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0 プロローグ

 ある王国の伯爵領は、王国の南東部の守りのかなめであり、戦闘用の多くのゴーレムを所有する国内でもトップクラスの精鋭部隊を擁していた。


 その王国は、南部に広がる共和国と紛争を繰り返しており、今も伯爵領の国境付近で紛争中であった。


 戦場には多くのゴーレムが敵味方入り乱れて戦っており、辺り一面火の海である。

 高さ四メートルを超えるゴーレムでなければ、こんな戦地では戦えない。

 生身の人間など、この炎によってたちまち燃え上がってしまうからだ。


『ガガガーン!』


 今も、一台のゴーレムが火魔法をまとった巨大な剣を振ると、その炎の斬撃が相手ゴーレムに当たり炎に包まれていく。

 これでは、ゴーレムの中に搭乗している兵士は助かるまい。


 この戦場を遠目に観戦している指揮官達は、冷めた目でこの戦場を見ていた。

「男爵殿、もはや戦場は引き返すのが難しい状況となりました。」

 そう告げた白髪の男は、伯爵の兵士をまとめる指揮官であり、これまで数々の戦場を生きてきたことは、顔にある多くの傷痕きずあとが物語っている。


「こうなったのは、仕方のない事だ! 最初に共和国側が仕掛けてきたのが悪いのだ。」

 慌てて言い訳をしている小太りの男爵は、王国の王都から派遣された武官であり、功名心にはしり勝手に攻撃を開始した。


「私が申し上げているのは、最初の攻撃が共和国側のものであったか確認する必要があったという事です。」

 白髪の指揮官は、今日何度目かの言葉をため息混じりに言う。


「まだ言うか貴様! あのような白いゴーレムは、王国にはない。それが突然攻めてきたのだ。正義はこちらにあり、こうなった責任は共和国側にある。」

「しかし、あの白いゴーレムが共和国のゴーレムであったという証拠もありません。」

「ならば、どこのゴーレムであったというのか。答えてみろ!」


「だから、その事を共和国側に確認する必要があったのです。男爵殿は、急ぎすぎました。」

「何を悠長ゆうちょうな事を。これだから田舎者はダメだというのだ。戦とは速さなのだ。お前のように悠長な事を言ってたら、王国は共和国にあっという間に飲み込まれるわ。」


「戦の事はよく存じております。男爵殿が生まれる前から戦場を経験しておりますので。」

「貴様〜、私をバカにするか。」


 男爵が白髪の指揮官に詰め寄ったが、白髪の指揮官は一歩も引く事なく逆ににらみつけた。

「そもそも、我らが伯爵は、共和国側に和平交渉の使者として向かっているのですぞ。もし、共和国側に非のないことになれば、伯爵の命はない。」


 その言葉を聞き、男爵は一瞬たじろいだ。

「ふ、ふん。だから和平交渉などと生ぬるい事を言うべきでは無かったのだ。そこの責任は、私の忠告を聞き入れなかった伯爵にある。私の責任ではない。」


 するとそこに、戦場を見ていた部下が声を上げた。

「戦場に動きがあります!」


 言い争いをしていた白髪の指揮官と男爵も戦場に目をやると、ゴーレム達が慌てて逃げている。


「何があった?」

「分かりません。一瞬、戦場で何か黒いものが吹き上がったように見えたのですが、遠くて確認できませんでした。」


 そのうち、逃げていたゴーレムが何かに足をとられたように転び、他のゴーレムも次々に倒れていく。


「あれは、…黒い…黒い津波だ。」

「あ、あれは何なのだ?」


 男爵の質問に、白髪の指揮官は「まさか…」と呟き、先程までの冷静さを失い、額にびっしりと汗をかいている。


「答えろ! あれは何かと聴いているのだ!」


 白髪の指揮官は、ようやく男爵の存在に気付いたかのように、ゆっくり振り返ると男爵の目を見据えた。

「『竜神の怒り』です。」


「何なんだ、その『竜神の怒り』というのは。」

「私も古い言い伝えでしか知りません。人々の身勝手な振る舞いで争い大地を荒らすと、大地が裂け竜神の怒りを受けるという伝承があります。」


「なんだと、どうしたらいいんだ?」

「どうしようもありません。人も大地もみな滅びます。」


 そうこうしている間にも、黒い津波は押し寄せてきて、ゴーレムも兵士も飲み込んでいく。


「わ、私は逃げるぞ。馬を用意しろ!」

 男爵はそう言うと、慌てて逃げていった。


「竜神の怒りからは、誰も逃げられん。心残りは、サラお嬢様の事か。ディエゴよ、サラお嬢様を頼んだぞ。」


 白髪の指揮官は、戦場より後方にいる伯爵の一人娘のサラお嬢様と警備隊長のディエゴの無事を祈り目を閉じた。

 そして、黒い津波は指揮所も逃げていく男爵達も、何もかも飲み込んでいった。


 この物語の10年前の出来事である。


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