24 エアリーズの獣人の村へ
ロメオの工房で、マーティンとテッドは、魔素石にまたがり、土魔法を込めている。
「何で、僕がこんな事を。」
「おう、これぐらい魔法を込めたらもういいんじゃないか?」
「まだまだ、ぜんぜん足りないよ。リュウが魔法を込めた魔素石と比べてみな。」とニキが言うと、二人は、見本に置いてあったリュウが土魔法を込めた魔素石と比べる。
「何だよこれは、パンパンに魔法が込められているじゃ無いか。こんなの無理だぜ。」
そう二人が言うものの、メアリーとニキから「「泣き言いわず、とっととやれ!」」と言われ、しぶしぶ魔素石にまたがり魔法を込め始めた。
「あの〜、土魔法を込めるだけなら、すぐできるんだけど…。」
「リュウは黙っといて! これは罰なんだから、リュウがやったら意味がないでしょ。」
「はい、すみません…。」
昨日のバトルトーナメントでゴーレムを壊した罰として、マーティンとテッドはゴーレムの修理を命じられ、二人で魔素石に土魔法を込めるところから始めているところである。
「リュウ、ヒマなら獣人の村へ行って、様子を見てきてくれねぇか?」とニキが言うので、俺は一人でエアリーズの獣人の村へ行くことにした。
………
馬にまたがり魔境を目指して行き、ギルドの魔境支部で獣人の村の場所を聞くと、エアリーズでも魔境の入口近くに獣人の村はあった。
エアリーズの獣人の村は、これまで見たどの村よりも獣人の数が多そうだったが、貧しい生活ぶりは一緒である。
村の入口で馬を降り、馬を引いて村の中に入ると、やはり屈強な獣人達に囲まれてしまった。
「俺は魔境の調査をしている保安官のリュウだ。ここの責任者に会いたい。」
「魔境の保安官だぁ? 聞いたこたねえなあ。」
獣人のうちの熊型の獣人が腕組みをしながら、一歩前へ出てきた。
「君がここの責任者か? リュウだよろしく。」と右手を出すが、熊型の獣人は腕組みしたままである。
「今、この村の責任者はいねえ。用事があるならここで言いな。後で伝えてやるぜ。」
「そうか。俺は魔境の調査のために獣人から魔境の様子を聞いて回っている。それから、俺は回復魔法が使えるから、ケガとか病気の人がいれば教えてほしい。もちろん、魔石はこちらで用意するから心配しなくていい。」
周りの獣人達が、「回復魔法を? 本当か?」とガヤガヤ騒ぎだした。
「ケッ、人族が獣人に回復魔法をだと? ウソも大概にせい、ウソに決まっとる。」と熊型の獣人が吐き捨てるように言う。
すると後ろにいた犬型の獣人が、「でも、本当だったらよう…。」と熊型の獣人にささやいている。
「チッ、本当に回復魔法をタダでかけてくれるんなら、やって見せてくれ。話はそれからだ。」
熊型の獣人は、そう言うと、村の中の小屋に向かって歩き出した。
小屋に入ると、ざっと30人程の獣人が寝かされているのが目に入った。
熊型の獣人は、腕組みをしたまま、さあやってみせろと目で合図してくる。
入口のすぐ近くに、犬型の女性の獣人が、うつ伏せに寝かされており、その背中は血止めの薬が塗られているようだが、魔獣にでも襲われたのか、右肩から左脇腹まで、大きく削られていた。
その脇には、10歳くらいの獣人の男の子がおり、親子のようであった。
「どれ、この人からやるかな。」と言いながら魔石を挟んだベルトを右手に巻いて近づくと、その男の子がこちらをにらんでうなり声を上げる。
よく見ると、男の子の目には涙が滲んでおり、手も震えている。
「大丈夫だよ。これからお母さんの傷を治してやるからな。」と言い、右手を傷に当てた。
「ヒール!」
小屋全体が明るくなるほど光ったかと思うと、大きな傷全体に淡い光が染み込んでいった。
同時に、傷口から肉が盛り上がり始め、きれいに治ってしまった。
「おお〜、あんなひどい傷が一回の回復魔法で治った?」
周りの獣人が驚きの声を上げる。
「お母さん?」と男の子が母親に声をかけると、母親の獣人は、「う、うーん」と言いながら身じろぎし、顔を上げ男の子を見ている。
「お母さん!」
「ペロ?」
二人は泣きながらお互いを抱きしめており、周りの獣人ももらい泣きしながら、二人を見守っている。
「さあ、ジャンジャンいくぞー!」
俺は、腕まくりしながら、片っ端から回復魔法をかけていった。
………
「いや、疑ってすまなかった。」と熊型の獣人が頭を下げてくる。
「別に気にしてないさ。どこの村でも人族はこんなもんさ。」
俺は、多くのケガ人達を治した後、この村の長の小屋に招かれ、お茶のもてなしを受けていた。
長は猫型の女性の獣人で、80歳くらいの老人であった。
テーブルは小さく、俺と長だけがイスに座り、その後ろに、熊型の獣人をはじめ4〜5人の獣人が立っている。
「若い者は、人族の悪いところばかり見てるから偏見があるのさ、許しておくれ。昔は人族とも仲良くやってたんだけどね。」
「という事は、昔はエアリーズの街で人族とも仲良く暮らしていたのか?」
「ええ、そりゃ少しは諍いもあったけど、仲良く暮らしていたさ…。ところで、魔境の調査をやってるんだってね。」
「そうなんだ。もし何か情報があれば教えてほしい。」
「そうだね。あんたには世話になったから、とっておきのを教えてあげるよ。ここからさらに南に下った国境付近で、地龍が出たそうだよ。」
「ドラゴン? ドラゴンがいるのか?」
「当たり前じゃないか。やつら群れで移動するから、魔境の入口付近に出てくると軍隊でしか対応できないが、国境付近に出たやつは1頭だけのはぐれ龍らしいよ。」
「じゃあ討伐可能か。ちなみに、ハードベアーと比べると、大きさはどれくらいなんだ。」
「そうさね。個体差もあるけど、ハードベアーよりだいたい2倍くらい大きいかね。」
「えっ?」
ハードベアーでさえ、全身型のゴーレム3台でようやく討伐できたのに、その2倍の大きさとは。
「ほかにも、国境の向こう側には、フレアキャットとストームキャットもうろついてるらしいよ。」
「貴重な情報ありがとう。これから国境を越えて南に行く予定だから、助かったよ。しかし、よく国境の向こう側まで分かるもんだ。」
「そりゃあ、魔境に国境はないからね。」
「ふむ。」
どうやら、ここの獣人達は魔境の中を国境を越えて狩りをしているらしい。
「そういえば、ここの獣人達は、ほかで見た獣人の村より人も多いが、ケガ人や病人も多いな。何か理由があるのか?」
「……。」
あれ? 何か聞いちゃいけない事を聞いたか?
「あんたには世話になったし、また助けてもらえるかもしれないね。」と長は言うと、周りの獣人に目で合図した。
周りの獣人達は、長の小屋の扉と窓を閉める。
「ここから話す事は、あんたを見込んで言うのだけど、ここの村の人数が多いのは、隣のカサンドラ共和国から逃げてきているからだよ。」
「つまり越境してきているのか?」
「そうだよ。獣人の扱いがひどいのはサマル王国もだけど、隣のカサンドラ共和国は、そりゃひどいもんさね。あんなとこじゃ、あたしら魔獣のエサさ。」
俺は、バーゴーの街で、獣人達がハードベアーのおとりにされそうになった事を思い出した。
「それで、どうするね? あたしらをエアリーズの保安官に突き出すね?」
周りの獣人達の目がギラリと光り、今にも襲いかかってきそうである。
「そんな事はしないさ、信じてもらっていい。あの小屋にいた、たくさんのケガをした獣人達は、国境を越えるために魔獣に襲われたのか?」
「そうだよ。あんたが最初に傷を治した親子がいただろう? あれは父親が魔獣に襲われて、母親も子供をかばって傷を負ったけど、何とかこの村までたどり着いたのさ。」
「そうだったのか、知らなかったよ。信じてもらえないかもしれないが、俺達は、魔境の調査と獣人の様子を見て回っている。うまくいけば、サマル王国では、昔のように人族と獣人が仲良く暮らせるようになるはずだ。」
「そんなのは夢物語だ。あんたには悪いが人族は信用できない。」と後ろにいた獣人の一人が声を上げる。
「確かに、夢物語だけど、夢を見てもいいんじゃないかい? あたしは、このリュウを信用するよ。」
俺は、大きな使命を背負ったように感じた。




