9 魔境へ
ついに異世界の魔境に行く日がやってきた。
ニキとふたたび馬車に乗り、冒険者ギルドの魔境支部に向かう。
「そういえば、こないだの獣人の村に行った時は、リュウが昼飯食べながら寝るから大変だったな。」とニキがニヤニヤしながらこちらを見る。
「回復魔法で、疲れたんだよ。」とリュウはジト目でニキを見た。
「今日は魔境だからな。途中で寝たら死ぬから気をつけろよ。」
「ああ、気をつけるよ。ところで、この馬は、おとなしいな。」
「ああ、長い付き合いだからな。なっ、相棒!」とニキが馬に声をかけるが、馬からは、特に反応はない。
「ふっ。聞こえてないようだな。」
「バッカやろう。馬には馬のテンポがあるんだよ。馬のテンポは、だいたい人より遅いんだよ。」そう言うと馬は『ぶるる』と鼻を鳴らした。
「おう、さすがニキ先生の言うとおりみたいだ。」
と馬語の特訓で得た知識について話しながら、冒険者ギルドの魔境支部に到着した。
ギルドには、すでに獣人の3人が到着しており、何と村長のウルと、先日最初に傷を治した熊型の獣人、あと犬型の獣人だった。
「やあニキ、リュウ! 先日は色々と助かった。リュウは、こないだはだいぶ疲れていたようだったが、もう大丈夫か?」
「ああ、心配かけた、もう大丈夫さ。ところで、ポーターを村長自らやって村はいいのか?」
「その事なら心配すんな。村の大恩人だから最高のメンバーをそろえたぜ。こっちがハックと、シバだ。」
ハックは熊型の獣人で、見た目どおり腕力に自信があるらしく、犬型の獣人のシバは、嗅覚が鋭く魔物を察知する能力が高いらしい。
ギルドでの手続きを終え、早速、ギルドが管理している魔境への門をくぐり、一行は足を踏み入れた。
しばらく歩くと、森の木々がジャングルのように生い茂り、明らかに空気が濃密なものに変わったように感じられる。
「そろそろ、ゴーレムを出すかな。ストレージオープン!」
ニキが以前工房で見せてくれた半身型のゴーレムをストレージから取り出した。ズシンと地響きを上げてゴーレムが出現し、軽く沈み込んでからゆっくりと直立する。
今回は魔境仕様だとかで、ゴーレム用の大きな剣と盾も装備し、さらに運転席の横には魔銃砲とかいう35ミリ機関銃のような武器が前に向けて固定されている。
リュウの子供心が、否応もなく刺激される。
「ニキはいいなぁ、ゴーレムに乗れて。今度は上等な魔石を使用するのか?」
「魔境では、魔素が充満しているから、魔石なしでもゴーレムは動くんだ。」
「何だよその便利機能は! じゃあ、魔境ならゴーレムに乗り放題じゃないか。」
「でも、魔獣が次々襲ってくるから、結構大変だぞ。」
その後一行は、まず、犬型獣人のシバが先頭を歩き、次にゴーレムに乗ったニキ、その後をリュウ、最後尾を守るようにハックとウルが続く。
しばらく歩くとシバが止まれのサインを出してきたので、止まって静かにしていると、前の草やぶからゴブリンが3匹飛び出してきた。
シバは素早くニキの後ろに下がり、代わってニキが前に出る。
ゴブリン達はゴーレムに一瞬たじろいだが、構わず歯をむき出しにして前に出てきた。
しかし、ゴーレムが、大きな剣を一閃すると、ゴブリン達は一度に真っ二つにされ息絶えていた。
この間わずか3秒ほどの出来事で、改めてゴーレムの攻撃力の高さに驚くばかりだった。
「初めてゴブリンを見たけど、魔境では、あんなのがたくさん出て来るのか?」
「ゴブリンなんかはザコだぜ。この辺は魔境の浅い場所だから、大した魔獣は出ないが、コボルトやオーガ辺りは出るかもな。」とニキが解説してくれる。
「あのさ、俺の武器はこのナイフしかないんだけど、これ1本で戦えるのか?」と先日ロドス城塞都市の市場で購入した刃渡り15センチ程の小ぶりのナイフをかかげて見せる。
「そのナイフで魔獣と戦うのはやめた方がいい。スライムくらいなら別だけどな。」とウルがアドバイスしてくれる。
みんな剣や盾で武装しているから、自分の装備の貧弱さに泣けてくる。
「ま、まぁスライムも大事な魔獣だからな。そらリュウ、そこのヤブからスライムが出てきたぞ! やってみろ。」とニキがけしかけてくる。
ウルやシバ、ハックは死んだゴブリンから魔石を取り出しながらニヤニヤと見ており、俺はジト目でニキを見つつ、ため息を吐きながらスライムと向き合った。
スライムは、ご存知のとおり透明な丸っこいナメクジみたいな生き物で、うねうねと動いている。
「これは、どうやって仕留めるんだ? ナイフをぶっ刺したらいいのか?」
「スライムは利用価値が高いので、出来るだけ傷つけないよう注意しろ。よく見ると、中に核があるから、そこをぶっ刺して仕留めてくれ。」
スライムの透明な体の中を見ると、確かにビー玉位の核が見えたので、俺は落ち着いてその核にブスリとナイフを突き刺した。
「初めてにしてはうまいじゃないか。」とニキからお褒めの言葉をいただいた。
現役の警官なんだから、これくらい当たり前だが、初魔獣ゲットに不思議と嬉しくて顔がニヤける。
ニキはゴーレムからわざわざ降りてくると、ストレージから小型の機械を取り出してスライムにくっつける。
「これは、スライムのメタル率を計測する機械で、これは…メタル率40%だな!」
「また知らない言葉が出てきたんだけど、スライムがメタル率ってどういう事?」
「ああ説明がまだだったな。スライムは歳を取るとだんだんメタル率が高まって、生きた金属みたいになるんだよ。メタル率80%以上のものは、ゴーレムの関節部分に利用するから貴重なんだ。ただ、80%未満でも、別の利用価値があるから必ず確保するけどな。30%未満だと、死ぬと形状が維持できなくなるから、使えないけど。」
「ん? スライムの色が変わってる。」
さっきまで、透明だったスライムの色が、灰色に変色していた。
「ああ、スライムは水魔法を使って周りの景色を体に写して透明に見せているらしいからな。」
「こ、光学迷彩だというのか…。」
光学迷彩の技術は、地球では、まだ研究段階のもので、夢の技術である。
さらに、しばらく進むと、ようやく魔素石の採掘場に到着し、先に昼食となった。
昼食の準備はリュウの役割であり、ストレージからパンや焼いた肉、スープの入った鍋を並べていく。
ストレージ内では時間の経過が無いようで、暖かいスープが飲めるのがありがたい。
「ところで、魔素石の採掘は、あそこに見える坑道に潜ってやるのか?」
「いや、昔は坑道を掘り進めて採掘してたらしいが、ここが魔境になっちまってから、そこら辺の岩山が全部魔素石になっちまって、そこら辺に見えてる岩を切り出すだけの簡単な仕事になっちまったんだ。」とウルが坑道の方を指しながら説明してくれた。
「魔境になってからはって、昔はこの辺りは魔境じゃ無かったってことか?」
「ああ、隣の国との戦争で荒れ果てて、魔境になってしまったのさ。それからだ、あの忌々しいサターン神教とやらが流行りだして、俺たち獣人は…。」
ウルは、遠い過去を思い出すような悲しいような表情を見せた。
それから、魔石の採掘作業となり、ニキが岩山から土魔法を使って、魔石を適当な大きさに切出し、俺や獣人達でストレージに収納していった。




