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26 スケルトンとの交渉

 どこにいたのか、廃屋はいおくの前にたくさんの武装した骸骨がいこつの兵士が現れ、ペロは捕われてしまった。

 俺は刃渡り15センチ程のナイフを出して身構えるが、骸骨の兵士はそれぞれよろいを着ている上、剣は1メートルはあり、とても勝負になりそうにない。


 骸骨の魔物とはいえ、元は人間なのだから、もしかして交渉の余地がないか、俺は試してみる事にした。


「ちょっと待ってくれ! 俺達は怪しいものじゃない。もし責任者がいるなら、話をしたい。」


 魔物相手にバカな事をしてると自分でも思うが、ペロを何としても助けなくてはならないとの一念で、声をかけてみた。

 すると、骸骨の兵士達は顔を見合わせて、突然笑いだした。


「ヘッヘッヘッ、俺達スケルトンに怪しいものじゃないだって? どう見ても怪しいのは俺達だろうが。」


 骸骨がしゃべった! 異世界すげぇ。

 会話できるという事は、まだ望みがある。


「この屋敷に無断で入ったのは謝るし、ここには2度と来ないから、その子を離してくれないか?」

「それはダメだ。ここの屋敷の秘密を知ってしまったからには、かわいそうだが二人とも死んでもらう。」


「俺達を殺せば、俺の仲間が探しにくるぜ。もちろん強力なゴーレムに乗ってな。それよりも、俺達を解放した方が、ここの秘密は守れる。頼む、約束する。」

「ダメだ! 強力なゴーレムなんぞハッタリだ。みんな、あいつを捕まえるんだ。」


 やはり魔物に交渉は無理があったかと考えてたところで、屋敷の玄関がバタンと開いた。


「やめるです。」


 そこには、やや背が低く、何も身に付けていない骸骨が立っていた。


「その人達を放してあげるです。」

「お嬢様! しかしこいつらを解放したら、いずれ討伐隊がやって来て、ここには住んでいられなくなります。」


「…それは仕方のない事なのです。いつまでもこの屋敷にいても、先はないです。」

「そんな…。ウッウッウッ…。」


 いつの間にか、スケルトン達は、お嬢様と呼ばれた骸骨の周りに集まり、膝をついて泣き出した。

 何か、骸骨の魔物なのに、こちらが悪い事をしているような気分になる。


「あの〜、俺は魔境の調査をしている保安官のリュウって言うんだが、君達は魔物ではないのか?」


「我々が魔物ですと? 確かに今はこんな姿になってしまったが、元は由緒あるスペンサー伯爵家の人間ですぞ。」

 屋敷の中から蝶ネクタイをした別の骸骨が現れ、少し怒った風に話し出した。

「怒ったのなら謝る。話は俺が聞くから、あの子は帰してくれ。」


 その後、ペロが解放されたので、俺はペロに村に帰るように言い、ここの屋敷の事は村の皆んなには言わないように話した。

 もちろん、もし俺が帰って来れなかった時は、エアリーズの街のニキ達を呼びに行くよう説明してある。


………


 それから俺は、屋敷の2階に行き、骸骨達から話を聞く事になった。

 意外にも、表からは廃屋に見えた屋敷は、中は綺麗に掃除されており、応接間のソファーに腰掛けて話を聞いている。

 自己紹介して分かった事は、お嬢様と呼ばれていた骸骨がスペンサー伯爵家のサラお嬢様といい、蝶ネクタイをしていたのが執事のセバス、武装していた骸骨のリーダーが警備隊長のディエゴというらしい。


「元は貴族の皆さんという事は分かったが、どうしてそんな姿になったんだい?」

「スペンサー伯爵家は、北はエアリーズ、南はジェミナイ、東は半島のリオに隣接する広大な土地を治めるサマル王国の貴族でした。10年前の、サマル王国とカサンドラ共和国の戦争で、ジェミナイの先の国境付近が戦場になったです…」


 サラの話によると、スペンサー伯爵はサマル王国で「炎の勇者」と呼ばれるゴーレム乗りだったらしく、国王からの要請により、戦場となった国境へ向かったらしい。


「お父様は、カサンドラ共和国との戦争には反対でした。お母様が早くに亡くなったので、私一人が屋敷に残るのが心配だったのだろうと思うのです。早く戦争を終わらせて帰るからと言ってたのですが…、あの黒い津波が何もかも奪ってしまったです。」


………


 10年前、カサンドラ共和国との戦争でスペンサー伯爵領が戦場になる事を恐れたお父様は、スペンサー伯爵領の王都に近い場所にあるこの屋敷に私達を避難させました。

 その頃は、この辺りは牧場まきばが広がり、美しい場所でした。


 お父様が戦場に旅立ち、10日が過ぎた頃だったでしょうか。

 私はこの部屋で大好きな読書をしていたところ、警備隊長のディエゴの声で現実に戻されました。


「お嬢様お逃げください! 黒い津波が押し寄せてきてます。」

「黒い津波?」

 私はあわてて2階の窓から外を見ると、南の方角の牧場に黒い津波が押し寄せてきているのが見えました。


「あれは何?」

「分かりません。でも、戦場の方角から来てるし、何かやばい感じがビンビンする。早く逃げましょう!」


 私達は、すぐに屋敷を出て避難口から地下通路に入ろうとしたのですが、そこで黒い津波におそわれて、全身に激痛が走ったところで記憶が途切れたのです。

 そして気が付いたら、屋敷の周りは魔境となり、私達はスケルトンの魔物になって、屋敷の前に倒れてました。


………


 俺は、サラの話に何と声をかけてあげたらいいのか、しばらく言葉が出なかった。

「それは、何かの病気という事はないのか? まだ魔物になったとは限らないだろう?」

「この屋敷の周りには、魔物避けの結界が張ってあって、私達はその結界を越えられないです。魔物である私達は、この結界内に閉じ込められてるです。」


「しかし、人間の時の記憶もあるし、何より俺と普通に話ができているから、何か方法があるんじゃないか?」

「リュウ様は、優しいです。私もこんな魔境からは早く出たいです。でも、もはや死ぬことも許されないスケルトンになってしまったから…、リュウ様、お願いです。私達を討伐してください。」


「討伐? いやいや、君たちは何も悪い事はしてないんだし、討伐なんてできないよ。」

「こんな姿で…、魔物の姿で10年生きました。もう早く死んでお父様、お母様のところに行きたいです。」


 ガシャガシャという音がして横を見ると、骸骨のセバスやディエゴ達が俺の方にいっせいにひざまずいている。


「リュウ殿、私達からもお願いします。どうせ魔物として討伐されるなら、リュウ殿のような人間として扱ってくれる人に討伐されたい。皆んな一緒に討伐してくださいませ!」

「ちょっと待ってくれ! 落ち着いて考えよう、な? 何か方法があるはずだ。そうだ、俺は光魔法が使えるから、それで治るとかはないのか?」


「おお〜。光魔法は、生者には回復魔法によりいやしの効果があるが、死者には地獄の苦しみと聞きます。ぜひそのお力で、われらを討伐してくださいませ〜。」

 セバスがそう言うと、全員がずいっと一歩前へ出てきた。


「絶対にダメだ〜! 討伐じゃなくて、元に戻る方法を考えてくれ。」

「もう10年、研究しても元に戻れないです。」

「研究って、どんな研究をしたんだ?」

「元に戻る方法があるとしたら、魔法しかないです。ここには、魔導書を多く持ってきてたから、それで研究したけど、方法が無いです。」

 サラはそう言うと、部屋の壁にある本棚を指さした。


 俺は「ちょっと見せてくれ。」と言いながら、一冊の本を開いてみた。すると、驚いた事に文字は英語で書かれており、その内容を読む事ができる。


「この文字は…、何で英語なんだ?」

「この文字は、はるか昔、竜神様の御使様みつかいさまからもたらされたと言われてるです。」


 そうか、はるか昔に来た先輩の御使が、英語をこの世界の人に教えたんだな。

 もしかしたら、この魔導書の中には、先輩御使の残したヒントがあるかも知れない。


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