14 ゴードンの病気
またこちらの世界の休日となり、ニキと乗馬クラブに向かった。
先週は、たまたま出会ったゴードンという老人と乗馬の約束をしていたが、残念ながらゴードンは現れなかった。
「ゴードンさん、乗馬の約束してたのに、どうしたのかな?」
「何か用事があったのかもな。」
乗馬クラブのラウンジで、そんな会話をしていると、ラウンジのテレビから流れるニュースに二人は目が止まった。
『現在ここニューヨークのセイント病院前では、ゴードン氏の入院の情報を受け、たくさんの報道陣が詰めかけてます。ご存知のとおりゴードン氏は、ゴードングループの創業者で会長職にあり、今後グループの後継者争いが激化すると予想されます。』
ニュースは、ゴードンの顔写真と一緒に病院前のたくさんの報道陣の様子が写されており、その顔写真に写った老人は、間違いなくあの老人であった。
「リュウ、あれって、ゴードンさんだよね?」
「ああ、あのゴードンさんだな。」
「どうしよう?どうしたら良い?」
「えーと、どうしようも無いと思うけど。」
「ねぇ、友達が病気で入院したら、お見舞いに行くもんじゃない? 相手がどんな立場の人でも、友達は友達でしょ?」
「それはぁ〜そうだな、ニキの言うとおりだが…。」
ニキの期待のこもった目で見られると、断れそうにない。
「わかった、わかった。よし、今から見舞いに行こう。」
それから車でニューヨークのセイント病院に行くと、入口で厳しい警備がされてたが、ニューヨーク市警の警官である事を説明すると、すんなり病院に入る事ができた。
「えーと、ここがゴードンさんの病室だな。」
「ちょっと待ってください。おたくはゴードンさんとどういう関係ですか?」
病室の入口には、ゴツい二人組の警備員が立っていて通せんぼしている。
「俺たちは怪しいものじゃない。ゴードンさんの乗馬仲間なんだ。ちょっとお見舞いに…」
「はぁ、どこの記者だ? もっとましな嘘を考えてこい。」
「本当よ、先週、乗馬クラブで今日また乗馬する約束していたのよ。」
そういって病室前でやり取りしてると、病室のドアが開いて老齢の品の良い女性が出てきた。
「あなた達何を騒いでいるの?」
「すみません、私はリュウ、こっちはニキと言います。ゴードンさんの乗馬仲間なんですが、お見舞いに来たのでお会いできませんか?」
「まぁ、主人から二人のことは聞いてます。さあどうぞお入りください。」
ようやく最後の警備をくぐり抜けることができた。とりあえず警備員には、『なっ、だから言っただろ。』というような目線でドヤ顔をしたのは秘密である。
病室に入ると、ゴードンはベッドに横になり、ずいぶん顔色が悪いように感じた。
「わざわざ来てくれたのか、今日は乗馬クラブに行けずにすまなかったな。」
「こちらこそ突然押しかけてすみません。入院したと聞いたので。」
「ゴードンさん、体の具合どう?良くなるよね?」
「ああ、また元気になったら、一緒に乗馬をしよう。馬達とも、もっと会話したいしな。」
その後、ひとしきり乗馬の話をして、俺たちはゴードンの病室を後にした。
「ちょっと待って。」
病室の廊下を歩いているとゴードンの奥さんが追いかけて来た。
「今日はお見舞いに来てくれてありがとう。主人から二人の話をよく聞いてたのよ。」
「ご主人の容態はどうなんですか?」
「ここだけの話だけど、あまり良くないみたい。この年になって若い友達ができたって喜んでたのに…。もう知ってると思うけど、ゴードンはゴードングループの会長だから、主人に近付いてくるのは、下心がある人ばかり。あなた達には、本当に感謝してるのよ。ようやく好きな事ができるようになったのに…。ごめんなさい。」
奥さんはそう言うと、涙をこらえてどこかに去って行った。
ゴードンの病気に回復魔法が効果があるか分からないが、もしかしたらゴードンは助かるかもしれない。
しかし、これが世間に知られたら、自分の立場はどうなるのか。
俺は決断に迫られているのを感じた。
「ニキ、ちょっと先に病院の玄関に行って待っててくれないか? 忘れ物したみたいなんだ。」
ニキにそういうと、ゴードンの病室に引き返した。
ゴードンの病室に戻ると、ゴードン一人が病室で横になっており、ゴホッゴホッと咳き込んでいた。
「ゴードンさん、少しお話したい事があります。」
「ああ、君か。何か忘れ物かな?」
「ゴードンさん、咳き込んでいたようですが、胸が悪いのですか?」
「ああ、最初は肺がんとの診断だったのだがな、よく調べたら、全身にガンが転移していて、もうどうしようもないらしい。」
「ゴードンさん、聞いていただきたい事があります。私の両親は、以前日本の米軍基地で暮らしていて、その時、京都のお寺を観光で訪れたそうです。そこのお寺は、天井に大きなドラゴンの絵が描いてあり、まるで生きてこちらをじっと見ているようだったそうです。その後間もなくして、母は私を身ごもりました。それで私の名前は、日本でドラゴンを意味するリュウにしたとか。」
ゴードンは、ときおり咳き込みながらも、静かに聞いてくれている。
「そのせいかは知れませんが、私にはドラゴンの力の一部が与えられました。」
ゴードンが怪訝な表情でリュウを見上げた。
「ヒール!」
ゴードンの全身が淡い光に包まれ、染み込むようにして消えた。
「こ、これは?」
「ゴードンさん、思い切り息を吸ってください。もう、苦しくないはずです。」
ゴードンは二、三度深呼吸を繰り返し、胸が苦しくないのを確認し、みるみる驚きの表情に変わった。
「苦しくない…。こ、これは神の力なのか?」
ガタッ!
その時、病室の入口の方から物音がし、振り返るとニキが立っている。
「やっぱり、リュウだってのね。あの時、リュウの右手の傷が治ったのも、友達の傷も全部…。」
ニキは、涙を滲ませながら、リュウの胸に飛び込んできた。
………
その頃、ゴードンの妻は、トイレから出てくるところだった。
「私ったら、大切なお客様の前で泣いたりして。あの人の前では笑顔で話さないと。」と呟きながら病室の扉を開けたところで、固まった。
なぜかゴードンはベッドの上に立ち上がり、両手を組んで神に祈るようなポーズで涙を流しながら感謝の言葉を口にしており、その傍でリュウは泣きじゃくるニキを抱きしめていた。
「あなたたち、何をしているの!」
………
その後ゴードンは、病院での精密検査が行われ、全身に転移していたガンが消えている事が確認され、即日退院となった。
「ガッハッハッ! あの時の医者どもの顔を見せてやりたかったぞ。」
翌日、俺とニキはゴードン宅に呼ばれ、ゴードン夫妻と夕食を共にする事になった。
「えーと、俺の事は医者には…。」
「もちろん何も言っておらん。まぁ言っても信じてもらえんだろうからな。しかし、本当にリュウ達には感謝の気持ちでいっぱいじゃ。」
「ええ、主人からあなたが魔法で病気を治したと聞いた時には、いよいよ頭がおかしくなったかと思ったけど、本当だったなんて驚いたわ。」
奥さんの話を聞きながら、ニキもうれしそうに、俺の顔を見てくる。
「ところで、命を助けてもらって、こんな夕食だけで済ますほど、ワシは恩知らずじゃない。何かお礼がしたいんじゃが、何かないか?」
「いえ、そんな。この力は、ドラゴンの力ですし。」
「ええい、ワシがゴードングループの会長だと知っとるだろう。ワシのグループ企業は、家電、建設機械、重電機、金属加工など何でも扱える大企業の集団じゃ。何なら会社の社長でもやらんか?」
「いえ、警官の職も最近気にいってきましたし、竜神様から託されている事もありますので…。」
「ふむ。そもそも気になってたんじゃが、リュウのその力は、どういう経緯で与えられたんじゃな?」
それから、キャンプ場から異世界に連れて行かれた事などを説明するのだった。




