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16 旅立ち

 親方に呼ばれてバッカ工房の3階の食堂に行くと、親方が二人きりで相談したいとのことであった。

 整備を頼まれていたゴーレムの引き渡しは、明日である。


「リュウ、すまんがニキと一緒に魔境の調査へ行ってくれんか?」

「ニキを…良いのか?」

「あいつは獣人の事が絡むと、後には引かねぇ。かと言って、一人で行かすのは心配だし、旅をするとなるとポーターは必ず必要になるから、リュウがポーターとしてついて行ってくれれば安心じゃ。頼む!」

「頭を上げてくれ親方。親方やニキには本当に世話になったから、俺に任してくれ。必ずニキは守ってみせる。」


 その後、バッカ工房全員での話し合いとなり、ニキを整備士として魔境に行かせる事、リュウがポーターとしてついて行く事が親方から説明された。


「ちょっと待ってくれ、リュウは関係ねぇ。そもそも馬にも乗れねぇし、魔境の調査へついて行くのは無理だぜ。」とニキがあわてて言い出した。


「ふっふっふっ、あーっはっは! ニキ君、俺を昨日までの俺と思うなよ。」俺はそう言うと、裏の厩舎きゅうしゃから馬を出して、颯爽さっそうと乗馬してみせた。


 パカラン、パカランと馬は軽快な音をたてながら工房の庭を回る。

 ようやく乗馬クラブの成果をお披露目できた。


「お、オメェいつの間に!…負けたよリュウ。俺たちのポーターとして魔境調査についてきてくれ。」


 ようやくニキも折れた。

「じゃあ、いよいよ俺にも魔境調査用のゴーレムが与えられるんだな。」

「いや、ポーターはゴーレム無いからな。」

「えっ?」

「考えてもみぃ、整備を依頼してきたあの3人のストレージは、それぞれのゴーレムでいっぱいじゃ。ニキも半身型じゃが、ゴーレムと整備用の器具備品でいっぱいじゃ。そうなると、全員分の食料や衣類、キャンプ用品、ゴーレム用の素材をポーターが持つから、もう空きは無い。」


「そういう事だ、大丈夫、リュウは俺が守るからさ、安心しろ。」とニキは胸を叩いた。

 ああー、俺のポジションは、やっぱりそこなのね。


 その後、急ピッチで明日に向けた準備が整えられた。


………


 そして翌日早朝、メアリー達3人がバッカ工房にやってきて、親方からニキとリュウが魔境調査について行く事が説明された。


「ニキ、リュウ、二人には感謝する。二人は我々が必ず無事に連れ帰るから安心してくれ。」とメアリーが言うと、親方とアレックスは、しんみりしている。


………


「じゃあ行ってくるよ。みんな元気でな。」

「体に気を付けるんだぞ。」


 短い別れの挨拶をすますと、俺たちは用意していた馬にまたがり、工房を後にした。

 ロドス城塞都市の門を潜って外に出ると、朝日が辺りを黄金色に染め上げており、その中を馬に跨った魔境調査の一行は進んでいく。


 馬を走らせながら、メアリーがリュウ達の横に馬を並べてきた。

「魔境調査に一緒に行ってもらうから、お前達にもこれを渡しておこう。」


 そう言って渡されたのは、星型の金色に輝く、西部劇でよく見る保安官のバッチのようなものだった。

「これは、王国から魔境調査の依頼を受けた保安官のバッチで、身分を証明するものだから無くさないよう大事にしてくれ。」


 オオゥ、やっぱり保安官のバッチだったか。

 ついに、異世界でも警察官になっちまったぜ。

 ニキと二人、胸に付けたバッチを見て、ニンマリしてしまった。


 昼頃となって、保安官一行は、昼食を取る事とした。もちろん料理の担当は、ポーターである俺の仕事である。

 土魔法で簡易のカマドを作ると、焚き木に火をつけ、フライパンを熱していく。


 さすがに松坂牛には手が出ないので、今日はロドス城塞都市で買っておいたオークの肉である。

 オークの肉は豚肉に似た味がするので、ニューヨークで買っておいたハーブのブレンドされたソルトをまぶしてから、ジュウジュウ焼いていった。

 ストレージに入れておいたパンを添えて、全員に渡してやる。


「美味い! オークの肉のはずなのに、なぜなんだ? 絶妙な香辛料が効いていて、何とも言えん。」とマーティンは言いながらがっついている。

 今日のランチも好評である。

 そうなのだ、大概の料理は、このソルトを振っとけば美味しくなる魔法の調味料である。


 食事が終わると、メアリーが今後の予定について話し始めた。

「次の目的地バーゴーに着いたら、我々は領主にあいさつに行く予定だ。ニキとリュウも保安官になったから同席しても構わんが、どうする?」


「俺達は、領主様に会うような柄じゃ無いから遠慮しとくぜ。」とニキが言い、俺もとりあえずうなずいておいた。

「それより、俺達は獣人の村に行ってみてぇ。」


「獣人の村で何をするつもりだ?」

「まだ言ってなかったが、リュウは光魔法の使い手だ。怪我してる獣人がいたら回復魔法をかけてやるのさ。」


 全員が一斉に俺の方を見て、驚いている。

「リュウは、いくつの魔法が使えるんだ?」

「えーと、土魔法と光魔法の二つだ。」

「そんな馬鹿な、光魔法は最も加護を受けるのが難しい魔法とされている。光魔法の前にもっと使えるようになってるはずだ。」

「ああ、その件については、リュウは追い剥ぎにあって、記憶を無くしちまったから、魔法を忘れてるだけかもしれないけどな。」


 ニキの説明で、ようやくみんな納得したようだった。

「分かった。ニキ達は、獣人の村に行き、獣人の治療と情報収集してくれ。後で宿の場所を教えるから、夜になったら宿で合流だ。」


 そうして、保安官一行は、二つのグループに別れ、メアリー達はバーゴーの街に、ニキと俺は街から外れた獣人の村へ向かった。


 バーゴーの獣人の村は、ロドス城塞都市の獣人の村と似たような作りで、やはり貧しい暮らしの様子が目についた。

 胸に保安官のバッチを付けて、馬に跨ったまま村に入ったのが悪かったのか、村人は遠巻きにこちらを見ている。


 とりあえず馬を降りて、近くの子供に話しかけようとするが、母親と思われる獣人が、慌てて子供を抱えて家の中に隠れてしまう。

 残ったのは、強面のゴツい獣人ばかりで、周りを囲まれてしまった。


「何か勘違いしてるようだが、俺達は怪しい者じゃない。」

「保安官だろ、見ればわかるさ。」


 リーダーらしきウサギ型の獣人が前に出てきた。

 どうやら保安官は嫌われているらしい。


「大変だ〜!」

 リュウがニキと顔を見合わせ、ため息を漏らしたその時、数人の獣人が村に飛び込んできた。


「魔境でハードベアーが出た〜!」

 荷車を数人で引いてきており、その荷台には、大怪我をした獣人が二人乗せられている。


 リュウ達を囲んでいた獣人は、あわてて荷車の周りに集まり、先程のリーダーらしき獣人が話を聞いている。


「何があった?」

「魔境で魔獣狩りに行く冒険者のポーターでついて行ってたら、突然ハードベアーに襲われたんだ。」

「冒険者は?」

「あいつら、俺たち獣人が襲われてる間に逃げ出しやがった。何とか、ハードベアーの隙をみて逃げてきたけど二人がやられた。」


 傷ついた獣人の様子を見ていた別の獣人がリーダーを振り返り首を横に振っている。

 すると、先程、子供の獣人を連れて家にこもっていた母親の獣人が家から飛び出してきて、傷ついた獣人に縋りついた。


「あんた、あんた! どうしてこんな事に? だ、誰か、誰か助けておくれよぉ。」


 周りの獣人は皆うつむいている。


 ニキが俺に目で合図してきたので、ひとつうなずくと、荷車の方に足を踏み出した。


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