裏話7
俺の索敵能力で遭難者を見つける度に、農業ギルドからもらった転移用の札で救護所まで転移させる。
被害者の一部だと思われる肉塊は、魔法袋の中へ。
魔物との遭遇戦も何度か繰り返した。
奥に行けば行くほど、強いのが襲ってくる。
人の肉や血の匂い、そして味に酔っているのか、ほぼ全ての魔物が興奮気味だった。
さて、そんなこんなでだいぶ奥までやってきた。
ここまで来るのに、この大騒ぎの原因の一つを作った聖魔学園の生徒には遭遇していない。
もう食われている可能性高いな。これ。
などと思っていたときだ。
悲鳴が聴こえてきた。
俺たちは、顔を見合わせて声のした方へ急ぐ。
すると、拓けた場所に出た。
そしてそこには、さまざな魔物が混じった群れがいて聖魔学園の生徒達を取り囲んでいた。
その群れの恐らくボスらしき存在が、サイクロプスだった。
指示を出しているように見えたのだ。
見えただけかもしれない。
サイクロプスが叫んだ。
その叫びに合わせるように一斉に、ワーウルフが、ゴブリンが、スライムが、とにかく様々な魔物たちが聖魔学園の生徒へと飛びかかる。
弟やコノハよりも早く、俺が彼らと魔物の間に躍り出て、鉈を一閃する。
少し遅れてコノハがやってきて、魔物の首を刈り取っていく。
弟はといえば、魔物の背後に回り込み猟銃で頭を吹き飛ばしていった。
サイクロプスは驚いて、すぐに劣勢だと判断したのか逃げて行った。
弟がその背を追いかける。
おばちゃん達もそっちの方が危険だと判断したらしく、弟に続いた。
しん、と静かになった。
少しだけ風が吹いて、枝葉が揺れる。
よし、周囲に気配なし大丈夫だな。
俺はコノハへアイコンタクトを取る。
コノハが、呆けて動けないでいる生徒へ声をかけた。
生徒の人数は、ひぃふぅみぃ、よし連絡にあった通りの人数だ。
八人全員ちゃんといるな。
怪我は、大きな怪我してるのはパッと見いない、か。
生徒達の半分は助けが来たことでホッとしたのか泣き崩れてしまう。
しかし、もう半分は俺が誰なのか判断できる程度には冷静だったようで、
「なんで、お前がここにいる!?」
と叫んできた。
いや、叫んできた時点で冷静じゃねーな。
前言撤回だ。
「ボランティアで救助に来たんだよ。
とりあえず、ここは危ないからこの札を使って救護所に」
いちいち説明するのも面倒いので、簡単に言う。
そして転移用の札を渡そうとしたが、それを叩き落とされる。
「下等種の助けなんかいるか!!」
その下等種に助けを求めたの、学園側なんだけどな。
そこに口を挟んだのは、コノハの介抱を受けて泣きじゃくっていた、1年生の女の子だった。
「せんぱい、もう、かえりましょう?
たすかったんですよ? ね?」
「うるさい!!」
つっかえ、つっかえ、そう必死に訴えてくる。
先輩という言葉が示すように、下等種呼ばわりした生徒は二年生だった。
コノハがイラつきながらも、顔だけは安心させるように微笑んだまま泣きじゃくっている一年生達を次々転移させていく。
二年生に訴えている一年生にも同様に声をかけて、優しく背中をさすったあと転移させようとした時だ。
反抗的な上級生が怒鳴った。
「下等種のくせに邪魔すんな!!」
自分たちでも何とか出来たんだとかなんとか騒ぎ始める。
喉元すぎればなんとやら、という言葉があるけど。
喉元過ぎるの早すぎだろ。どんだけ勢いよく通り過ぎたんだよ。
「下等種、下等種、うっせぇんだよ!!」
遂にコノハがキレた。
殴り殺しそうな勢いなので、それを羽交い締めにして宥める。
暴れるため、胸が滅茶苦茶揺れる。
先輩達の視線がそこに集まる。
あー、貴族とか関係なしにこの人たちも男の子だな。
とりあえずくるりと向きを変える。
先輩達には背を向ける形になる。
「どーどー、どうどう」
俺は暴れだしそうな幼なじみを抑えつつ、先輩たちに声をかけた。
背中を向けて話すことになる。
「俺は学園側からの要請でここにいるんです。
先輩方、とにかく俺たちの指示に従ってください。
救護所に行きましょう、ね?
医者もきてます、怪我とかみてもらわないと」
「離せ、ヤマト!!
そんなに死にたいなら、今すぐコイツら八つ裂きにして魔物の餌にしてやる!!」
「そんなことしたらコノハが捕まるからさ。
ね? ちょっと落ち着こう??」
「救護所の惨状、ヤマトも見ただろ!!
アレをつくったのはコイツらも原因だ!!
原因の一つなのに、コイツらは怪我をほとんどしていない。
せめて程よく怪我でもしてないと、ほかの被害者達の鬱憤が溜まるだけだ」
「言いたいことはわかるが、ちょっと落ち着こう、な?」
コノハの剣幕に、さすがに先輩達がたじろいだ。
別の先輩が、声をあげる。
「お、俺たちのせいだって言うのかよ?!」
そう言ったかと思うと、続けて、
「ふざけんな!! なんなら証明してやるよ!!
お前みたいな奴らより、俺たちの方が強いってことをな!!」
んー??
なんだろ、この人どっかで見たような?
あ、あー!
アレだ、選抜メンバーにいた人だたぶん。
いや、もしかしたら他人かもだけど。
交流試合の後、めっちゃ睨んで嫌味言ってきた人だ、たぶん。
その人が魔法杖片手に森の奥へ走って行ってしまう。
勢いづいたのかなんなのか。
ほかの上級生もそれに続く。
あんたら、馬鹿なの?!
これにはさすがのコノハも予想外だったらしく、そしてちょっとは頭が冷えたのか、
「アホだ、アホがいる」
そう呟いた。
同意しかない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」
顔をくしゃくしゃにして、残された一年生の女の子が言ってくる。
俺は、コノハに声をかける。
「コノハ」
「わかってるよ」
ポリポリと頭をかいて、コノハが女の子を落ち着かせるようにまた背中をさすり始める。
「あ、あんなに、酷いこと、いったのに、やったのに、たすけ、たすけにきてくれて、あり、ありがとう」
女の子がしゃくりあげながら、そんなことを言ってきた。
???
何の話だろ?
錯乱じゃ、ないよな?
混乱してるのかな?
「とりあえず、転移して医者に見てもらった方がいいな。
頭打ってるかも。コノハ頼んでいいか?」
「……いや、ヤマトが行きなよ」
「なんで? 同性の方が安心だろ」
「そうじゃなくて」
「大丈夫大丈夫、おばちゃん達いるし、弟いるし、そうそうに怪我なんてしないって」
「はい、それフラグだから」
「まぁまぁ、そう言わずに」
俺はニコニコと、自分の持ってた転移用の札を発動させる。
魔力使わなくても発動できるから便利なんだよなぁ、これ。
「あ、ちょっ!」
「れでいーふぁーすとってヤツだよ。んじゃ、また後でな」
俺は手をヒラヒラ振ってコノハ達を見送った。
転移する直前、女の子が叫んだ。
「あの時、ズルしたって言ってごめんなさい!
あんなこと言ったのに、たすけてくれて、ありが」
言葉が途中できれた。
ズル、狡??
誰かと勘違いしてないか、あの子?