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1 宇宙人からのお願い

 ニューヨーク市警の警察官であるリュウは、久々の休暇にキャンプを楽しむため、ピックアップトラックを運転していた。


 キャンプ地に近づき、山の木々が鮮やかに色づいているのが目に入る。

 そんな紅葉が深まり色とりどりの木々に囲まれた辺りが本日のキャンプ地で、お気に入りの場所である。


 テントを立て簡単な食事を済ませ、焚き火の前でコーヒーを飲んでいると、パチパチという薪が燃える音や、フクロウの声が聞こえてきて、普段の仕事の疲れが和らぐのを感じる。

 ここでは、都会の喧騒けんそうも、緊張も無縁である。


 燃える薪が炭火になる頃、ようやく眠気も出てきて、気持ちよく寝る事にした。


 寝袋に入ってどれくらい時間がたったのか、多分うとうとしていたと思うが、テントをまぶしく照らすライトの存在に気付き、目が覚めた。


 「おいおい、こんなキャンプ地で、何なんだ?」


 車のヘッドライトで自分のテントが照らされているのか、と思った瞬間に視界のすべてが真っ白になり、自分が寝ているのか立っているのかも分からなくなった。



『…ターゲットの思考にアクセスできました…。』

遠くの方で、女性の声が聞こえてくる。


『もうつながってる? テス、テス。あーあー、マイクのテスト中、あーあー。』

『もうつながっとる言うたやろうが! バシッ!』

あ、男の人がシバかれた音が聞こえた。


『…やあ、いきなりで驚いたと思うけど、大丈夫かい。僕の声は聞こえてますか〜?』


 こんな経験は初めてのことだった。

 何せ目を閉じても真っ白なのだから、もしかして自分は夢を見ているのかとも思ったが、自分に話し掛けてくる声を聞いて、どうもそうではなく、これは現実だと直感的に感じた。


「そちらの方が大丈夫か? 声はさっきから聞こえてるよ。」

『自己紹介が遅れたね。我々は君達地球人から見れば、宇宙人だ。この地球とは違う銀河から、ある目的があって、この星に来ている。はっきり言うと、君にコンタクトしたくて来た。』


 ああ、そうか。俺はすでに夢を見てるんだな。


『そう思いたい気持ちはよく分かる、しかしこれは現実だよ。』

「今のは、声に出してなかったと思うけど…。」

『今の君は、肉体はテントの中で寝ているが、意識は我々の管理下に置かれているという状態だ。だから、声を出さなくても思ってる事は伝わるのさ。』


「…つまり、俺はどういう状態に置かれてるって事?」

『簡単に言うと、君は夢を見ているような状態だが、この夢はリアルだっていうことさ。』


「ああ、そう…。それで、お前は宇宙の果てから俺に何かを伝えに来たというのか。」

『話が早くて助かるよ。まず我々は、地球人より高度なテクノロジーを持っているが、そのテクノロジーを発揮するために、高次の存在の力を借りている。』


「おいおい、ちょっと待ってくれよ。テクノロジー云々の事は分かるが、高次の存在というのは何だよ。」

『君たちの認識で言うと、神と言っていい。この世界に現れる時は、竜の姿をしているから、竜神様だね。』


「やっぱり夢の話のようだ。多分、明日友人達に話をしても何も信じてもらえないからね。それで、俺は宇宙船で人体実験をされるのか。」

『いやいや、そんな事はしないよ。人体実験っていつの時代の話だよ。』


「いつの時代だよって、俺たち地球人のことを昔から調べているのか?」

『ああ。かなり以前から、地球は我々の監視対象下にあったので、大抵のニュースは理解してる。』

「タブロイド誌の宇宙人ネタはインチキと思ってたけど本当だったんだな。」


『時々、我々が目撃されたり情報が漏れてたようだね。それで本題だが、我々が君にコンタクトしたのは、君がその竜神様の管理する異世界に行き、そこで生活してほしいという事さ。』


「ちょっと待ってくれ。俺のニューヨークでの生活はどうなるんだ?」

『それについては大丈夫。異世界での生活は、君が眠っている間だけのことだから、目覚めれば、これまで通りニューヨークで生活できるよ。』


「夢をハッキングしているということか?」

『眠っている間に見る異世界は夢ではなく、現実だよ。もちろん、我々が睡眠による休養は十分に取れるよう、体調のメンテナンスを行っておくから、ご心配なく。』


「なぜ、俺が異世界で生活しなきゃならないんだ。」

『竜神様の管理する世界は、10年前のある出来事で危機にひんしたが、かろうじてその危機を乗り越える事ができた。しかし今、ふたたび異世界では、ある深刻な問題が起ころうとしている。このままでは、また同じ事の繰り返しだ。そこで、それを解決するために君に異世界に行ってほしいという訳なんだ。』


「なんで俺が? 君達宇宙人が行けばいいだろ?」

『残念ながら、私達は異世界人とは姿かたちが変わりすぎていて入り込めない。その点、君達地球人は、異世界人とそっくりだから、違和感なく溶け込める。』


「しかし、ただの地球人が一人で出来る事なんて、たかが知れてるぜ?」

『その点は大丈夫。君の体に竜神様の魂の一部が入り込んで、その問題を解決に当たるからね。』


「ちょっと待ってくれ、俺の体を乗っ取るのか?」

『いやいや、君の深層意識しんそういしきの中に潜り込むといったようなことで、君の意識が失われるようなことは無い。その代わり、竜神様の力の一部を得ることができるけどね。』


「力?」

『最終的には、竜神様の様々な力を得ることができるけど、最初は体が馴染なじまないので、一番便利な回復魔法からだ。使用する時は、「ヒール」と唱えてくれ。』

「ちょっと待ってくれ、魔法?  また意味不明な言葉が出てきたぞ。」


『(先程の女性の声で)ターゲットの異世界転送の準備が整いました…。』

『どうやら、異世界に旅立つ時間が来たようだ。先程の回復魔法「ヒール」を忘れるなよ。』


「待ってくれ。もっと聞きたいことが…」と言いかけたところで、自分の意識が体に戻ってくる感触と、浮遊感、眼下に雄大な大自然の景色が広がってきた。


 眼下の景色は、広々とした草原と森、遠くにヨーロッパの古い城塞都市のような街が朝日に輝いて見え、真下にモミの木のような木が林になっており、その林の先に教会のような小さな建物が見える。


「えっ? 俺空を飛んでる? いや、そんな訳ない。あいつら(宇宙人)やりやがった、落ちてる〜〜〜」

 みるみるうちに、モミの木が迫ってきて、リュウはモミの木の枝に2、3度しがみつきバウンドして、地面に激突した。


「ガハッ!」肺の空気が全部抜けたのと、全身打撲による激痛が全身を駆け巡る。

 これは死ぬと思ったが、先程の宇宙人の言葉が耳によみがえった。


「ヒ〜ル」


 全身から淡い光がにじみ出て来たような感覚と、全身の痛みが引いて行く感覚が同時に来た。


「生きてる? 痛みも引いてきた。というか、なんで裸なんだよ!」


 未だ、全身擦り傷だらけだが、血は止まっているようで、なぜか、何も身につけていなかった。

 要は、全身傷だらけの素っ裸の男が、モミの木の下に転がっている状況だった。


「あつら、人に物を頼んでおいて、なんていい加減なんだ。これじゃ、変態で逮捕されちまう。さっき見えた教会らしきところで、助けてもらおう。」と独りごちたリュウは、さっき見えた教会らしき建物の方へよろよろと歩いていくのだった。 挿絵(By みてみん)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます♪

初めての小説投稿となります。色々ご意見あるかと思いますが、よろしくお願いします。

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