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19 ハードベアーとの激闘

 ハードベアーと向かい合ったメアリー達から、テッドのゴーレムが一歩前に出て、その3メートルはあろうかという大きな盾を構えた。


「ハードベアーよ、まずは俺と力比べしようぜ!」

 テッドがそう言うと、ゴーレムの肩の辺りからプシューっと盛大に蒸気が吹き出した。


 ハードベアーは、テッドのゴーレムの出す蒸気に、やや驚いた様子であったが、四つん這いの体をググッと低く沈めると、驚くほどの速さでテッドのゴーレムに向かって突進してきた。


『ゴアー!』

 ハードベアーが叫びながらテッドのゴーレムの盾に体当たりをすると、『ドゴーン!』という地響きがし、テッドのゴーレムは2メートル程後ろに押しやられたものの、そこで両者の力が拮抗きっこうする。


「なかなかやるじゃないか。こっちも蒸気があったまってきたぜぇ!」

 ハードベアーは、これ以上押し込めない事にイラついたのか、二本足で立ち上がり、右手を大きく振りかぶり、テッドのゴーレムをなぎ倒そうとしている。


「こっちを忘れてもらっちゃ困るぜ。」

 その時、ハードベアーの背後にマーティンの青いゴーレムが現れ、ハードベアーの背中を切り裂いた。


『グアオー!』

 ハードベアーの背中に血が滲んでいる。


 ハードベアーが後ろを振り返った時には、すでにマーティンのゴーレムは、10メートル程後ろに飛びのいていた。


 メアリー達がハードベアーと激しい戦闘をしているのに、残念ながら俺はニキのゴーレムの背中に作られた搭乗席で見学するしかない。

「ニキ、マーティンの攻撃はなぜハードベアーに通用してるんだ?」

「マーティンの剣は、風魔法の効果が付与されていて、ハードベアーの毛皮でも切り裂けるんだ。ただし、それほど深い傷ではないから致命傷ではないがな。」


「しかし、なんてスピードだ! ハードベアーがマーティンの動きにぜんぜんついて行けてない。」

 マーティンのゴーレムは、空中に浮いているように移動し、ハードベアーの攻撃をかわしている。


「風魔法でゴーレムにホバーをかけているんだ。全体をストームキャットの皮で覆って軽くしてるからできる技だ。」


 さらに、弓矢で武装した獣人達が、いつの間にか魔境の木々に隠れながら、ハードベアーの隙を見て弓矢で攻撃している。

 ハードベアーに傷は与えられてないものの、ハードベアーはわずらわし気に頭を振っている。


 マーティンや獣人の攻撃に気を取られたハードベアーに、ふたたびテッドが近づき、その巨大な盾をぶちかました。

『ドゴン!』と大きな音がして、ハードベアーはたまらず地面に横倒しになる。


『ゴアー!』


 ハードベアーは、周りからいいように小突き回され、相当に頭に血が上っているようだ。

 再度ハードベアーは二本足で立ち上がると、テッドのゴーレムにめがけてその右手を振り下ろしてきた。


「そうらよ!」

 テッドは巨大な盾を肩で押し込むようにハードベアーにぶちかまし、盛大に蒸気が辺りに立ち込める。

 ハードベアーは、完全に棒立ちとなってしまった。


「終わりだ!」

 テッドの脇からメアリーのゴーレムがスルリと前に出ると、ハードベアーの腹に剣を突き立てた。

 その瞬間、ハードベアーの腹から炎が吹き出して、ハードベアーの絶叫がこだまする。


『ゴアァーオー!』


 そしてみるみるうちにハードベアーは炎に包まれ、息絶えてしまった。


「ニキ! い、今のは何なんだ?」

「あれはメアリーのゴーレムに仕込んでるレッドドラゴンの魔石の力だろう。ハードベアーが燃えちまうとは、とんでもねぇ火力だ。」

 リュウとニキは呆気にとられるのだった。


 魔境の森の中に隠れていた獣人達が、おそるおそる這い出してきて、ハードベアーの様子を遠巻きにして見ていたが、ハードベアーが息絶えている事を確認すると、歓声を上げた。

「スゲェ! あのハードベアーを本当に討伐しやがった。これで村も救われる。助かった!」など、口々に叫び喜んでいる。


 獣人のリーダーであるラビーが俺達の方にかけてきたので、俺もニキのゴーレムから飛び降りる。

「リュウ、ニキ、本当にありがとう。トム保安官達が逃げ出した時には、もうダメかと思ったが、本当に討伐しちまうとは。」

「俺達は何もしてないさ。礼ならメアリー達に言ってくれ。」

 俺はそう言うと、ハードベアーの向こう側で、ゴーレムの操縦席から出てきたメアリー達を指さした。

 メアリー達は、すぐに他の獣人達に囲まれて揉みくちゃにされている。


「ああ、もちろんだ。でも、彼女らを動かしたのはリュウやニキだろう? だから心からお礼を言いたいんだ。」

 俺はニキと顔を見合わせて、ハイタッチしたい気分だった。


 その後、生焼けとなったハードベアーを、魔境の木々で作った簡単なソリに乗せ、それを獣人達がみんなで引っ張って魔境を出た。

 最初、ゴーレムかストレージで運ぶよう言ったのだが、獣人達がこれくらいすると言って聞かなかったのだ。


………


 魔境の出口では、トム保安官が声高に話している。

「とんでもない大きさのハードベアーだったんだ。こんな半身型のゴーレムじゃ太刀打ちできない。ここも危ないかも知れないから、早く逃げないと。」


 そこへ魔境の出口を見張っていた冒険者が声を上げる。

「オーイ、討伐隊が帰って来たぞ〜。」

 帰ってきた討伐隊の姿を見た全員が、ワッと歓声を上げた。

 そこに見えたのは、獣人達が引くソリに巨大なハードベアーが横たわっていたからである。


 討伐隊の中にメアリー達を見つけたトム保安官は、慌ててメアリーに駆け寄ってきた。

「メアリー様、よくぞご無事で! 私もすぐに新たな討伐隊を編成し駆けつけるところだったんです。」

 そこにいた全員が、呆れた顔でトム保安官を見ている。


「ん、ん〜。トム保安官、ちょっとこっちへ。」

 メアリーが、人垣をかき分け、広場のすみにトム保安官を連れて行った。


「私は今回の討伐で何が起こったのか、全て理解しています。もちろん、あなたが私達をおとりにして逃げたのもね。」

 メアリーが微笑みながらそう言うと、トム保安官の顔色が真っ青になった。


「しかし、私はバーゴーの領主殿には、トム保安官の作戦が功を奏して、あの魔獣ハードベアーを討伐できたと報告するつもりです。」

「おおー、それでは…」トム保安官の顔が喜びに染まる。


「それには、あの獣人達に十分な褒美ほうびが必要でしょう。」

「そ、それは何で?」

「だって、あの獣人達は、すべてを見ていたのですよ。すべてを。」


 そう言うと、メアリーは、そこに集まっている全員に向かって声を張り上げた。

「みなさん、今回のこのハードベアーは、ここにいるトム保安官の立てた作戦により、最小限の被害で討伐することができました。」

 そこにいた全員から「え〜?」と言う声と、ため息がもれる。


「そして、その作戦で、大いに力を発揮した獣人達には、多額の褒美が与えられる事を、ここにいるトム保安官が約束されました。その事は、私もこの目で確認しましたので、私からもバーゴーの領主殿にはお伝えしたいと思います。」


 その瞬間、そこにいた全員から大歓声が上がる。

 獣人達は抱き合って喜び、冒険者達も獣人達の肩を叩いて喜んでいる。

 ただ一人、トム保安官は、自慢のナマズひげが垂れ下がり、呆然としている。


「チクショー、何であのナマズひげの奴の功績なんだ?」

 ニキは、今だに怒りが収まらないようだった。

「これが貴族のやり方なんだな。これであのトム保安官は、獣人達には一生頭が上がらなくなっただろ。さすがに人を動かすのが上手いぜ。」

 俺は、そう言ってプンスカ怒るニキをなだめるのだった。


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