裏話5
すぐにヤマトは起きた。
ポヤポヤとした眠気眼で、自分の顔を覗き込んでいたノームに気づく。
「あー、ノームだぁ。
だっこ」
両腕を広げて、ヤマトがそう甘えている。
精神はともかく、見た目は十五歳の少年なので、光景的には中々にキツいものがある。
「ヤマトはお兄ちゃんだろ、いつまでも赤ちゃんみたいだなあ。
長男だし、もう少しお兄ちゃんっぽくしないとだぞ」
楽しそうにノームが言った。
その言葉はどうやらヤマトの地雷だったようで、みるみるうちに瞳に涙を溜めると、ギャン泣きし始めた。
「ぼく、ぼく、お兄ちゃんじゃないもんー!!
ヤマトだもん!!」
癇癪だった。
それを見て、慌てるブランの目の前でノームが慣れた手つきで軽々と癇癪を起こしている男子高校生を抱き起こすと、背中を撫でたりポンポンと叩いたりしながらあやし始める。
「ぼく、ヤマトだもん。ちょーなんじゃないもん、おにーちゃんじゃないもん」
「そうかそうか、そうだったな。
お前は、長男じゃなかったな」
グズグズと鼻をすすりながら、ヤマトが言う。
「そうだな、お前はヤマトだったな。
でも、ほらお友達も見てるぞ?
鼻水たらした顔してると笑われるぞ?」
ノームの言葉に、ヤマトがちらっとブランを見てくる。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔のヤマトと目が合った。
「べつにいいもん!」
「良い子にするって、お母さんと約束したんじゃないのか??
良い子にしてなくていいのか?」
「うぅ~、うわぁぁぁあああん!
良い子じゃなくていいもん!!
ノームがいてくれればいいもん!!
ノームはぼくが、悪い子でも、ずっとずっと、そばにいてくれたもん!!」
体がデカいだけに、声もデカい。
しばらくそうやって泣きつかれるのを待った。
またヤマトがウトウトし始める。
その眠りを誘うように、ノームは背中を撫でてやる。
やがて、ヤマトはまた眠ってしまった。
眠ったヤマトを床に、起こさないように横たえる。
「手慣れてるっすね」
さすがに敬意のようなものを示さずにはいられなかった。
「ま、ほとんど俺達が育てたようなものだからねぇ。
って言っても、シルフィーたちの前じゃ、もう少し聞き分けのいい、いい子ちゃんでいるだろうけど。
だいぶストレスも溜まってたみたいだし、これで発散出来たんじゃないか?」
言われて、そういえばヤマトのこんな癇癪なんて初めてみたことに気づく。
次々に住む場所が代わり、家にも帰れず、帰ったところで自分のご飯の心配をしているくらいだ。
「今度、森へ狩りにでも連れてってやれ。
三歳くらいなら、熊の狩り方教えてやってたし。
家の中にいるよりも、外に出て気晴らしさせれば元に戻るんじゃないか?」
3歳児に何させてんだ、と思わなくも無かったが、逆に考えればその頃から家にはあまり帰れていなかったのだろうと思われる。
「こいつは物心ついた時から、我慢ばっかりだったから」
そう言って、ノームはまた来た時と同じようにヤマトの頭を、今度はくしゃくしゃと撫でた。
ヤマトが擽ったそうに寝返りを打つ。
と、そこでノームが思い出したようにブランへ忠告してくる。
「そうだ、まかり間違ってもこいつの前で【喧嘩】を見せるなよ」
「喧嘩?」
「三歳にまで退行してるなら特に、だ」
「それって、どういう?」
「……大人の喧嘩が、こいつは大嫌いなんだ。
欠片でもそれを見せてみろ、こいつ、消えるぞ。
ちょうど三歳なら、家族の一番の大喧嘩を見た時だろうからな。
あの時は山に逃げて、俺が見つけた。
あのまま、こっちに連れてくれば良かった気もする」
言うだけ言って、ノームは消えてしまった。




