28 国境の街へ
翌日の異世界では、ロメオの工房で、俺とニキも加わりゴーレムの修理が行われている。
これ以上作業が遅れるのは、旅の遅れにつながるからとメアリーから言われ、ようやく許しがでたところである。
「いや〜助かったよ。」
「次のジェミナイの街では、美味い酒場を知ってるから、二人には奢るぜ。」
マーティンとテッドは、ようやくゴーレム修理から解放されたからか、いつもより明るい様子である。
「ところでメアリーは、どこか行ったのか?」
俺が何気に聞いてみると、テッドとニキは「さあ〜?」というふうに首を捻っている。
「古い友人の墓参りに行くとか言ってたな。」とマーティンが教えてくれた。
………
魔境の中、廃屋となった屋敷の前に、一体の赤いゴーレムが佇んでいる。
ゴーレムの操縦席には、メアリーの姿があった。
メアリーは、屋敷に向かって「サラ…」と一言だけつぶやいたが、その言葉を聞いた者は誰もいなかった。
………
俺達は、午前中のうちにゴーレム修理を終え、エアリーズの街を出発した。
それぞれ馬に乗り、魔境を左手に見ながら街道を南下して行く。
夕日が辺りを赤く染める頃、ようやく俺達は国境の街ジェミナイに到着した。
俺はジェミナイの事は知らないので、メアリーが解説してくれている。
「ジェミナイは、元々はサマル王国の領土だったんだ。10年前の戦争終結の条件として、ジェミナイの半分をカサンドラ共和国に引き渡す事で双方合意したのだ。」
そう言われて見ると、ジェミナイの街は東西に高い壁で分断されており、南北に国境越えの街道がまっすぐ貫いている。
つまりロドス城塞都市クラスの街が、国境の壁と街道で四分割されているような形になってしまったようだ。
俺達がジェミナイの街の門をくぐる時、街を分断している壁の手前と向こう側からカラーン、カラーンと教会の鐘の音が寂しく響き渡った。
………
俺達は宿屋を見つけると、宿泊の手続きを終え、さっそくテッドおすすめの酒場に繰り出した。
その酒場は人気があるのか、ほとんどのテーブルが埋まっており、俺達5人が一緒に座れるのは、8人掛けの大きなテーブルだけであった。
しかも、2人の先客があり相席となった。
「相席させてもらってすまない。」とメアリーが言うと、「いやいや、ここは人気がありますからな。仕方ありません。」と丁寧な返事をしてもらえ、格好は冒険者のようであったが、ただの冒険者とは思えない風格が漂っていた。
テーブルには、テッドおすすめの料理や酒が並べられる。
異世界にきて思うのは、ここの世界は料理も酒も美味い。ここで気ままに冒険者などやって過ごすのも幸せかもしれない。
そんな事を考えていたら、隣のテーブルの商人風の男達が酔っ払ったのか大声で騒ぎ始めた。
「しかしエアリーズのバトルトーナメントは、盛り上がらなかったな!」
「そうそう、まさか一回戦で『鉄壁』のオリバーと『疾風』のハンスが敗れるとはな。」
相席している冒険者2名の肩がビクッと震えた。
「あの、なんて言ったかな、そうそう『剛腕』と『稲妻』? とか言うのも、2回戦は棄権しちまうし、何なんだあいつらは?」
テッドとマーティンの肩もビクッと震えた。
なぜか俺達のテーブルが静かになったので、俺は「まあまあ、今日は楽しく飲もうぜ。」と言い、テッドとマーティンに酒を勧めるが、メアリーとニキが二人をギロリとにらんでいる。
かわいそうだから、やめなさい。
酔っ払いの会話は続く。
「あいつら根性が足りないんだよ。」
「そうそう、あいつらが闘技場をボロボロにして、一回戦で消えたもんだから、その後のバトルは悲惨だったぜ。」
俺達のテーブルは、なお静かになってしまった。
「そういえば、あの後のバトルはどうなったのかな?」と俺が気を取り直して言うと、皆んな首を横に振っている。
一回戦があった日もロメオの工房に直行したし、翌日は、俺は獣人の村に行って、他はゴーレムの修理でトーナメントを見ていないのである。
「良かったら、ワシらが話してあげよう。」と相席している冒険者が話しかけてきた。
どうやら二人は、エアリーズのバトルトーナメントを最後まで観戦したらしい。
二人から聞いた話によると、闘技場の舞台がボコボコになったせいで、転倒するゴーレムが続出し、有力候補は次々に消えていったらしい。
そして決勝戦は、史上初の半身型のゴーレム同士のバトルとなり、やはり途中でどちらのゴーレムも転んでしまった。
操縦席から放り出された両選手の取っ組み合いのケンカにより勝敗が決まり、ゴーレムによるバトルでもなんでもない最後に、会場の観客からはブーイングの嵐だったそうである。
俺達は、バトルトーナメントの壮絶な最後に息を飲んだ。
メアリーは、エアリーズの領主の事を心配しているのか、頭を抱えている(メアリーの頭にはエアリーズの領主の「このトーナメントは我がエアリーズの誇りですよ」という言葉がこだましていた)。
ふたたび、隣の酔っ払いが騒ぎだした。
「もうさ、あいつらの事はこう呼ぼうぜ。『鉄壁』と『疾風』じゃなくて、『う◯こ』と『おならぷー』だ。」
「そりゃいいや! じゃあこっちは『剛腕』と『稲妻』じゃなくて『ふにゃふにゃ』と『へなへな』だぁ。」
「「「「ゴウラァーーー!」」」」
テッドとマーティンと、なぜか相席の二人まで鬼の形相で立ち上がり、隣の酔っ払いをにらんでいる。
「な、なんで、あんたらが怒るんだ?」と言いながら隣の酔っ払いがびっくりしている。
「「「「俺が『鉄壁』『疾風』『剛腕』『稲妻』の『オリバー』『ハンス』『テッド』『マーティン』だぁー!」」」」
隣の商人らは「ひゃー、出たー!」と叫ぶと、あわてて酒場を出ていった。
酒場のお客さんは、「誰だって? 一緒に言うから分かんなかったよ。」などと、よく聞こえなかったようである。
しかし、同じテーブルにいた俺達には、誰が相席いていたのか、ようやく分かった。
「ほう? まさかお前らだったとはな。」と相席の二人、オリバーとハンスがにらんできた。
「お前らのおかげで、俺達がどれほど苦労したと思ってるんだ?」とテッドとマーティンの二人も負けずとにらみ返している。
「それは、こっちのセリフだ!」
「上等だ! 表に出ろ!」
ついに、4人はバトルトーナメントの再戦を始めそうな雰囲気である。
「あなた達! ケンカをするのは勝手だけど、ゴーレムを壊したら分かってるわね。」とメアリーが一喝した。
「お、おう。ゴーレムを使うのは無しだ。」とテッドが言うと、マーティンだけでなく、オリバーとハンスも「そ、そうだな。ゴーレムは使わない。」と応じてきた。
どうやら、オリバー達もゴーレムの修理に苦労したらしい。
4人は酒場の外に出て行くと、取っ組み合いのケンカを始めたようで、ドンガラガッシャーンとか、「この野郎やりやがったな!」とか聞こえてくるが気にしたら負けである。
メアリーとニキはやれやれといった仕草をして、食事の続きを始めるし、俺は酒を飲みながら異世界の料理を楽しむ事とした。
30分も経っただろうか、表の様子が静かになったと思ったら、4人が肩を組んで酒場に戻ってきた。
「ワッハッハ! なかなかやるじゃないか。」、「お前も大したものよ。」とお互いの健闘を讃えあっている。
何なんだお前らは? いわゆる脳筋にありがちな拳を交えれば皆友達というやつか?
4人は、ふたたび俺達のテーブルにドッカと座ると、酒の入ったジョッキで乾杯を始めた。
「お互いの健闘を讃え、かんぱ〜い!」
漢達の熱い夜は、遅くまで続くのであった。




