裏話9
担任への連絡も忘れない。
すると、生徒は休みだが教師は仕事なので学校に居たらしくわざわざ生徒会室前で待っていてくれた。
生徒会室の鍵も開けてくれたので、取りに行く手間が省けた。
ちなみにマンションの部屋から学園までは転移魔法を使った。
「ほら」
担任がドアを開けると同時に、ヤマトが駆け込む。
ノームが、ヤマトのすぐ後ろについてまわる。
その後に生徒会長とブランが続く。
担任は廊下で待っている。
ヤマトはあちこちを物色して、茶菓子を見つけた。
「食べていいよ」
アンクが悪気なくそう言う。
その茶菓子は小袋に分けられていたクッキーだった。
すんすん、とヤマトはクッキーの匂いを嗅ぐ。
動きを止めて、じいっとそのクッキーを見る。
「お、当たりか?」
ノームが言った直後、ヤマトがうなづいてクッキーを齧ろうとした。
それに気づいたのは、アンクだった。
慌ててヤマトに駆け寄って、ヤマトの手からクッキーをたたき落とした。
ヤマトが目を大きく見開いて、アンクを見返す。
少し間を置いて、ヤマトがノームへ抱きついて泣き始めた。
「あああ!!!!
アンクお兄ちゃんが、クッキーとったぁぁああ!!!!」
「おまっ、あのまま食べたら、お腹、壊すだろ」
ノームが笑いを堪えながらフォローする。
「とったぁぁああ!!!!」
多分、腹を壊す所じゃなかっただろう。
落ちたクッキーを、ブランが拾う。
匂いを嗅いでみる。
「凄いな、普通のクッキーにしか見えない。
匂いも普通だ。
これ、マジで毒なん?」
アンクが答える。
「おそらくな。以前の紅茶の時もそうだった。
見た目も味も、匂いも、俺達にはわからない。
でも確実に毒入りだ。個包装だから油断してた」
袋から出ているのならともかく、完全密閉されているはずの菓子ですら毒が仕込まれていたということだ。
様子を見ていた担任が中に入ってくる。
クッキーと、クッキーの入っていた袋を見て、それからノームに抱きついて泣き続けているヤマトを見た。
それから、
「とりあえず、お前ら外に出てろ」
アンクとブランへそう言った。
ブランが、
「え、俺も??」
「そうだ。ここは大人が話を聞いた方がいい」
ブランがヤマトを見る。
ヤマトが様子を見るように、ブランとアンクを見返している。
少し、怯えているようにも見えた。
仕方ないので、担任の指示に従って二人は廊下で待機する。
担任は、二人が生徒会室を出て、ドアを閉めたのを確認する。
それから、指をパチンと鳴らして音が漏れないよう魔法で結界をはると、ノームに抱きついていたヤマトへ、声をかけた。
「おい、クッキー叩き落とされたくらいで泣く繊細な神経、お前には無いだろ?
あったら、俺の蹴りくらった時に大号泣だったはずだからな。
いい加減、その変な泣き真似やめろ」
泣いていたヤマトがピタリと泣き止む。
その背中に、担任が更に言葉を投げた。
「お前、もうとっくに戻ってるな?
いつ元に戻った?」
担任に対するヤマトの反応は、
「ちっ」
舌打ちだった。
そして、抱きついていたノームから離れ、担任へ振り返ると続けた。
「思い出したくもない、糞な思い出を引っ張りだされた後ですよ、先生」