20 新たな出会い
俺達は、バーゴーの街を後にし、魔境を左手に見ながら、次の街へ向かって街道を南下すべく馬を走らせていた。
ニキがうれしそうに話しかけてくる。
「あ〜俺もその姿見たかったぜ。」
ニキがメアリー達から聞いた話を思い出しているようである。
メアリー達から聞いた話によると、ハードベアー討伐についてバーゴーの領主に説明したところ、ハードベアーを討伐できた事を大いに喜んだが、獣人達に褒美を出すのは渋ったらしい。
そこで、トム保安官が、いかに獣人達が活躍したか熱弁を振るった事から、領主も褒美を出す事に同意したそうである。
ニキと笑いながら前を見ると、1台の馬車が街道に立ち往生しており、その周りを武装した10人程の人が囲んでいるのが見えた。
「お前ら止まれー!」
武装した内の一人が、こちらに手を振って街道を通せんぼしている。
武装した連中は冒険者よりも凶悪な人相をしており、まともな人には見えない。
「お前ら全員馬から降りろ! 命が惜しかったら、身ぐるみ全部置いていけ。」
やはり見た目通りの盗賊らしい。
馬車の向こうでは、ドワーフの夫婦が跪き、命乞いをしている。
おそらく馬車の持ち主なのだろう。
「いやだと言ったら?」さっそくマーティンが蔑むような目で言い出した。
「はあー? この人数が見えねえのか? 素直に従えば命までは取らねえ。早く馬から降りろ。」
一番後ろにいたテッドは「やれやれ。」と言うと、おもむろにストレージからゴーレムを出し、素早く乗り込んだ。
盗賊達は、突然現れたゴーレムに驚き固まっている。
「それで、どうするって?」
マーティンがふたたび尋ねる。
「野郎ども逃げろ! ゴーレム持ちだぞ!」
その声を合図に、一斉に盗賊達は逃げ出し、まさに蜘蛛の子を散らすように、全員が別々の方向に逃げていった。
「見事な逃げっぷりだなぁ。」
「リュウ、あいつら追いかけなくていいのか? 俺達は保安官だぜ。」
ニキが不安気に聞いてくる。
「あそこまでバラバラに逃げられては、どうしようもあるまい。次の街で、そこの保安官に伝えれば良かろう。」
盗賊達が逃げた後には、馬車と、あっけに取られたドワーフの夫婦が残されているだけである。
………
「いやぁ〜、地獄に仏とはこの事ですよ。」
ドワーフの夫婦は馬車に乗り込み、メアリーの乗った馬と並走している。
「ところで、みなさんはエアリーズの街に行かれるので?」
「うむ、エアリーズの街に寄って、さらに南下して国境の方へ行く予定だ。」
「やはりそうでしたか。私達はエアリーズで工房をやってるんですが、是非お礼をしたいので家に寄って行かれませんか?」
「盗賊の件なら、お礼など不要だ。我々は先を急ぐからこれで。」
「ちょっと待って! 待ってください。本当は今日中にエアリーズに帰れる予定だったのですが、先程の盗賊のせいで、たぶんどこかで野宿しなくてはなりません。もしまた盗賊が出たらと思うと…。」
「つまり、一緒にキャンプしてほしいと言う事か?」
「そのとおりです。お願いします!」
そう言うと、ドワーフの夫婦は深く頭を下げてお願いしてくる。
「そう言う事なら、わかった。今夜は一緒にキャンプしよう。」
ドワーフの馬車に合わせて走ると、かなり遅くなるのだが、また盗賊に襲われるのはかわいそうであった。
ドワーフの夫婦は、ロメオとマーラと言い、エアリーズで工房をしており、バーゴーへ資材の買い付けに行った帰りだったようだ。
街道脇の小川の近くでキャンプする事となり、俺はストレージからキャンプ道具一式を出していく。
「食料まで分けていただいて、すみません。」
奥さんのマーラが頭を下げてくる。
「いえいえ、こういう時はお互い様ですよ。」
俺は、食材を並べて、手際よくフライパンで肉や野菜を焼いていく。
もちろんニューヨークで購入したハーブ入りソルトをしっかり振ってある。
マーラは簡単なスープを作ってくれるそうだ。
「おい、俺も何か手伝うぜ。」
ニキが、手持ち無沙汰からか、さっきから周りをウロウロしている。
「じゃあ、そこの食器を並べてもらおうかな。」と言うと、喜んで並べだした。
ニキの料理の腕は、ご存知のとおりである。
突然のキャンプにも関わらず、豪華な夕食となり、ロメオ夫妻は驚きながらも喜んでいた。
「いやあ、皆さんには驚かされてばかりです。昼間見たゴーレムも、全身型の強力なもののようでしたが、他の皆さんもお持ちなのですか?」
「ええ、私とマーティンも全身型を、ニキは半身型を持っています。」とのメアリーの答えに、ロメオは身を乗り出した。
「実は、明後日エアリーズの街では、ゴーレムのバトルトーナメントが開かれるのですが、その出場者の受付が確か明日までなんですよ。どうです、皆さん出場なさっては? 賞金も出るようですよ。」
「いえいえ、私達は旅の途中ですから、遠慮しておきますよ。大切なゴーレムをバトルで傷める訳にはいきませんからね。」とメアリーが言うと、皆うなずいている。
「それより、ゴーレムの点検をしたいんだけど、ロメオさんの工房を貸してくれよ。」
ニキがそう言うと、ロメオは嬉しそうに「それはいい、いくらでも使ってください。」と答えていた。
その後、火の番を交代でする事を決め、それぞれ就寝となった。
リュウは、寝るとニューヨークの朝が始まった。
………
その日の警察での勤務を終えると、ゴードンから呼び出しがあり、リュウは、ゴードン工房に向かった。
「リュウ、疲れてるとこすまんな。実は、この工房で新しい人を雇いたいと思ってな、リュウ達の意見を聞きたかったのじゃ。」
「ゴードンさんが、良いと判断したのなら、俺も反対はないけど。」
「私は賛成よ。正直私達じゃ、力不足だって感じてたもの。」
「そうか、ニキは分かっとることじゃが、実はゴーレム作りに行き詰まってな。大体の形は出来とるんだが、バランスが悪くて、立つのがやっとなんじゃ。専門家の協力が必要と思ったんじゃ。」
ゴードンは、そう言うと、工房に吊るしてある、黒いゴーレムを見上げた。
ゴーレムは、テッドのゴーレムよりは細身であるが、メアリーのゴーレムよりはガッシリしていて、炭素繊維で表面を覆っているため、全身真っ黒である。
そこに工房の扉が開き、一人の男が入ってきた。
「ゴードン会長?」
「おう、ここじゃ。リュウ、あいつが話していた専門家じゃ。ゴードングループの研究部門から引き抜いてきた。」
その男は、歳の頃30代半ば頃で、ボサボサの髪で白い研究服を着ており、ゴードンを見つけるやいなや、つかつかとゴードンに向かって来た。
「会長〜、ひどいですよ〜。確かに、この間の原子力の研究では、危うくメルトダウンしかけましたけど、あれは不可抗力ですから。もう原子力には手を出さないと誓いますから、研究室から追い出すのはやめてください〜。」
何やら、ゴードンに必死に訴えている。
「ええい、うっとうしい。何も追い出すとは言っとらん。お前さんには、ここで新しい研究をしてもらいたくて来てもらったんじゃ。」
「えっ? ああそうなんですか、良かった。了解しました会長。ゴードングループのお金を使って研究さえできれば、どこでもいいです。」
「リュウ、こいつの名前はエドガー・グリント。こんななりだが、物理から化学はもちろんの事、ロボット工学や軍事兵器まで何でも知っとる天才じゃ。」
一通りあいさつを済ますと、エドガーは、ゴーレムに目を止めた。
「このでかいロボットのオブジェは、会長の部屋に飾るのですかな? 飾るにはバランスが悪くて危なそうですね。」
「エドガーよ、これはゴーレムと言って、これに乗って動かす、まあ乗り物みたいなものじゃ。」
ゴードンがそう言うと、エドガーはクワッと目を見開いた。




