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11 乗馬クラブ

 俺は、念願の土魔法が使える事になり、早速魔法を使いたかったが、今日は休暇でニキと乗馬クラブに行く約束をしていた事を思い出し、魔法の研究は断念した。

 乗馬クラブでは、今日の生徒は俺、ニキと60代後半の背は低いががっしりとした、おっさんの3人だった。


「ジジイだが、君たちと同じ生徒のゴードンだ。よろしく頼む。」

「こちらこそ。リュウとニキです。この乗馬クラブはいつからですか?」


「1週間前からじゃが、訳の分からん馬語の講習ばかり受けとるわい。」とゴードンは、うんざりした表情で話す。

「あら、私は楽しいわよ。今まで知らなかった世界を知るのは楽しいわ。」とニキが話に割って入ってくる。

「はっはっは。確かにニキちゃんの言うとおりだな。そもそも、乗馬を始めたのも、新しい事にチャレンジしてみたかったからだしの。」


「ずいぶん楽しそうですね、ゴードンさん。」と教官のボルダーが、いつの間にかすぐ近くに来ていた。

 元海兵隊で異世界なら冒険者にピッタリなゴツいおっさんだ。


「さて今日は、いよいよ君達に乗馬してもらう。繰り返して言うが、馬の言葉をよく聞き、信頼関係を得てから乗馬する事。」

 ついに、乗馬できるらしい。


 まずは、馬の耳の様子を見て、リラックスしてるのを確認し、ゆっくりと顔を向けると、馬がこちらの息を嗅ぎに顔を近づけてくる。

 こちらも馬の息を嗅いでみると、香ばしいような草の香りがした。


 ゆっくり右手を伸ばすと、馬は右手の匂いを嗅いできた。

 こちらも自然と馬の首からたてがみを左手でかいてやると、気持ちよさそうに首を下に向ける。


 そこからは、すんなり乗馬できた。

 乗馬した状態で、3人(頭)教官の前に並ぶが、馬はなかなかじっとはしてくれない。


「よくできた。君達は、馬の気持ちを理解し、まさに人馬一体となって…おい、お前らどこに行く? 話は途中だぞ!」

 ニキは馬を上手に制御しているが、リュウとゴードンは、教官の話を聞いているどころではない。

 2頭とも別々の方向に走り始め、教官から長々と説教を受けるのだった。


 生徒3人は、乗馬クラブのラウンジに来ていた。

 運動もして喉が渇いたので、せっかくだからとやって来たのだった。


「いや〜大変だった、疲れたわい。」

「本当に、二人ともあさっての方向に行くんだもの、ボルダー教官一人で追いかけてたわよ。」

「一番疲れたのは、ボルダー教官だったね。」


 今日の様子を思い出して、3人はひとしきり笑い合った。

「私、こんなに楽しかったのは久しぶり。ねえ、来週も一緒に乗馬しましょうよ!」


 ニキの楽しそうな笑顔を見てると、初めて会った時の様子が思い起こされて、胸が熱くなる。

 また来週も一緒に乗馬する約束をし、お開きとなった。


………


 充実した休日を過ごし目覚めると、バッカ工房は、何やらあわただしい雰囲気が漂っていた。


 どうやら、ゴーレムの整備依頼があるらしく、その受け入れ態勢を整えるため、工房内の整理を急ぐらしい。

 なんせ工房の中は、先日の魔素石が所狭しと並んでいるのである。


 そして、昼前に、依頼人が3人でやって来た。

 いずれも種族は人族で、女性が1人と、男性2人である。


「事前に連絡があったかと思うが、王都から来た、メアリー・シュナイダーだ、よろしく。」

 まず、先頭の20代後半と思われる金髪の女性があいさつしてきた。

 馬に乗るためにパンツルックであるが、身に付けている服装の一つ一つが品がよく価値が高い事が伺われる。


 次に、工房を見渡しながら、やや猜疑心さいぎしんの感じられる目を向けた、こちらも20代後半といった痩せ型の男性があいさつしてきた。

「マーティン・キャンビーだ。やれやれ、こんな工房で俺のゴーレムがいじくられるとはな。」


 最後に、どう見ても冒険者にしか見えない、大柄の30代後半といった男性があいさつしてきた。

「テッドだ。元は冒険者だから気楽に接してくれ。」

 マーティンのあいさつにイラッときていた工房の4人は、テッドの挨拶で、やや精神を持ち直し、親方のバッカから自己紹介した。


「ところで、今のあいさつで分かったと思うが、俺とメアリーは貴族で、今日持ち込むゴーレムも、それなりに高価なものだから、取扱いにはくれぐれも注意してもらいたい。」と、いきなりマーティンが、こちらをさげすむような視線で言い出した。


 すかさずメアリーがフォローに入る。

「すまない。こちらの工房の腕が確かだとは、ロドス城塞都市の領主から伺っている。我々は魔境の状態を確認しに、数ヶ月間の長期の行動を予定している。それを踏まえて、それに耐え得るメンテナンスをお願いしたい。」


 親方は渋い顔で「分かってると思うが、魔境での探査をしながらとなると、それだけでゴーレムにはかなりの負荷がかかるんじゃ。できる限りの事はするが、途中の街でメンテナンスをしながら行く事をおすすめするぞ。」と説明する。


「分かった、可能な限り頼む。それではゴーレムを出すぞ。ストレージオープン!」


 そう言うと、メアリーらは、それぞれストレージに収納していたゴーレムを工房に出した。

 3台ものゴーレムが並ぶ様は壮観であり、リュウにとっては、初めて見る全身型のゴーレムだった。


 まず、テッドのゴーレムは、高さ4メートルを超える大型のもので、魔素石の全体に赤と白のシマシマのフレアキャットの毛皮が貼り付けられ、胸や腕、足などの部分には鉄板による装甲の補強が加えられている。

 しかし目立つのは、高さ3メートルはあろうかと思われる鋼鉄製の盾を装備している事だろう。


「こ、こんなでかい盾を装備して動けるのか?」思わずテッドに問いかけた。

「蒸気機関によるパワーの補強がしてある。」


「蒸気機関って?」

「背中にでかい水のタンクがあって、その温度を水魔法で上げて作った蒸気の圧力で力が増すのさ。」


 この世界にも蒸気機関があるのに驚いた。

「蒸気機関を動かすと『プシュー』って蒸気がゴーレムから吹き出すから、スゲェぞ!」とニキもうれしそうに説明してくれる。


 続いてマーティンのゴーレムだが、魔素石に空色の毛皮が貼り付けられている。

「これはストームキャットの毛皮だな。」

「ストームキャットって?」

「魔境にいる、風魔法で空から襲いかかって来る厄介な魔獣さ。その毛皮は風魔法の効果を発揮して軽くなるって言われている。」とニキが答えてくれた。


 ストームキャットの毛皮で、ゴーレムの軽量化が図られているらしい。

 ただ、テッドのゴーレムと比べると、かなり細身であり、スタイリッシュなロボットに見えるのが腹が立つ。


 最後に、メアリーのゴーレムだが、魔素石に真紅のワニ皮のような皮が貼り付けられた美しいゴーレムであり、親方らも息をのむ様子が分かる。


親方はゴーレムの表面を撫で、「こ、これは、もしかしてレッドドラゴンの皮か?」と尋ねた。

「ああ、装備している剣には、レッドドラゴンの魔石もセットしてある。予備のレッドドラゴンの素材が入手できたら、是非お願いしたい。」


「レッドドラゴンの素材は、知ってのとおり、なかなか出回っておらん。とりあえず買い注文はしておくが、期待はせんでくれ。」

「うむ、やむを得まい。代用として、フレアキャットの素材を入手してもらえたら、ありがたい。」


 ついに全身型のゴーレムを目にして、自分がこれに乗り込んで操縦いている様を想像すると、期待はふくらむのだった。


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