裏話1
病室にて、彼はそのノートを開いた。
同級生だという魔族の生徒から渡されたノートだ。
そこに書かれた文字は、確かに彼の筆跡だった。
「マジか」
本当にエリート高に入学していたとは。
彼は驚いていた。
彼には約十ヶ月分の記憶が欠けていた。
昨日まで農高で、狩猟の授業に出ていて、目が覚めたら病院に入院していたのだ。
彼、ヤマト・ディケからしたら、たった一晩で十ヶ月近く時間が進んだことになる。
「……え、嘘だろ、俺、コノハと付き合うことになったん!?」
この十ヶ月の間の自分の行動。
それがノートにはまとめられていた。
不本意ながら、聖魔学園に通うことになったこと。
内臓破裂したこと。
毒を意図せず飲んだこと。
魔界に行って、楽しかったこと。
この日記を持ってきてくれた、マー君と友達になれて嬉しかったと自覚したこと。
別のエリート高との交流試合でやらかしたこと。
春休みのあれこれで、義手と義足になったこと。
コノハに告白されて彼女と付き合うことになったこと。
そして、今回の勝負の前日までの事が書かれていた。
これ以外にも、マー君以外の知り合いが出来て良かったことなどが書かれていた
淡々とした事実のあとに、自分の感想めいたものも書かれている。
最初のほうは、農業高校に戻りたいと思っていたらしく、農業高校での日々との比較が。
日記というよりは、最初のほうは記録に近い。
冬休み辺りになると、楽しい、に変わっていた。
雪が溶けたら、悪友達と遊びに行ってそこでこの十ヶ月のことを面白おかしく話したい、と書いてあった。
義手や義足のことですら、銃弾が撃てるように改造したいと面白おかしく書いてあった。いや、自分のことだからきっと本気だったに違いない。
そして、最後の日記。
そこには、二周目チート野郎というあだ名の人物と勝負をすることになったことと、もう1つ、自分へのメモが書かれていた。
「勝負が終わったら、担任かスレ民に必ず忘れず聞くこと?」
わざわざ【※】をつけて書いてることから、何かしら重要なことだったのだろうと思う。
その聞くつもりだった内容は、
・畑の気配のこと
・チート野郎について
というものだ。
スレ民、というより掲示板のこともノートには書かれていた。
だからこそ、わからない。
担任に聞くならともかく、なぜ、部外者であるスレ民にこの二つのことを聞こうとしていたのか。
「いや、聞こうとしてたんじゃなく、もしかして、相談しようとしてたのか??」
考えるが、答えは出なかった。
携帯は幸いにも手元にある。
ずっと病室にいても気分が滅入るし、と、ヤマトは思い立ってベッドから体を起こしてちょっと散歩にでも行こうとした。
そのついでに、ちょっとスレ立てでもして聞いてみようと思ったのだ。
しかし、ベッドから降りたと同時に、病室の扉が開いたかと思うと、昨日ぶりの悪友二人が入ってきた。
「おまっ! もう動けんの?!」
そう声を上げたのは、農業高校で一番仲のいいキーリである。
「マジでヤマトが怪我してる。レアだな」
淡々と冷静に言ったのは、キーリの次に仲のいいシノだった。
「まぁ、動けてるな。
俺も、怪我してるのが信じられないんだわ」
ヤマトは頬をポリポリ掻きつつ、苦笑して二人へそう返した。