32 ニキの受難
時は少し遡り、地龍の討伐に出かける前日のニューヨークのゴードン工房では、俺がゴーレムに乗っている間の身代わりについて、話し合いが行われていた。
俺が異世界人で、竜神の御使である事がバレないようにするためである。
「そんなのは簡単だよ。私に任してくれたまえ。」
とエドガーが言い出した。
「つまりだ、リュウ君にそっくりな人物が異世界のニキ君の近くにいて、バレなければいいんだろ?」
「まさか、リュウの姿をしたロボットを作るの? でも討伐は明日なのよ、間に合わないわ。」とニキが答える。
「さすがの私も、今夜中にリュウ君にそっくりな会話できるロボットを作るのは無理だよ。でも、ここには最高のメンバーがいるじゃないか!」
皆んなが顔を見合わせ、首を捻っている。
「まだ分からないのかね? ここにいるスケルトンの誰かにリュウ君の顔型からとったマスクを被せて、身代わりとすれば良いじゃないか!」
「ああ〜。」と全員がうなずく。
確かに俺の顔型からマスクを作るのは簡単だし、スケルトンなら俺の闇魔法でどこにでも呼び出し可能だ。
さらに、中身がスケルトンだから会話もできる。
そうと決まれば、石膏で俺の顔型を取り、シリコンで俺の顔のマスクを作る。
しかし、ここで一悶着あった。
マスクは当然ツルツルで、目も眉もない。
黒色の塗料で目元を描いていくのだが、俺をどんな表情にするのかでもめたのだ。
まずはゴードンが「やっぱり魔獣と戦っている最中だから、クワッと目を見開いているのが普通じゃろ。」と提案してくる。
すかさずニキは「そんなのリュウらしくないわ。リュウはいつも冷静だから、普通の表情がいいわよ。」と反論。
ここに執事のセバスが「しかし地龍とのバトルを前にして、無表情というのも変ですぞ。」と話に入ってきた。
その後も様々な意見が出たものの、結局、ゴードンの提案を採用する事となった。
次に、誰が俺の身代わりになるかであったが、サラが頑なに自分がやると言い出した。
「私がやるです。」
これにはセバスも「お嬢様が危険な場所に行くなどとんでもない。」と即座に反対してくる。
さらに警備隊長のディエゴも「そうですぞ、魔獣の討伐は何が起こるか分かりません。ましてや地龍の討伐になれば、命がけの討伐になります。」と反対する。
「リュウ様のゴーレムの事は、私が一番よく知っているです。もしゴーレムに不具合があれば、私なら対応できるです。」
俺はゴードンやニキと顔を見合わせていると、イライラしたエドガーの発言でサラに決定した。
「あーもう、サラ君でいいじゃないか。リュウ君のゴーレムは、今回初めての魔獣の討伐なんだ。想定外のトラブルが起こるかもしれないから、サラ君が適任だろう。」
という事で、サラに俺の顔のマスクを被せ(もちろんカツラ付き)、俺の服を着せてみたところ、ひとまわり縮んだ俺ができた。
しかも、首や手は骸骨のままだ。
「これは…さすがにまずいんじゃないか?」と俺が言うと、エドガーが「どうせ魔境の薄暗い中なら気付かん。もう時間も無いからこれでいく!」と見切り発車してしまった。
………
・・・ニキ視点へ・・・
異世界のニキは、フレアキャットを前に焦っていた。
フレアキャットは、全身型のゴーレムが複数体で討伐する魔獣である。
それを半身型のゴーレムでとなると、難易度は格段に高くなる。
ましてや、後ろのリュウを守りながらなど、至難の技である。
できる事なら、メアリー達に助けを求めたいところであるが、地龍の討伐をしている真っ最中だから、それも無理である。
フレアキャットは、「グルルルル」と唸りながら、全身の筋肉を縮め、今にも襲いかかろうと低い姿勢を取ったその時、ふと視線をこちらから外し、左手の魔境の林を見ている。
こちらもつられて左手の魔境の林を見ると、突然『バリバリッ!』と魔境の木々を倒しながら、真っ黒い全身型のゴーレムが現れた。
しかも、やけに黒光りしている。
謎の黒いゴーレムは、フレアキャットに向かって剣を振り下ろすが、フレアキャットも2メートル程飛び退き「グルルルル!」と唸っている。
助かった! どこかの冒険者が助けに来てくれたらしい。
俺は「どこの誰か分からんが、助かったぜ…」と後ろのリュウに振り返りながら言った。
リュウは、びっくりしたように目を見開き、こちらを見ている。
しかも、一回り縮んだように見えるのは、気のせいか?
「…リュウ、何か小さくなってねえか?」
「そんな事ないです…だぞ。危ないから前を見るです…だ。」
「お、おう。そうだな。」
俺は、リュウに注意されて黒いゴーレムとフレアキャットの戦いを見るが、強烈な違和感に後ろをそーっと振り返ってしまった。
「前を見るです!」
慌てて前を見ると、フレアキャットの特大のファイアーボールがこちらに飛んできていた。
『ドーン!』
俺は、とっさにゴーレムの盾を前に出して防ぐが、防ぎきれなかった炎が後ろの方まで飛んでいく。
「リュウ、大丈夫か?」と慌てて後ろを振り返ると、そこには、顔や胸の右半分が焼け落ち、頭蓋骨やあばら骨が見えているリュウが、びっくりした顔でこちらを見ていた。
俺の意識は、そこで途絶えた。
………
俺は、真っ白い世界にいた。
「ニキ…ニキ…」
誰かが、俺を呼んでいる。
死んだ母ちゃんかな?
「ニキ…ニキ…しっかり…」
ああ、これはリュウの声だ。
俺は…、そうだ、フレアキャットと戦っていて、気を失ったんだ。
「ニキ…ニキ…しっかりするんだ…。」
おいおい、俺は今、リュウにお姫様抱っこされてねえか?
皆んな見てるじゃないか、恥ずかしいよ。
「ニキ、しっかりするです…だ。目を覚ますです…だぞ。」
あ〜、俺にもこんな、ふわふわキャッキャなストーリーがあったんだなぁ。
そして、俺がゆっくり目を開けると、右半分が焼け落ちたリュウが俺を抱えていた。
「ギィーーーヤーーー!」
そして今度こそ、俺の意識は無くなった。
………
・・・リュウ視点へ・・・
ニキの絶叫が聞こえる。
しかし、今の俺にニキの様子を確認する暇はない。
フレアキャットが、右に左に飛び回り、こちらの隙を伺っているからだ。
ニキの事はサラに任すしかない。
しかし、新しくなった俺のゴーレムは、フレアキャットの速さについていけている。
フレアキャットの攻撃を盾で受けるまでもなく、素早い動きで面白いように避けられるのである。
さっきも特大の火の玉を飛ばしてきたから、とっさに避けてしまったが、ニキ達の方に飛んでいった気がする…。
…いかんいかん、戦いに集中しなければ。
フレアキャットは、俺のゴーレムに攻撃が当たらないのでイライラしている様子である。
またあんな特大の火の玉を飛ばされて、もしも直撃でもしようものなら、俺のゴーレムといえどもタダでは済むまい…いや、大丈夫かな?
ここで俺は、はたと気がついた。
ここでのフレアキャットとの対戦は、このゴーレムを試すチャンスである。
幸い、メアリー達は地龍の討伐に集中しているし、ニキは少し離れて見ているだろうから、誰も邪魔する者はない。
「よし!」と言うと、俺はフレアキャットに向けていた盾を下ろした。
俺のゴーレムは、全体を炭素繊維で覆っており、耐熱性が高いとゴードンが言っていた。
フレアキャットの火魔法による火の玉が、俺のゴーレムに通用するのか見てみたくなったのである。
フレアキャットは、盾を下ろした俺が油断したと思ったのか、ふたたび特大の火の玉を放ってきた。
俺はそれを避ける事なく、飛んでくる火の玉の前に仁王立ちした。
『ドーン!』
俺は、特大の火の玉をゴーレムの体で受けた。




