29 生まれ変わったゴーレム
ジェミナイの宿屋で寝ると、ニューヨークの朝が始まった。
サラ達の様子が心配でゴードン工房に行きたかったが、警察での仕事が先である。
仕事は手に付かず、あの同僚のゲーリーから「俺が言うのも何だが、まじめに仕事しなよ。」と屈辱のセリフを言われてしまう始末である。
そして、ようやく仕事も終わり、ゴードン工房にたどり着き扉を開けると、驚くべき光景が待っていた。
「ふぅ〜、疲れた体にマッサージが気持ちいい〜。あーそこそこ。」
エドガーがうつ伏せになり、スケルトン達がマッサージしている。
「やっぱり、フェンリルって可愛いわよね。これ会話できる?」
「フェンリルが、会話できるかまでは知らないです。」
ニキが異世界の屋敷にあった魔物百科事典を眺めながら、サラに聞いている。
「すまんがコーヒーのお代わりをくれ。」
「ただいま、お持ちします。」
魔導書をめくっているゴードンに、セバスがコーヒーのお代わりを入れていた。
俺は崩れ落ち「俺の心配を返せ〜!」と絶叫した。
「何だね、騒々しい。疲れた体を癒しているんだから、静かにしたまえ。」とエドガーが迷惑そうな顔で言う。
「今日一日、皆んなが仲良くできているか心配だったんだよ! いやいや、それより、俺が契約しているサラ達をなんて事に使っているんだ。」
「あん? まるで我々が仕事以外に使っているかのように聞こえるが?」とエドガーは言うと、横にいるスケルトンから差し出されたトロピカルジュースをゴクリと飲んだ。
「説得力ゼロなんだよ! いったい何の仕事をやらせているんだよ。」
エドガーは「やれやれ仕方ないな。」と言うと立ち上がり「これを見たまえ。」と工房の奥にあるゴーレムを指さした。
そこでは、俺の黒いゴーレムに警備隊長のディエゴ達スケルトン兵士がワックスがけをしていた。
ゴーレムは見事に黒光りしている。
「だから何の仕事だよ!」
「これだから素人は困る。君のゴーレムが生まれ変わったのが分からんかね?」
「生まれ変わった? いや、やけに黒光りしているとしか…。」
「とりあえず、ゴーレムに乗ってみたまえ。」
エドガーにすすめられた俺は、ゴーレムに乗ってみる事にした。
操縦席に座り胸部ハッチを閉めると、自動的にモニターの電源が入り、各種メーターやスイッチ類が点灯する。
「とりあえず、工房内を歩いてくれたまえ。」とエドガーが工房に設置されたマイクで話しかけてくる。
前回の搭乗の際には、バランスが悪く、まともに歩くことさえできなかったが、今度は問題なく歩くことができた。
それどころか、まるで自分の手足のように走ったり急ブレーキも思いのままである。
「前回と大違いだ! これなら魔境での討伐も問題なくできそうだ。」
「そうだろう。魔石の調査で分かった事だが、魔石とはエネルギーのかたまりなのだ。そして魔法は、そのエネルギーに方向性を与えて様々な力とするのだが、一方通行ではダメなのだよ。ゴーレムに神経のように張り巡らせる必要があったのだ。」
さすがエドガーだ。
この変化は、まさに生まれ変わったと言っていい。
「それから、そこの壁に設置されている、ゴーレム用の剣と盾も装備してみたまえ。」
そこには、2メートル程の剣と盾が用意されていた。
「盾はチタン製で軽くて丈夫だし、剣はコバルトの合金を使用している。使いやすいはずだよ。」
装備して、素振りなどしてみると、なる程使いやすい。
「そして必殺技を用意しておいたよ。右手の操縦桿に親指で押すボタンが付いてるはずだが、それを押すとゴーレムの剣から電流が流れるようにしてある。今は使うなよ!」
俺はまだ火魔法も風魔法も使えないから、これは非常にありがたい。
「ただし、高電圧のためバッテリーの電気が一時的にダウンするから、ここぞという時に使ってくれたまえ。」
俺はゴーレムから降りると、エドガーに駆け寄った。
「さすがエドガーだ。何もかも素晴らしいよ!」
「それもこれも、サラ君のおかげだよ。彼女は既にエレクトロニクスも理解しており、天才だ。」
エドガーによると、魔法の事を説明したり、異世界では電気の耐性がないから必殺技に使えるなどのアイデアを出したのがサラだったらしい。
それを、わずか一日で仕上げてしまうのがエドガーの凄いところではあるのだが。
「サラ、すごいじゃないか!」
「リュウ様のお役に立てて嬉しいです。」
「ウォッホン! サラお嬢様が天才である事は当然です。」
執事のセバスが急に話に割り込んできた。
「サラお嬢様は、王都にあるキングブリッジ学園の始まって以来の天才と言われ、『学園の青いバラ』と呼ばれていたのですぞ。もう一人の赤いバラと合わせて…」
「やめるです!」
セバスが意気揚々と解説していたが、サラの一言で工房は静かになってしまった。
「…もう昔の事です。そんな事は忘れて、これからはリュウ様をサポートするために、全力で取組むです。」
セバスは小さく「申し訳ありませんでした。」と謝っている。
「ま、まあ、いいじゃないか。昔の思い出も大切にして、これからは俺達と新しい思い出を作っていこうぜ。」と言い、俺はサラの肩をたたいた。
スケルトンになる前のサラの思い出は、今となっては、つらいものになってしまったようだった。
………
そして、異世界の翌日は、最悪の目覚めだった。
俺は、ジェミナイの宿屋の床で寝ており、知らないオッサンの腕や足をどけながら、起き上がった。
確か、昨夜はテッドお勧めの酒場で、遅くまで飲んでいたはずだが、その後の記憶がない。
辺りを見回すと、オッサンは二人おり、一人は見事な体格をしており、テッドと同じくらいゴツい。
歳の頃は30代後半くらいで、顔も冒険者らしくたくましい。ヨダレを垂らしているが。
こいつは確か「鉄壁」のオリバーだ。
そしてもう一人は、やや小柄ではあるが、引き締まった体をしており、歳は40代半ばだが、顔は精悍な印象を受ける。ヨダレを垂らしているが。
こいつは「疾風」のハンスだ。
俺は、ゴーゴーいびきをかく二人を起こす事にした。
「おい、二人とも起きろ! もう朝だぞ。」
「う、うーん。なんだ、うるさいな。」
「もうちょっと、寝かしてくれ。」
「俺は、お前達のママじゃないんだぞ。早く起きろ!」
「何だよ、そんなに早く起きたってしょうがないだろ? どうせ国境は封鎖されちまってるんだから。」
えっ、どう言う事? 俺はオリバーの言葉に驚き固まってしまった。




