裏話3
女生徒の名前は、ディアナというらしい。
本名はもう少し長くて、ディアナ・アラディア・ウィルビウスというらしい。
ちなみに、一年生らしい。
「あの、本当にありがとうございました!」
改めて、お礼を言われ、頭を下げられた。
それでもご飯茶碗を手放さないし、なんならお代わりまでしてる。
清々しい上に図々しいな、この子。
というか、いい食いっぷりだ。
ブランですら、あまりの大食いっぷりに固まっている。
「……たんとお食べ」
俺も、それしか返せなかった。
デザートのアップルパイも平らげた。
というか、どんだけ食うんだこの子。
ふとブランを見た。
すると、なにやら奇妙な顔をしていた。
先程までの大食いにドン引きしていた顔ではない。
しかし、そんなこと、ディアナは気づいていないようで、ニッコリと笑って、
「大丈夫です!
もう食べてます!」
そう元気よく答えた。
その日は、そうして終わった。
そして、翌日。
生徒会長からの使いで、レイドがやってきた。
ディアナと一緒に彼の話を聞いた。
ブランは、関係なかったからか携帯をいじっているだけだった。
まぁ、早い話が学園の膿を出し切れていなかったということらしい。
彼女の魔力数値はわずか1。
それでも、魔力があるのだからと、この学園へ入学することになった。
前年の俺のことや不祥事、襲撃事件で生徒数もだが、受験生が激減したことも原因らしい。
それなら、ほかの学校に入れさせるとなるのが、人情なのだろう。
現に、貴族の子女でも他校に転校していった生徒もいたらしい。
しかし、教師陣の中にはまだまだ選民思想を強く持つ者がいる。
その選民思想持ちの教師陣も貴族の次男三男坊、次女三女なんかが多い。
だからだろう、ディアナはそんな教師たちにとってちょうどいいターゲットになってしまっていた。
俺の時もそうだったが、学食に根回しして使用できないようにしたり。
授業なんかも、わざと彼女に不利になったり恥をかかせるよう働きかけたり。
なんなら受けさせないようにしたりと。
それはそれはネチネチとした嫌がらせをしていたようだ。
そして、それを彼女は自分の家族に訴えた。
しかし、家族は聞く耳を持たず、彼女をどん底に突き落とす言葉を投げたらしい。
曰く、『せっかく入ったんだから、もうちょっと頑張りなさい』と。
それで、彼女の心は一度折れたようだ。
ポキンっと。
簡単に。
寮にも入れず、まともな食事も出来ず。
そして、心が折れて一週間。
ディアナは、餓死を覚悟したらしい。
レイドとの話が一段落すると、そこで初めてブランが口を挟んだ。
「なぁ、お前」
ブランはディアナに向かって、そう声をかけた。
「はい??」
「ちょっと、携帯見せてくれないか?
あと、生徒手帳」
「え」
いきなりの申し出に、ディアナがかたまる。
そこにレイドが待ったをかけた。
「斬新なナンパだな」
すかさず、ブランが反論する。
「ナンパじゃねーよ!!」
訝しみながらも、ディアナはまず生徒手帳を出した。
それをブランへと渡す。
「うぅ、顔写真の写りが悪いんで、あんまり見ないでくださいね」
続いて携帯を出そうとして、ポケットに手を突っ込む。
しかし、すぐにディアナは首を傾げた。
「あれ??」
ポンポンと、体のあちこちを自分で叩き始める。
次第に顔が青ざめ、焦りだした。
これは、もしや……。
「あれ?? あれれれ???」
やがて、確信がいったのか、ディアナは顔をひくつかせ、焦りを誤魔化すように笑いながら言った。
「携帯、落とした」
ですよねー。
それを見ていたレイドも、苦笑した。
そして、こんなことを言った。
「もしかしたら、精霊達が拾って教務室に届けてるかも。
あとで確認しておくよ」
そう言えば、落し物は一旦教務室行きになるのだった。
その後、落し物と書かれた箱に入れられ、管理される。
落し物に気づいた生徒は、まずその箱を確認に行くのだ。
「あ、いえ!今確認してきます!!」
そう宣言したディアナの体は、少しだけ震えていた。
……もうすぐ登校の時間だ。
そんなことをしていたら、確実に遅刻するだろう。
しかし、ディアナは授業に出る気はさらさら無いようだ。
まぁ、扱われ方が扱われ方だったしなぁ。
おそらく、教務室に行くのも怖いのだろうと思われた。
「あ、じゃあ着いて行こっか?」
気づけば、俺はそう口にしていた。
ディアナが、目を丸くして、そしてホッとしたような顔になった。
「ホントですか?!
ありがとうございます! 先輩!!」
しかし、それに難色を示したのはブランだった。
なにかを言おうと口を開いた彼よりも先に、俺は、
「そんなわけで、糞担任には適当に言っといてくれ」
そう先手を打って黙らせた。