25 魔境の廃屋
獣人達の村からエアリーズのロメオの工房に戻ると、マーティンとテッドは、まだ魔石に土魔法を込めていた。
「ひっ、ひっ、ふ〜」
「もう…ムリ…」
マーティンとテッドは、全身汗だくとなり、魔素石の上に突っ伏している。
ニキが魔素石の状態を確認し、メアリーにうなずくと、ようやくメアリーが本日の作業終了を宣言した。
「お二人とも、お疲れ様でした。大変でしたね。」と俺が声をかけると、「誰のせいで、こんなに苦労したと思っているんだ!」と軽くキレられた。
「それで、獣人達の村では、何か収穫があったのかしら?」とメアリーから聞かれたので、今日の出来事や地龍の事、隣国からの難民の事などを、かいつまんで説明した。
「カサンドラ共和国は、思った以上にひどい状況のようね。」
「しかし地龍は厄介だな。それが本当なら、こんなとこでぐずぐずせず、いっきに国境を越えて、カサンドラ共和国に入るべきだ!」
マーティンとテッドが握りこぶしを作り、メアリーに力強く国境越えを主張している。
「あら、貴方たちはゴーレムの修理が終わらないと、ここからは動けないわよ。」
「そうだぜ。今回は、罰としてゴーレムの修理をするんだから、俺とリュウはやらないからな。」
メアリーとニキから冷たくあしらわれ、マーティンとテッドは、ヘナヘナと座り込んだ。
「えーっと、それじゃあ俺は、明日はどうしようか?」
「リュウは、地龍の動きが気になるから、もう一度獣人の村で聞き込みをしてちょうだい。」
メアリーの指示で、明日も獣人の村に行く事になった。
………
犬型の獣人であるペロは、ふたたびリュウが村を訪れてくれた事がうれしかった。
昨日は、母親の傷を一瞬で治してくれ、母親と抱き合って喜んでいたら、村長の小屋に行ってしまい、お礼の言葉も言えなかったからだ。
犬型の獣人は、種族特性のためか、よくしてくれた人にベッタリになる性格のため、もう一度会いたいと思っていたところだった。
そのリュウは、ペロ達から地龍の事が聞きたいと、ペロ達の小屋をわざわざ訪ねてきてくれたのだった。
なぜなら地龍に遭遇したのは、ペロ達親子だったからだった。
そもそも僕らは、カサンドラ共和国にある国境に近いキャンサーの街に住んでいた。
その頃は、お父さんも生きていて親子3人貧しいながらも、幸せだった。
ところが、そんな幸せは長く続く事はなかった。
「急いで村を出るぞ。みんな支度をしてくれ。」
「あなた急にどうしたの?」
「保安官が獣人を集めている。今度はストームキャット討伐に必要だからって理由だが、獣人をエサにする気だ。」
「でも、ここを出て、どこに行くっていうの?」
「隣のサマル王国に行こう。本当は獣王国に行きたいところだが、遠すぎるし西の山脈を3人で越えるのは無理だ。」
「国境はどうするの? 私達じゃ国境があるジェミナイの検問を通してくれないわ。」
「検問を通らずに、魔境の中を進むんだ。どうせここにいても死ぬだけだし、いちかばちかやるしかない。」
そうして僕ら親子3人は、夜の闇にまぎれて村を出て、魔境の浅いところを北上して、国境越えを目指した。
野宿をしながら、国境の街ジェミナイに近付き、さらに夜を待って魔境の中を国境越えをしたんだ。
ところが、ジェミナイの警備隊に見つかるのが怖くて、少し魔境の深いところを進んだのが悪かったのか、国境を越えたと思ったところで、地龍に遭遇してしまった。
『ゴゴガァ!』
「地龍だ! 二人とも逃げるんだ!」
お父さんは、僕とお母さんを逃すと地龍に向かっていったが、多分お父さんは助からなかったと思う。
僕とお母さんは、急いで魔境を出ようとしたけど、さらに間の悪いところに、僕とお母さんの目の前には、ストームキャットが現れた。
その時、お母さんは、ストームキャットから僕をかばって背中を切り裂かれたけど、そこに地龍が近付いてきたような足音が聞こえてきて、あわててストームキャットは逃げていったんだ。
僕とお母さんは、命からがら魔境の中を逃げたけど、魔境の中にあった廃屋で、お母さんは動けなくなってしまった。
背中を見ると、ひどいケガだし、廃屋にも人の気配はないし、僕は泣いてお母さんにすがりつく事しかできなかった。
僕は、いつの間にかお母さんにすがりついたまま、寝てしまって朝になっていた。
横を見ると、お母さんが横たわって目を閉じている。
「お母さん? お母さん?」
お母さんは、静かに目を開けると僕に微笑んだ。
「ペロ、よく聞きなさい。私はもうダメだろうから、あなただけでも逃げて。」
「いやだ! お母さんも一緒に逃げよう。」
「私は背中の傷がひどいから、もう無理よ、ねっ?」
お母さんは、優しく僕をさとすけど、そんなのは絶対にイヤだった。
そこで、お母さんの背中の傷を確認すると、相変わらずひどいケガだけど、なぜか血が止まっている。
「お母さん、もう血が止まってるよ。ねえ、もう少し頑張って逃げようよ。」
その時、廃屋の横にある小屋の扉が、ギギギィーと軋みながら開いたんだ。
僕らは何かいるのかと驚いたんだけど、その小屋の中を見ると、地下通路があって、そこを通ったら、ここエアリーズの獣人の村の近くに出たんだ。
………
俺は、獣人の親子から、カサンドラ共和国からサマル王国までの逃避行の話を聞いた。
「つらい出来事だったと思うが、話してもらえてありがとう。」
「いいえ、私達の話が何かの役に立てば、いいのですけど。」
「十分役立つ情報をいただきました。しかし、その廃屋があって良かったですね。」
「ええ、かなり大きなお屋敷跡のようでしたから、昔の貴族のお屋敷だったのかもしれませんね。」
「僕、そのお屋敷跡まで、連れてってあげるよ。もしかしたら、何かお宝が眠ってるかもしれないし。」
「魔境の中にあるんだろ? 危ないんじゃないか。」
「大丈夫だよ。僕らが通ってきた地下通路があるから。ねえ母さんいいでしょ。何かお礼がしたいんだよ。」
ペロに根負けして、俺はペロに連れられて、魔境の廃屋を確認する事にした。母親は、まだ体力が戻っておらず、村に残っている。
ペロについて魔境に入ると、岩の横に隠れるように洞穴の入口があり、少し進むと、人工的に作られた通路になっていた。
「リュウ、言ったとおり地下通路があっただろ。」
「本当だな。そのお屋敷の貴族が作った脱出用の通路だったのかもな。」
そしてついに、俺達は魔境の中の廃屋にたどり着いた。
元は、かなり立派なお屋敷であった事が伺われるが、今や完全な廃屋となっており、幽霊屋敷のようである。
ペロは早速、屋敷に入れる入口を探しているが、玄関は閉ざされていて入れない。
俺は、屋敷の裏に回ってみたところ、花壇にキレイな花が咲いている。匂いを嗅いでみると、ハーブのような香りがする。
雑草も抜いてあるようで、誰かが手入れしているとしか思えない。
「ギャァー! リュウ助けて!」
あわてて振り返ると、ペロは、武装した骸骨の兵士に捕まっていた。
俺は、ここが魔境である事を忘れていたようである。




