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2 異世界の牧師

 俺は、かろうじて回復魔法で怪我を直したものの、全身素っ裸(すっぱだか)で異世界に投げ出された。

 ケガは治っているものの、重い体を引きずりながら、林の先に見えた教会らしき建物へ進んでいった。


 教会らしき建物は、十字架こそないものの、いかにも古い小さな街の教会のようで、木造で質素な作りをしていた。

 教会の前には小さな草花が植えられており、この教会を管理する者の人の良さを感じさせる。

 まだ朝早いようで、建物の周りには誰もいない事に、ほっと胸を撫で下ろし、教会の扉を叩いた。


「はい、どちら様でしょうか?」という言葉とともに開けられた扉の中には、年の頃40代半ばの白人で牧師のような姿をした男性があらわれた。


 現れたのがシスターでない事にホッとして、股間を手で隠したまま「突然お邪魔してすまない。こんな格好をしているけど、私は警官で怪しい者ではない。ちょっと、言葉で説明できないような、ありえないような酷い目にあったんだが、助けてほしい。」と言うと、その牧師らしき男性は、「どうぞ。」と一言だけ言い、教会の中に招いてくれた。


 教会の中は、キリスト教の教会と同じような作りで、信者用の長イスと祭壇さいだんがあった。

 ただ、その祭壇には、ドラゴンと精霊らしきものがまつられており、見たことのない宗教であるらしかった。

 祭壇のドラゴンは、窓からさす朝日に照らされて、幻想的な雰囲気を出している。


 その後、裏の井戸で全身を清め、木綿の清潔なタオルで全身を拭い、質素なこれまた木綿でできた服を借りて着ると、人心地ついた。血を洗い流すと、傷が綺麗きれいに無くなっているのに驚いたが、胸の真ん中に、妙なおたまじゃくしのようなアザだけが残っていた。


「さあ、朝食がまだでしたので、一緒に食べましょう。」と牧師に誘われ、食事を取りながら牧師と話した。

 それで分かった事は、牧師の名前はルースと言い、この教会は竜神と精霊をまつっていること、最近、旅人の荷物を目当ての盗賊が現れ、たびたび被害者が出ていることなどであった。


「それにしても、リュウさんは運がいい。身ぐるみがされたようだが、命があっただけでも、神に感謝すべきでしょう。ところで、全身血だらけのようでしたが、傷が見当たらないのはどう言う事でしょう?」

「まぁ、確かに追い剥ぎにあったようなものですが、それが、おかしな話でしてね、『ヒール』と口に出したら、傷が治ったのですよ。」

「ほぅ。回復魔法の使い手でしたか。どうりで、納得しました。」


「あのう、今、回復魔法とおっしゃいましたか?」

「そうですよ。そう(回復魔法の使い手)ですよね。」


「すみません。どうも記憶が曖昧あいまいで、ところでニューヨークという街はご存知ですか。」

「ニューヨークというのは聞いたことがないですね。そちらからいらっしゃったんですか。」

 ルース牧師は、初めて聞いたといった様子で答えており、その姿にウソをついている様子はなかった。


「ここはアメリカ合衆国ではないですか?」

「聞いたこともない国ですね。ここは、サマル王国と言いますが、もしかして、記憶を無くしていらっしゃる?」


「その様ですね。この世界の常識が何も分からないようです。不思議と言葉は話せるようですが。」

「そうですか。しかし気を落とさずに、こういう事は何かのきっかけで、記憶が戻ると聞いたことがあります。それで、魔法の事ですが、魔法は魔素を媒体ばいたいに精霊の力を借りて使用することができるとされています。ただ、魔素は、どこにでもあるわけではなく、普通は魔石を利用しますが、魔境であれば魔素があたりに満ちているので、魔石なしでもいけます。」


「すみません。魔石も魔境もよく分かりません。」

「まぁあわてずに。次に、精霊の力ですが、精霊には、この自然の5大要素である、火、土、水、風、光からなり、人によってどの精霊の加護が得られるかは分かりません。先程、回復魔法が使用できたのなら、光の精霊の加護を受けているはずで、魔石も使用したはずですが。」


「いやぁ、素っ裸だったので魔石は持っていませんし、確か、私の記憶に残っている事からすれば、竜神様の力の一部を得たはずで、それが光の精霊の加護でしょうか?」

「ふふふ、面白いことをおっしゃる。竜神様は、全ての精霊の頂点に君臨する存在で、竜神様から直接加護を受ける事はありません。…いや待てよ、全くない訳ではありませんが、まさか、リュウさんは体のどこかに、竜神様の紋章もんしょうが出ていませんか?」


「竜の紋章? そんなものはないですが。」

「失礼ですが、ちょっと上着を脱いでみてください。」


 ルース牧師に促されるまま上着を脱ぐと、ルース牧師が俺の胸のアザを見て驚愕きょうがくに目を見開いた。


「こ、これは」

「ああ、これは今朝できた傷のあとのようですが、これが何か?」

「これこそ竜紋りゅうもんです。あなたは、竜神様の御使みつかいでしたか。大変ご無礼を致しました。」

 ルース牧師はそう言うと、リュウの前にひざまずいた。


「ちょ、ちょっと、やめてください。いきなりどうしたんですか。」

「そのアザは竜紋と言いまして、竜神様の加護を受けた者だけにあらわれると言われています。今はまだ一つのだけのようですが、新たな力を得る度に竜紋が増えていき、最終的には首飾りのように首の周りにあらわれるようです。また、竜神様の加護かごを受けた者は、魔素が無くても魔法を発動できるとされており、絶大な力を得ると言われています。」


「そんな力が…すごく危ないじゃないですか。」

「そうです。この世界をべる程の力を得ることになります。しかし、過去に竜神様の御使は確かに存在したと言われていますが、その名はどこにも残っていません。伝承では、竜神様の御使は別の世界から現れ、その使命を終えると別の世界に帰ったと言われているからです。」


「それが俺であると?」

「そうです。あなたは記憶を無くしたんではなく、別の世界からいらっしゃった、御使様ですね。」


「詳しい話は聞いていないんだが、アホな宇宙人に竜神様の魂の一部が埋め込まれているとか何とか、普通に生活すれば良いとか何とか言われただけなんだけど。」

「あぁ、これぞ竜神様の思し召し! このルース、御使様に会えた喜びに打ち震えています。」


 拝みまくるルース牧師をなだめ、ようやくテーブルについて、今後の相談をしたところ、竜神様の御使であることは、決して知られてはいけないこと、もちろん、できるだけ竜紋も人には見せないこと、この世界で何を成すべきかは分からないが、とりあえず、ルース牧師の知り合いに頼んで、街で生活することを決めた。

 もし、自分が竜神様の御使であることがバレると、時の権力者が集まってきて、竜神様の力を利用される恐れが高いとのことだったので、その件に関しては、ルース牧師からくれぐれもと念を押された。


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