17 バーゴーの獣人の村
俺は右手に魔石を挟んだベルトを巻き、荷車に寝かされた傷ついた獣人に近付いていった。
「ちょっと待ちな。」
リーダーらしきウサギ型の獣人がリュウの前に立ち塞がり、すごい形相でにらんでいる。
「ここは人族がいる場所じゃないぜ。ましてや保安官なんて、とっとと帰ってくれ!」
周りの獣人も口々に「早く出て行け! この人殺し!」など罵声を浴びせている。
そんな獣人達の罵声にかまわず、傷ついた獣人に近づき、その傷口に右手を差し出した。
「ヒール!」
たちまち獣人の傷口を淡い光が包み、染みるように消えていく。
「う、うーん」
奥さんに縋りつかれていた獣人が、息を吹き返したようにみじろぎした。
「あんた?」
「お? お前、何でここにいるんだ?」
どうやら回復魔法が間に合ったようである。
周りの獣人から、一斉に歓声が上がった。
もう一人の傷ついた獣人も回復魔法で治すと、もはやリュウ達を囲んでお祭り騒ぎである。
先程のウサギ型の獣人が、リュウ達に頭を下げた。
「いやぁ、すまなかった。保安官が来たって言うから、てっきり嫌がらせか、何か無理な事を言いに来たのかと思って、許してくれ。」
「誤解が解けて良かったよ。俺たちは、今日初めてバーゴーに来たんだ。」
「そうさ、この村でケガ人や病人がいれば、このリュウが回復魔法で治すから、おしえてくれ。」
「本当か?」
それから、ケガや病気の獣人の家をまわり、片っ端から回復魔法で直していった。
年寄りの獣人は、リュウを拝みながら「竜神様の御使様じゃあ〜。」などと言い出すから、リュウは内心冷や汗を流すのだった。
その後、俺とニキはウサギ型の獣人の家に招かれ、一休みする事となった。
「俺はこの村の取りまとめ役をしているラビーだ。今日は本当に助かった、ありがとう。」
「困っている時はお互い様さ、気にしないでくれ。」
「ところで、君達はバーゴーに初めて来た保安官だと言ったが、この地域を担当する新しい保安官という事か?」ラビーは耳をピンと伸ばし期待のこもった目で見てくる。
「いや、魔境の調査の為に、周辺を見て回ってるんだ。多分、2,3日したら次の街に行かなきゃならない。」
「そうか。君達が保安官ならよかったのだが…。」
ラビーの耳は残念そうにうなだれた。
「ここの担当の保安官ってのは、そんなにひどいのか?」たまらずニキが尋ねる。
「ああ、どこも似たり寄ったりだとは思うが…。」
ラビーからこの地域の保安官の話を聞こうとしていると、急に外が騒がしくなってきた。
誰かが怒鳴っている声が聞こえる。
「ラビー! ラビーはいるか!」
ラビーの顔がくもり、「あれがここの保安官だ。」とため息をつきながら教えてくれた。
確かに、残念な保安官らしい。
ラビーの後をついて外に出ると、馬に跨った痩せ型の人族の男が目に入った。
その男は、神経質そうな目つきで、なまずひげが特徴的な顔をしており、歳の頃は50代後半といった感じで、馬に跨ったままラビーをにらんでいる。
「もう知ってるとは思うが、魔境でハードベアーが出た。現在バーゴーの街で討伐隊が集められているところだ。そこで獣人達も討伐隊に協力せよ。」
「ちょっと待ってくれ。そのハードベアーに仲間がやられて、もう我々からは討伐隊に人手を出すのは無理だ保安官。」
ラビーは仲間を庇うため必死の形相で保安官に訴えている。
「そんなのは知った事ではない。とにかく、明日の討伐隊に獣人を10人用意する事。男たちが傷ついたというのであれば、女子供でも良いぞ。ふっふっふっ、獣人がハードベアーに喰われて隙ができれば、討伐のチャンスが増えようというものだ。」
保安官はニヤリと笑いながら村を見回し、女子供の獣人達を見ている。
「おい、コラ、テメェ! さっきから黙って聞いてりゃあ、何勝手な事を言ってやがるんだ。」
ニキがたまらず飛び出した。
「見ない顔だが、どこの奴だ?」
俺はニキをかばうように前に出た。
「俺達は魔境の調査に来ている保安官だ。今日、リーダーのメアリーがバーゴーの領主様にあいさつに行ってるはずだが。」
「ああー、シュナイダー家のメアリー様。これは失礼した。」そう言うと、なまずひげの保安官は馬を降りて俺達にあいさつしてきた。
「私はこの地域を担当している保安官のトム・ローと申します。」
「俺はリュウ、こっちはニキだ。よろしく。」
「リュウ殿達もシュナイダー家の方々ですかな?」
「いや、俺達はメアリー達のゴーレムの整備を受け持っていて、貴族ではないんだ。」
「ああー、整備士か。」その瞬間、トム保安官の顔が人を見下したものに変わった。
「他所の地域の保安官が口を出す問題ではない。お前達はこの村から出て行ってもらおう。」
「なぁにー! 俺達はここの獣人の友達だ。友達が困ってるなら助けるのが当たり前じゃねえか。」
そう言うニキにトム保安官は「友達ねぇ。」とニヤニヤしながら呟くと、急に真顔になり俺に向きなおった。
「それでは、貴殿にお伺いしよう。ハードベアーはバーゴーの街が全力で当たらなければ討伐できないほどの魔獣だ。その為、街の冒険者だけでなく、獣人からも討伐隊に人数を出すよう上から指示がされている。もし討伐隊に獣人が参加しなかった事で、討伐隊が全滅した場合、貴殿は責任が取れるのか?」
「…責任は、取れない。」
よく分からんが、この世界の常識として、魔獣には、全力で取り組む必要があるだろう事は、トム保安官の話から理解できる。
ここで、アメリカにおける人権を説いてみたところで、この世界の人達には何の意味もない事だろう。
「分かってもらえたかな。それでは、明日の朝、獣人を10人魔境の入り口まで連れてこい。ラビーわかったな。」
そう言うと、トム保安官は勝ち誇ったような顔で、獣人の村を去って行った。
獣人達は、怒りと諦めが混じった表情で顔を見合わせている。
先程までのお祭り騒ぎが嘘のようだった。
「みんな、明日の討伐隊に参加する者を決めるから、男達は俺の家に集まってくれ。」
ラビーはそう言うと、リュウ達を見る事もなく引き上げていき、他の獣人達もそれに続く。
「リュウ。何とかならねえのか?」
ニキが俺の方を見上げてくる。
「とりあえずバーゴーの街に行って、メアリー達と合流しよう。そこでみんなで相談するしかあるまい。」
………
俺達は、バーゴーへ馬を走らせながら、明日の討伐隊について話していた。
「くそう。何でよりによってハードベアーなんだ。」
「ハードベアーって、そんなに恐ろしい魔獣なのか?」
その後、ニキから聞いた話では、ハードベアーは熊型の魔獣で、大型のものは、立ち上がると高さが4メートルにもなるらしい。
また、全身を針金のような毛で覆われており、通常の攻撃はまったく歯が立たず、腕力も桁外れで、腕の一振りで人間の上半身が吹き飛んだと言う話もよくあるらしい。
「結局、ハードベアーには、ゴーレムでしか対抗できないのさ。」
「聞いてる限り、ニキのゴーレムでも太刀打ちできるか疑問だな。」
「ああ、あのゴーレムじゃよほどの運がなけれゃ無理だ。全身型の強力なゴーレムじゃなきゃ。」
俺達は、口に出さずともメアリー達の協力が必要である事を、感じていた。
ブクマ0を更新中でしたので、投稿を中断して、これまでの文章の書き方を見直してました。
今日から、投稿を再開したいと思います。よろしくお願いします。




