裏話15
春休みが終わり、俺は寮に戻ってきた。
義手と義足の調子はとてもいい。
定期的にメンテナンスをしなければいけないのは不便だが、仕方ない。
母のお古は予備として持ってきた。
今つけているのは、新しく作ったものだ。
滑らかに、違和感なく動く。
銃やミサイルを撃てるようにしたかったけれど、それにはまた特別な資格が必要らしく、諦めるしか無かった。
荷解きをしていると、これまた龍神族の爺ちゃんにもらったお古の魔法杖が出てきた。
買わなくて済んで良かった。
だいぶいいものらしい。
「こんなところかな?」
荷解きが終わった頃を見計らったかのように、ブランが顔を見せに来た。
談話室で、寮母さんのいれてくれたお茶を飲みながら、春休みの思い出なんかを話す。
そういえば、ブランもだがエルリーも俺の手足のことは知らなかった。
エルリーに関していえば、本当にざっくりと俺が大怪我をした、としか聞いていなかったようだ。
会長と糞担任、そして、あの二年生達くらいのようだ。
俺の手足が吹っ飛んだことを、知っているのは。
しかし、二年生達も記憶を自分達で都合よく改竄しているみたいだから、案外と覚えていないのかもしれない。
「で、なんかおもしろいことあったか?」
ブランが聞いてくる。
ちなみに今日のブランは、地味な見た目のほうだ。
「んー、別に、ふつう。野良作業してた。
あ、あと、学園側からの要請で遭難者助けに行った。
それと」
「それと?」
「彼女が出来た」
言ったら、なんかめっちゃ驚かれた。
「どんな子?! 画像ある??」
「いや、普通の子だよ。幼なじみ。
ずっと好きだったって言われて、付き合うことになった。
ほらこれ」
俺は言いながら、携帯を取り出し、操作する。
この春休み中に撮った画像を見せた。
「オッパイでけぇ、あとめっちゃ可愛いな」
「未来の嫁予定」
「マジか。婚約じゃんか」
「婚約を前提にしたお付き合い、かな?」
「なんじゃそりゃ」
「付き合うまでならいいんだけど。俺長男で、向こうは長女だから。
ガチで結婚するってなったら揉める可能性高いんだよ。
向こうの家、男の子いないし」
「???」
ブランにはよくわからない話を振ってしまったようだ。
まだ未来の話だし、状況が変わる可能性もあるから、わりとガチな話、軽はずみな行動とれないんだよなぁ。
「ま、でも、それなら俺の手間も減るなぁ」
ブランは、疑問符を消してそんなことを、言ってきた。
「手間?」
「こっちの話」
そう言ったかと思うと、ブランが俺の顔を見て不思議そうな表情をする。
「なに?」
気になったので、聞いてみた。
「いや、お前、ヤマトだよな?」
「え、なにいきなり?」
「んー、なんつうのか、こう、違うというか。
魔力のバランスが悪い、というか。
あー、気持ち悪い。なんだこれ?」
「いや、知らねぇよ」
しばらく、ブランは俺の事を見ていたがやがて合点がいったのか、ぽんっと手を叩いて、
「わかった!」
と声を上げた。
かと思うと、俺の左腕へ手を伸ばしてくる。
俺はそれをひょいっと避ける。
「なんだよ?」
「いや、マジックアイテムでも付けてんのかと思って。
魔力の流れがそこだけ違うから」
お、おっかねぇぇえええ!!
見ただけでわかんの?!
こわっ!!
「別に何も無いけど」
ほら、と俺は袖をまくって見せた。
パッと見、義手だとはわからないはずだ。
春休み中、事情を知らない人には気づかれなかった。
「……反応が早くなってる。
お前これ、義手か?
生体反応が微妙に違う。
え、春休み前は普通に腕あったよな?」
秒で見破られてしまった。
「あ、あー、まぁ色々あったんだよ」
そう答えたら、ブランは少し苦々しそうな顔になった。
「…………」
「聞きたいなら話すけど、聞く?」
「いや、べつに。無理に聞かなくてもいい」
おや、意外。
「お前も年始の時に色々あったけど、俺のこと聞いてこなかったから」
ヤンキー関連のアレか。
まぁ、ブランの舎弟から話を聞いていたのと、そこまで誰かの過去に興味がなかったからなぁ。
「そっか」
「そもそも、わざわざ聞きたいか?
なんて、聞いてくるってことは、聞かれなきゃ話したくないって言ってるようなもんだしな。
話したくないならそれでいい。
けど、彼女が出来たんなら無茶も程々にしとけよ」
本当、良い奴だなこいつ。
まぁ、実際その通りなんだけど。
事故とはいえ、弟にやられたなんて言いたくない。
俺なんかのために、弟の評価が下がるようなことは口にしたくない。
それだけだ。
明日からは新学期だ。
学年も上がった。
二年生、いや今度は三年生か、それと二周目チート野郎のことがあって不安だが、なるべくそいつらとは関わらないよう、地味に暮らそう。
畑にさえ居れば、目立つことなんてないしな。
うん、そうしよう。