31 地龍の討伐へ
異世界の翌日、俺達はジェミナイの魔境の入口に集合した。
メンバーは、魔境調査の保安官であるメアリー、マーティン、テッド、ニキ、俺と、エアリーズのバトルトーナメントで戦ったハンスとオリバー、冒険者のエドワードの8名である。
魔境に入ったところで、それぞれがゴーレムをストレージから取り出して乗り込んだ。
もちろん、俺のゴーレムはなく、ニキの半身型ゴーレムの背中にあるカゴ型搭乗席に乗っている。
ここで全員が驚いたのが、エドワードの異形のゴーレムである。
全身型のゴーレムで、大きさはテッドやオリバーのゴーレムより小さめだが、全体に丸みを帯びたフォルムで、両腕が極端に大きく、立った状態にもかかわらず、手が地面につきそうである。
一言で言えば、ゴリラである。
さらに、表面を赤茶色のゴツゴツした皮で覆ってあり、物理耐性も高そうである。
俺は前の操縦席にいるニキに話しかけた。
「エドワードのゴーレムを覆っているのは、何の魔獣の皮なんだ?」
「俺もあんなのは初めて見たからはっきりとしないが、おそらく地龍の皮だな。」
一行は、ある程度魔境の中を進んだところで停止し、マーティンとハンスによる偵察により地龍を探す事にした。
この二人のゴーレムは、風魔法による高速移動が可能であり、魔境の木々を避けながら、あっという間に魔境の奥に消えていった。
30分もすると、二人は帰還し、地龍はこの先のかなり開けた場所で食事中との事であった。
また、右手の丘の上が全体を見渡せるので、ニキと俺はそこで討伐の様子を見るよう指示を受けた。
………
メアリー達は、地龍を目視できる程の距離まで来ていた。
地龍は四本足の魔獣で、頭の先から尻尾までの全身をコブのような赤茶色のウロコで覆われており、おそらく恐竜が生きていたなら、こんなだったろうと思われる姿である。
地龍は、馬に角の生えたユニコーンを貪っており、メアリー達に気付くと、『グルルルル!』と唸り声を上げた。
「まずは俺達が防御する。」とテッドとオリバーが言い、3メートルはある巨大な盾を並べた。
そのさらに外側の左右のやや後ろ側にマーティンとハンスの高速ゴーレムが続き、メアリーとエドワードのゴーレムは、テッドとオリバーのゴーレムの真後ろに続いている。
メアリー達が矢印のようなフォーメーションで、ジリジリと前に進むと、地龍はいよいよ食事をやめて、メアリー達に向き直り突進を始めた。
「ゴアーーー!」
地龍の咆哮が轟き、地響きをたてながら地龍が突進してくる。
テッドとオリバーは「気合いを入れろー!」と言うと、ゴーレムから蒸気を噴き出しながら身構えた。
『ドゴーン!』
地龍の強烈な突進に、テッドとオリバーのゴーレムはたまらず後ろにズルズルと押し込まれたが、エドワードのゴーレムが二人の背中をその巨大な手で支えると、力は拮抗した。
「やれやれ3人がかりでやっとか。」とエドワード。
地龍の動きが止まったのを見て、マーティンとハンスのゴーレムが前に出て、左右から両脇腹の辺りを剣で斬りつけるが、あっさりとはじかれる。
「風魔法を付与して斬りつけてるのに、歯が立たない。」
地龍は、これ以上押し込めないと判断して、尋常ではない力で頭を左右に振り始めた。
コブのような硬いウロコが付いている地龍の頭が急に左右に振られた事で、テッドとオリバーのゴーレムは縦から横への動きについていけず、あっさり左右にはじかれてしまった。
地龍の正面には、武器も盾も持たない無防備なエドワードのゴーレムが立っており、その後ろにはメアリーのゴーレムがいる。
誰もが「やられた!」と思ったその時、エドワードが「いくよ!」と言うと、そのゴーレムの巨大な右手を地面に叩きつけた。
『ドドドドー!』
地面に叩きつけられたエドワードのゴーレムの右手の辺りから、地龍に向かって地面が次々に盛り上がり、巨大なトゲとなって地龍に襲いかかる。
「ゴーーーアーーー!」
………
俺とニキは、地龍とメアリー達がにらみ合っている場所から右手の丘の上にたどり着き、見やすいように魔境の木々を切り開き、討伐の様子を伺っていた。
テッドとオリバーのゴーレムが、地龍の左右への首振りではじかれて転がり、無防備なエドワードのゴーレムが地龍の前に残された時、二人同時に「やられた!」と声に出してしまった。
ところが、エドワードのゴーレムが右手を地面にズシン! と叩きつけると、地面が次々に盛り上がり、巨大なトゲとなって地龍に襲いかかっていく。
地龍はたまらず後ろに下がっていった。首から腹の辺りにかけて血が吹き出しているようだ。
「ニキ、あの攻撃は魔法か?」
「あんなのは初めて見た。地面が盛り上がったから、多分、土魔法なんだろうが、とんでもねえ威力だ。」
その時、俺達の後ろにあった薮がガサガサと音を立てて何かが近付いてくる音がする。
俺達はドキッとして後ろを振り返ると、そこには虎を2倍にしたくらいの大きさの四本足の魔獣が現れた。
「フレアキャットだ!」とニキが叫ぶ。
俺はフレアキャットという名前から、てっきり山猫とか、せいぜいピューマくらいを想像していたが、とんでもない。
赤と白の縞の毛皮からフレアキャットである事は間違いないが、こんなのメアリー達の全身型のゴーレムでも対応できるかどうかというところである。
「リュウ! フレアキャットは火魔法で攻撃してくるから、ゴーレムの盾から顔を出すんじゃないぞ!」
ニキはフレアキャットに盾を向けながら、俺に注意する。
フレアキャットが「ゴウアー!」と吠えると、口の前に直径50センチ程の火の玉ができ、こちらに飛んできた。
火の玉はゴーレムの盾に当たり消え去ったが、顔に熱風が吹き付けてくる。
「リュウ大丈夫か?」とニキはフレアキャットから目を離さず聴いてくる。
「ああ、こっちは何ともない。しかし、あんなのとどうやって戦うんだ?」
「もうちょっと近づいてくれれば、ゴーレムの剣で斬りつけるんだが、簡単じゃなさそうだな。」
「ゴウアー!」
ふたたび火の玉が飛んできて、ニキのゴーレムが盾で防ぐ。
フレアキャットは、ゴーレムの盾が邪魔で、俺達に火の玉が届いていない事に気が付いたのか、ゆっくりと右側に回りはじめた。
必然的に、ニキのゴーレムもフレアキャットが正面になるようジリジリ向きを変えている。
半身型のニキのゴーレムは、全身型と違い操縦席が外にむき出しになっており、いつフレアキャットが飛びかかってきて、盾の隙間から火魔法を放たれるか、絶望的な状況である。
これは、俺のゴーレムを出さざるを得ない状況に追い込まれたという事だろう。
正直、ここでゴーレムは出したくなかったが、手遅れになっては元も子もない。
俺は観念して、前の操縦席にいるニキに聞こえないように、魔法の言葉を唱えた。
「召喚」




