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18 ハードベアーの討伐へ

 バーゴーの街は、ロドス城塞都市に比べると、かなり小さな街で、街を囲む城壁もない。

 街の中心部は、それなりに賑やかであるが、領主の館が少し立派なだけで、それ以外は特に見るべきところも無さそうだった。


 リュウとニキは事前に聞いていた宿に行き、メアリー達と合流していた。

 メアリー達も既に領主への挨拶を済まし、宿に帰ってきたところだった。


「そういう訳で、明日のハードベアー討伐に力を貸して欲しいんだ。」

「我々も領主に挨拶している時に、その話を聞いて領主から協力を求められたんだが…。」とマーティンは渋い顔をしている。


「じゃあ、問題無いじゃないか。なぁ、頼むから助けてやっておくれよ。」とニキは、マーティンに懸命に頼んでいる。

「魔境調査は始まったばかりだ。いきなりハードベアーの討伐となれば、こちらもある程度の損害は覚悟しなければならん。そうなれば、今後の予定が大幅に遅れるかもしれん。我々の調査が遅れると、それだけ獣人の解放も遅れるかもしれないんだぞ。」


 「…。」

 これにはニキも黙らざるを得ない。


「まあまあ、ハードベアーくらいで大げさに考えすぎじゃないか? 俺達なら討伐できるぜ。」テッドが腕組みしながら話に入ってきた。


「そうだな。私達ならハードベアーごときおそれる必要はない。それに目の前の獣人を見殺しにしたら、何のための調査なのか分からないしな。」


 メアリーの発言でハードベアー討伐は決まった。

 マーティンは何か言いたそうだったが、ため息を一つ吐くとうなずいていた。


………


 翌日、魔境への入口は、バーゴーからの討伐隊の一行に獣人達とが集まり、物々しい雰囲気となっていた。

 ほとんどは防具に身を固めた冒険者達だが、複数台のゴーレムの姿も見える。

 獣人達も防具に身を固め、武器は剣や盾、弓矢のようである。


 そこにメアリー達一行が現れると、トム保安官があわてて駆け寄ってきた。

「これはメアリー様。見ての通り、これからハードベアーの討伐なんですが、今日は何用でこちらに?」


「昨日、バーゴーの領主殿から、ハードベアー討伐の協力を依頼されて本日は駆けつけた。よろしく頼む。」


「そうでしたか、ご助力感謝致します。しかし、メアリー様に何かあってはいけないので、まずは獣人達を先頭に、次に我々が、最後尾にメアリー様達がついて来ていただくという事でお願いしたい。」

 トム保安官は内心舌打ちをしていたが、それを表情に出すわけにもいかず、忌々しそうにメアリーに告げた。


 メアリーは、広場に半身型のゴーレムが5台ほど並べられているのを見て、トム保安官に質問する。

「一応確認なのだが、あのゴーレムは貴殿らが騎乗するゴーレムか?」

「あちらの3台は我々保安官用のもので、あそこの2台は冒険者達のものです。半身型ですが、バーゴーでは強力な物を用意いたしました。」

 トム保安官は、ナマズひげをじりながら、やや自慢げに説明している。


「やれやれ、あんなゴーレムじゃ、ハードベアーの一撃で吹っ飛んでいくぜ。」

 テッドが呆れたように言うと、トム保安官がムッとした表情で詰め寄ってきた。


「ハードベアーの恐ろしさは我々も十分知っておる。それだから、獣人を集めて先頭に置き、ハードベアーの隙を突く作戦なのだ。」

「まあまあ。ハードベアーの隙を突くのは、私も賛成です。しかし、トム保安官殿達は、全体の指揮をしていただく必要があるので、最後尾でお願いしたい。獣人達の後ろには、我々が行きましょう。」

 すかさず、メアリーがフォローする。


「しかし、それではメアリー様に何かあれば、上司に説明がつかないのですが。」

「心配には及ばない。貴殿らはただ黙ってうしろで見ていればよい。」

 イライラしたマーティンがトム保安官の感情を逆撫さかなでする。

 俺はこれまでのやりとりを聞いて、メアリー以外、まともに話せないのかと頭を抱えた。


「そうですか! 我々はどうなっも知りませんぞ。」とトム保安官は言うと、仲間の保安官の方に去って行った。


 獣人のラビーが俺達の方に近づいてくる。

「やあ、リュウ、ニキ、来てくれたんだな。」


「ラビー、俺達が来たからには心配いらないぜ。ハードベアー討伐は任しときな。」

 ニキはそう言うと胸を張った。

 その後、俺達は獣人達とのあいさつを済ませ、大まかな打ち合わせを行い、いよいよハードベアー討伐に出発となった。


『ギィ〜ション、ギィ〜ション』


「なんであいつらは、あんなにうるさいんだ?」

 マーティンが忌々《いまいま》しそうに後ろを振り返りながらつぶやいている。


 現在、魔境に入って30分程経っており、獣人達と俺達は徒歩で先頭を歩き、やや離れてトム保安官らがゴーレムに乗ってついてきている。


「あんな音をたてながら魔境を進んだら、ハードベアーに見つけてくれって言っているようなものだ。」

「多分、ゴーレムの足の関節部分のスライムの形状が合ってないんだろうな。ゴーレムの足は一番気を使うところだからな。」ニキもトム保安官らのゴーレムが気になるようである。


『ゴアァー!』

 突然、魔境に魔獣の声が響いた。


「ハードベアーだ!」

 ラビーがそう言うと、全体に止まれの合図をする。


 全員が動きを止め、耳をすましていると、右手からバリバリっと魔境の大木をなぎ倒しながら何かが近づいてくる音が響いた。


『ガァー!』

 ついにハードベアーは、リュウ達と後ろのトム保安官らの間のちょうど真ん中に飛び出して来て、全体を見渡した後、トム保安官らの方に向きを変えた。


「ヒィ〜、ハードベアーだ!」トム保安官は叫び、思わず一歩後退した。

 前の方にいた冒険者のゴーレムがハードベアーに大きな剣で切りかかったものの、ハードベアーの鋼鉄のような毛皮にはじかれ、右手の一振りで吹っ飛んでいった。


「た、退却だあー! みな退却しろ!」

 その様子を見たトム保安官は、全体に退却を命じ、一番先頭で逃げていく。


「チッ! アイツはハードベアーを討伐しようという気はないのか? 俺達と挟み撃ちにするとか、いろいろあるだろうが。」とテッドが呆れた顔で遠ざかっていくトム保安官らを見ている。


 トム保安官らが、ギィーション、ギィーション音をたてながら去っていくのを見たハードベアーは、ゆっくりとこちらに振り返り、獲物を見定めるような目で舌なめずりをした。


「ハードベアーを討伐するぞ。みんなゴーレムに搭乗しろ!」

 メアリーはそう言うと、ストレージから真っ赤なゴーレムを出して搭乗した。

 マーティン、テッドもそれぞれゴーレムをストレージから出して素早く搭乗していく。

 ニキもストレージからゴーレムを出して搭乗すると、獣人達をかばうように盾を構えた。


「みんな隠れててくれ。こいつは俺達が討伐する。」


 俺はニキのゴーレムの背中に作ったかご型の搭乗席に飛び乗った。

 これは、魔境調査に行く事が決まった日に、親方らがリュウのために急きょ作ったものであり、ニキのゴーレムは、ちょうど俺を背負うような姿になっている。


 いよいよハードベアー討伐が始まる。

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