々しさに思わず息を飲んだ。
それはまるで、昔話に聞く火の魔神アグニのようである。
確かゴードン工房でゴーレムにワックスがけしている時に、ゴードンのおじ様が「ワックスは燃えるから危ないんじゃがなぁ。」と言っていたような気がするが…。
しかし、これを見せられては、それは些細なことでしかない。
こんなゴーレムは、サマル王国中を探してもないだろう。
さすがのフレアキャットも、ドン引きして固まっている。
しばらくして、青い炎は消えてなくなり、つや消しのただの黒いゴーレムになってしまった。
やはり、ニューヨークのニキさんが「お父さんの自動車修理工場では、ワックスを2〜3回はかけるのよ。」と言っていたが、リュウ様のゴーレムも2〜3回は、いえ、5回はワックスを重ね塗りするよう、警備隊長のディエゴに指示しなければ。
………
・・・リュウ視点へ・・・
俺は、ゴーレムが火魔法への耐性が十分である事を確認して、次のテストを何にするか考えていた。
できれば、ゴーレムの物理耐性、盾の火魔法耐性と物理耐性を確認してから、最後に必殺技の確認をしたい。
ところが、フレアキャットは、こちらを見つめたまま微動だにせず、固まっている。
しまった! フレアキャットからすれば、必殺技の火魔法を軽々と受けられて、ショックなのだろう。
もしかすると、このまま逃げてしまうかもしれない。
仕方がない、ゴーレムや盾の物理耐性はあきらめて、必殺技だけでも確認せねば。
そのためには、こちらが弱っているように見せないと、襲ってこないだろう。
俺は、慌てて「やられた〜。」という動きをゴーレムでして、その場で片膝をつき盾も放り出した。
じっとしてフレアキャットの様子を伺うと、フレアキャットは、最初はビクッと驚いたような顔をしていたが、そのうち恐る恐る近付いてくる。
俺のゴーレムの剣の届く範囲まで、あと3メートル…2メートル…1メートル…今だ!
俺はフレアキャットにゴーレムの剣を突き刺すと同時に操縦桿のボタンを押した。
『ガガーン!』
雷が落ちたような音と共に、操縦席のモニター類の電気が落ちて、真っ暗闇になった。
そういえば、エドガーが必殺技を使うとバッテリーの電源が落ちると言っていた。
目の前に恐ろしい魔獣がいるというのに、これはやっちまったか?
フレアキャットは、どうなったのか? ちゃんと仕留められたのか?
長い時間のように感じたが、恐らく2〜3秒のうちに電気は復旧して、外の様子が見えた。
フレアキャットは、ゴーレムの剣が突き刺さったまま息絶えていた。
フレアキャットの全身から煙が上っている。
俺はフレアキャットを討伐したのである。
………
俺は、やれやれと一息つき、ニキ達がどうなったのかと振り返ると、サラがゴーレムの操縦席で倒れているニキを抱えている。
俺は慌ててゴーレムから降りて、ニキのゴーレムに駆け寄った。
「大丈夫か!」
「大丈夫です。ニキさんは、フレアキャットとの戦闘の恐怖から、一時的に気を失っただけです。」
「そ、そうか…。」
俺に対して、顔や胸の右半分が焼け落ち、骸骨が見えているサラが冷静に説明してくれるが、どう考えても、この焼けたマスクが原因であろう事は明らかであった。
カツラもチリチリである。
「と、とりあえず、フレアキャットを無事に討伐できて良かったよ。」
「はい。リュウ様のゴーレムならば、フレアキャットごとき恐れるものではありません。あんなに神々しい姿は…、初めて見たです。」
何やらサラが、俺のゴーレムを見てウットリしている。
こんな真っ黒いゴーレムの何が彼女のハートにヒットしたのか分からないが、とりあえず話を進めよう。
「そういえば、このフレアキャットの死体は、ここに置いておいた方がいいのか?」
「魔獣は討伐した者のものです。なので、これはリュウ様に権利があります。」
それから俺は、ゴーレムとフレアキャットをストレージに仕舞い、ニキをサラから受け取って、サラを送還した。
「ニキ、ニキ、大丈夫か?」
「う、う〜ん。ハッ!」
ニキは俺の顔を見ると、一瞬驚いたような顔になったが、顔や胸の辺りをしげしげと見てホッと息をついた。
「夢か? リュウが骸骨になって死んじまった夢を見たんだ。良かった。」
やはり、ニキが気を失った理由は、サラで間違いないようである。
「そういえば、フレアキャットはどうなった? 黒いゴーレムは?」
「ああ、フレアキャットは、あの黒いゴーレムが討伐してくれたよ。フレアキャットをストレージに仕舞い、どこかに行っちまったがね。」
「地龍の方はどうなった?」
「ああ、どうやらあちらも終わったようだぜ。」
俺達はそう話しながら、地龍討伐が行われた辺りを見下ろした。




