裏話10
さて、そこから何がどうなったのかと言うと。
俺は龍神族の爺ちゃんの所に運び込まれ処置を受けた。
んで、1時間くらいで意識を取り戻したらしい。
らしい、というのはまだ少しだけモルヒネの効果が続いていて、ぼんやりしていたし、記憶障害が起こっていたかららしい。
やっと脳みそが正常に動き出したところで、龍神族の爺ちゃんに色々質問された。
「なんでここに居るか、わかるか?」
「えっと、ボランティアで遭難者を助けに来て、弟とコノハと山に入って、その遭難者の一部が俺も倒せるーって言って、サイクロプスに向かっていって。
守ろうとしたら棍棒の直撃受けて、そんで、タケルがサイクロプス倒したのはいいけど、邪魔した遭難者にブチ切れて殺そうとしたから、俺が頑張って止めたんだけど、その時の弟の銃の弾が当たって怪我したから?」
記憶の通りに、俺の左手と右足は無くなっていた。
……あー、これは、くっつかなかったかな?
「よしよし、覚えてるな。
んじゃ、そのボランティアの要請はどこから来た?」
「……農業ギルド?? いや、違うような?
んー???」
「転校先の学園からの要請だろうが」
そうだったっけ??
あー、言われてみればそうだったような??
「年末年始のことは覚えてるか?」
「年末年始? なんかあったっけ?」
「魔界の友達のとこに遊びに行っただろ」
「……魔界の友達、あ、ブランのこと?
覚えてる覚えてる、魔王様、レフィアさんととケーキ食べて、試合に出たんだ。首輪外してもらった」
「……それ以外には?」
「?」
「もっと他にあっただろ」
「なんかあったっけ?」
考えてみる。
思い出すのは、ブランのお母さんが優しかったことと、手料理が美味しかったこと。
手料理もそうだけど、魔界のご飯も全部美味しかったことくらいだ。
「軽トラのことは?」
軽トラ、軽トラ??
「不良たちのことは?」
そこまで言われて、記憶が瞬いた。
瞬間、頭痛が走った。
でもその痛みは一瞬で消える。
あー、はいはい思い出したわ。
ブランが誘拐されたやつね。
すっかり忘れてた。
そうそう、爺ちゃんと連絡が取れたから、安心して襲ってきた不良たちを人質にとって、チョロっと痛めつけたんだった。
「思い出したか」
「思い出した」
ついでにスレ民とのやりとりのことも思い出した。
血筋だかのせいで忘れっぽいんだった。
それ爺ちゃんに聞こうと思ってて忘れてた。
でもなぁ、ぶっちゃけ私生活に影響ないしなぁ。
金勘定できなくなるとか、これから未来の予定を忘れるとかじゃないし。
文字が読めなくなるとかでもない。
悪友達のことを忘れる、とかなら焦りもするけどそういう訳でもないし。
そもそも、自分で言うのもなんだが、興味無いこととか普通に覚えてないんだよなぁ。
特に興味のない出来事や、人の顔と名前覚えるのも苦手だし。
誰かを助けたことを忘れるくらいだけなら、生きていく上で支障ないし。
いや、でもスレ民には注意されたしなぁ。
相談しておくか。
「あのさ、爺ちゃん」
俺はその話を切り出してみた。
すると、
「なんだ、知ってたのか」
拍子抜けしたとばかりに爺ちゃんが言った。
知ってたんかい。
ま、でもそれなら話が早い。
「忘れないようにするにはどうしたらいい?
対策とかさ」
そう聞けば、爺ちゃんはあっけらかんと返してきた。
「そりゃ無理だ。
忘れないようにするのは、無理。
そういう魔法が血筋にかかっている、と思え。
でも、完全に忘れるまでにはタイムラグがあるから、どうしても思い出したいなら記録、日記をつけるのがいいな。
読み返せば思い出せるものだ」
うぇー、俺苦手なんだよなぁ。そういうの。
「な、なるほど」
「さて、本題に入るか」
「本題?」
「お前の手足のことだ」
「あ、あー、これ。だいたい察しはつくけどさ。
くっつかなかった系?」
「そういうことだ」
爺ちゃんは言って、用意していたらしい義手と義足のカタログを渡してくる。
まぁ、魔物用の弾受けたしなぁ。
あれ、魔物の再生力でも再生出来ないようにするやつだし。
なっちまったもんは、仕方ない。
義足とか作るなら、金、かかるよなぁ。
足りるかな?
いや、それよりも。
「そういえば、タケルは?」
「裏で、コノハと一緒に、お前らの邪魔した学生ボコってる」
「え、なんで?」
「なんでって、そりゃ、そもそもお前がそうなる原因作ったのがそいつらだからだろ。
安心しろ、殺しても蘇生させてやるって約束したから」
サムズアップする爺ちゃん。
どう、安心しろと。
「……あのさ、爺ちゃん。
タケルだけど、気にしてた?」
様子を見に行きたいが、片足での移動は慣れていないのでやめておいた。
「普通は気に病むもんだ」
ですよねぇ。
さて、どうフォローしたもんか。
そういや、今更気づいたけどアレだけいた怪我人、居なくなってるな。
俺と爺ちゃんだけだ。
帰ったのかな?
そんな場違いなことを考えた直後だった。
「あ、あの!!」
そんな女の子の声がテント内に響いた。
見れば、テントの入り口にコノハと一緒に転移させた、聖魔学園の女子生徒が立っていた。
その子は俺を見ると、絶句した。
そりゃそうだよなぁ、片方ずつとはいえ身体が欠損してる人って見慣れてないと驚くものだ。
爺ちゃんが女子生徒の応対のために、そっちに歩いていく。
暇なので、カタログを開いて見た。
へぇ、色々あるんだ。
オーダーメイドが基本か、ま、そりゃそうだろうな。
……指の第一関節が外れて銃弾がバババって撃てるように改造できないかな?
いや、ロケットパンチも捨て難い。
膝を折ると、パカッと開いてミサイルとか発射できたら楽しそうだ。
……手足を無くしたのは自業自得とはいえ、これくらいの現実逃避くらい許されるはずだ。
あとで、弟にも謝らんとだし。
「ヤマト・ディケ、さん」
すぐ側で名前を呼ばれて、俺はそちらを見た。
先程の女子生徒が、立っていた。
「はい?」
「その、助けてくれてありがとうございました」
深深とその子が頭を下げてくる。
「仕事をしただけなんで、気にしなくていいですよ。
ただ、今後、こういうことがあったら必ず指示に従ってくださいね」
それくらいしか言えない。
「で、でも、腕と足」
女子生徒が泣きそうな顔で俺を見てくる。
いっそのこと、怒ったりした方がいいのかもしれないけれど、それは別の人の役割だし。
この子は気に病むタイプそうだから、あえてキツく言わない方がいいだろう。
「ま、こういうのはよくあることなんで」
「だけど」
さらに女子生徒は続けようとする。
俺はそれを遮る。
「もし気にしてるのなら、次の俺が出ないように注意してくださいね。
だから、ありがとうは受け取りますけど。
ごめんなさいは、拒否します」
その子は瞳に涙を溜めて、もう一回頭を下げて、目を擦りながらテントを出ていった。
結局、キツい言い方になっちゃったかな。
ま、いっか。