23 死闘の末に
闘技場では、テッドとオリバーの死闘が続いている。
テッドは、かろうじてボコボコになった舞台に足がかかり、オリバーからの強烈な押し込みを止めている。
鋼鉄で出来た盾と盾がギリギリと大きな音を立てており、両者の力の大きさがうかがわれる。
「なかなかやるじゃないか。私の『鉄壁』のゴーレムと、ここまで健闘しただけでも、末代までの誉れとするが良い。」
「健闘じゃなくて、勝つんだよ!」
テッドは、そう言うと、ゴーレムの蒸気機関の圧を上げたその時だった。
『ゴキン!』
オリバーのゴーレムの左足の辺りから、魔素石にヒビが入ったような音が響き渡る。
『あーっと、「鉄壁」のオリバーのゴーレムから、魔素石が折れたような音が聞こえたぞー!』
「はっはっは〜。いい音が聞こえたなぁ?」
「ぬぅおー、左足がいかれたか? しかし魔素石は鉄板で補強してある、しばらくは持つはずだ。こっちも蒸気の圧を上げるぜ。」
オリバーのゴーレムから、プシューと盛大に蒸気が吹き出した。
『バキン!』
今度はテッドのゴーレムの右足の辺りから、魔素石にヒビが入ったような音が響き渡る。
『おーっと、今度は「剛腕」のテッドのゴーレムから聞こえたぞー!』
二人は「もっともっと蒸気の圧を上げていくぜー!」と同時に言うと、双方のゴーレムから一斉に蒸気が吹き出し、二体の姿が見えなくなった。
その時ついに、オリバーのゴーレムは左足が、テッドのゴーレムは右足が砕け、二体はドウと横倒しになった。
観客達からは大歓声が上がっている。
「いやはや、初戦から大変なバトルになりましたな。あのオリバーがあれほど苦戦するとは。」
「あ、あ、あ、…」
メアリーは、貴族用の観覧席から身を乗り出し、驚愕に目を見開いたままワナワナと震えている。
「おや、メアリー殿どうされました?」
一方で、一般用の観客席では、リュウの横でニキがワナワナと震えながら、テッドのゴーレムの折れた右足を見つめていた。
「あ、あ、あ、…」
「ニキ?」
「「あ、足が折れた〜! あんのやろうー!」」
闘技場にメアリーとニキの声が響き渡ったが、すぐに歓声にかき消された。
『さあ〜大変なバトルになりました。両者ダウンした場合、先に立ち上がった方が勝者となります。』
そして、双方、剣を杖に何とか立ち上がり、わずかに早かったテッドが勝者となったものの、右足が折れたため、2回戦は棄権となった。
………
「ほっほっほっ、初戦から大番狂わせでしたな。メアリー殿は、落ち着かれましたかな?」
「先程は、失礼致しました。初めてのバトルに興奮してしまって、お恥ずかしい。」
「ほっほっほっ、第二試合も見ものですぞ。優勝候補の『疾風』のハンスですからな、対戦相手は、おや? これも見たことのないゴーレムですな。」
メアリーは立ち上がり「まさか?」とつぶやいた。
『さあ第二試合は、「疾風」のハンスが登場だあ。いよいよ、飛龍をも上回ると言われる速さを、見ることができるのかー!』
東のゲートにハンスのゴーレムが姿を現した。
ハンスのゴーレムは、全身をストームキャットの毛皮で覆われており、空色のスマートな型で、マーティンのゴーレムとよく似ている。
ハンスのゴーレムから『ゴウ!』というジェット噴射のような音が聞こえたかと思ったら、一瞬で舞台まで飛び上がり、舞台の端に何事もなかったように立っている。
『これが「疾風」だー! あまりの速さに、どうやって舞台に上がったのか分からなかったぞー。続いて西のゲートには、「稲妻」のマーティンが登場だぁ。こちらもスピード重視のゴーレムだから、このバトルからは目が離せないぞー!』
マーティンのゴーレムからも『ゴウ!』という音が聞こえたかと思ったら、一瞬で舞台まで飛び上がり、舞台の端に何事もなかったように立った。
「ふっふっふっ、『疾風』に対抗して『稲妻』とは恐れ入ったよ。しかし、私のゴーレムには、ごまかしはきかないよ。」
「ほざけ、勝負は一瞬だ。俺様は、テッドのような無様なバトルはしない。」
『両者バトル前から気合十分だ〜。速さ重視のこのバトル、ここからは、瞬き禁止だぁー。』
そして舞台端でそのまま双方剣と盾を構え、試合開始のゴングが鳴った。
『キュィーン』
双方のゴーレムから、先程のジェット噴射を鋭くしたような音が響き渡り、少しだけ舞台から浮いているようだった。
「ニキ、二人のゴーレムは、少し浮いているような気がするんだが、どうなってるんだ?」
「あれは、ゴーレムの足と背中から風魔法で空気を吹き出して、少し浮かしているんだ。そこから地面をけって移動すると、ゴーレムではあり得ねえスピードが出るんだ。」
観客席のリュウとニキが話していると、舞台上の二体のゴーレムは、残像を残し時計回りに舞台上を回り始めた。
「ほう? 私のゴーレムのスピードについてくるとは、なかなかのものだよ。」
「俺の本気は、こんなもんじゃないぜ。」
二体のゴーレムは、目にも止まらぬ速さで舞台の周辺部の対角線上を時計回りに回っていたが、急に直角に曲がると、地を蹴って舞台中央に向けて突進を始めた。
「民衆よ刮目せよ! 『疾風』の速さに驚くがいい。」
「田舎者がぁ! 世界の広さを知るがいい。」
二体のゴーレムは、猛烈なスピードで舞台中央に向かって直進していたが、舞台中央付近でボコボコになった舞台につまずき、ゴロゴロと転がると、『ガッシャーン』という音を響かせ衝突した。
『あーっと、どちらも先程のバトルでボコボコになった舞台に足を取られたのか、転がってしまった〜。剣と盾もどこかに飛んでいったぞ〜。何という不運、せっかくのスピード勝負が台無しだ〜。』
そこから二体のゴーレムは、舞台中央で転がったまま、拳と拳の殴り合いに発展して、泥試合の様相を呈していた。
『何という泥試合! もはやただの兄弟げんかだ〜。』
「いやはや、とんだ泥試合となりましたな。スタイリッシュなスピード勝負を期待していたのですが。」
「な、な、な、…」
メアリーは、貴族用の観覧席から身を乗り出し、驚愕に目を見開いたままワナワナと震えている。
「メアリー殿?」
一方で、一般用の観客席では、リュウの横でニキがワナワナと震えながら、この泥試合を見つめていた。
「な、な、な、…」
「ニキ?」
「「な、何をやっとるんじゃあ、あいつらはー!」」
闘技場にメアリーとニキの声が響き渡ったが、すぐに歓声にかき消された。
………
ロメオの工房に、マーティンのゴーレムとテッドのゴーレムが吊るされている。
テッドのゴーレムは、工房の床に折れた右足が置かれており、マーティンのゴーレムは、全身ボコボコになり、見るも無残な姿となっている。
そして、マーティンとテッドは、二体のゴーレムの前で正座しており、メアリーとニキが仁王立ちで二人を見下ろしている。
「それで、何か言いたいことは?」とメアリーが、いつもより1オクターブ低い声で凄む。
「足場さえしっかりしていれば、本当は、サクッと終わる予定だったんだよ。どこかの誰かさんが、闘技場の舞台をめちゃくちゃにしたせいで…」
「悪いのは俺じゃないぞ。オリバーの野郎が、意地になって頑張るから、ああなったんであって…」
「「はあーん?」」
メアリーとニキの一声で、マーティンとオリバーは下を向いて沈黙する。
「そもそも私は、今回のバトルトーナメントの出場の件は聞いてないわよ。リュウ、どうして言ってくれなかったの?」とメアリーは、リュウをギロリとにらみながら言う。
「いや、昨夜マーティンとテッドがメアリーを説得するからって言ってたんだけど…。」
今度は、メアリーがマーティンとテッドをギロリとにらむと、二人はサッと目線を下げた。
「俺も、昨日さんざんやめろって言ったのに、聞く耳持たなかったんだ、この二人は。」とニキが追い討ちをかける。
「そう、だいたい分かったわ。二人には罰が必要ね。」とメアリーが言うと、マーティンとテッドはガタガタと震えるのだった。




