裏話8 ~交流試合のメンバーを辞退しろと言われた話 後編~
そこからのエルリーさん無双は凄かった。
俺を拉致った連中を一人ずつビンタしていったのだ。
彼女が怒っている理由はとても単純なものだった。
どこから聞いていたのかは知らないが、少なくとも死人が出た事件を出してきたことが、彼女の逆鱗に触れたようだった。
それは、もう一人の少年も同様だった。
二人は俺が嘘つきではないこと。
俺が助けてくれたことに対して恩を感じているようだった。
エルリーさんはわかるけど、もう一人の方って直接助けたっけ?
覚えてないや。
あ、あれかな?
俺がドラゴンを退治したから、結果的に助かりましたよってことなのかな?
エルリーさんの剣幕と、少年の反論によって、俺を拉致った連中はバツが悪そうに退散していった。
「エルリーさん、助かりました。
それと、えっと」
未だ鼻息荒くしているエルリーさんへそう声をかける。
続いて、もう一人を見た。
名前がわからない。
それを察して、彼が名乗ってくれた。
「レイド・ストドッグスです。
ドラゴン襲撃事件以来ですね」
少しくすんだ金髪をしていることから、貴族の血が入っていそうだ。
それを言ったら、エルリーさんも茶髪だけど光の加減で金色に見える。
「レイドさんもありがとうございました。
とっても困っていたんです」
レイドさんが俺の言葉に苦笑する。
エルリーさんは、頭が冷えてきたのかハッとして俺を見たかと思うと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「あ、あの、ちがうんです!
その、ヤマト君のことをバカにされてるって思ったら、つい手が出ちゃって!!
だから、その、私が、好きな人を貶されるのが、我慢できなかったとかじゃなくて」
しどろもどろってこういう事を言うんだろうなぁ。
とりあえず、ドラゴンから助けたことでだいぶ懐かれているようだ。
信じてもらえているのなら、それだけで十分である。
しかし、何故こうもタイミング良く二人が現れたんだろう?
偶然って凄いな。
なんて思っていたら、レイドさんが説明してくれた。
それによると、二人は俺を探していたらしい。
「俺を? なんで?」
ここで知ったのだが、俺はレイドさんのことをガッツリ助けていた。
……飛び蹴りで。
あ、あー、はいはい。うっすら思い出した。
そういえば、ドラゴンに向かっていった命知らずがいた。
んで、ブランとその命知らずが現場で口論になったんだわ。
そうこうしてるうちに、ドラゴンのしっぽが襲いかかってきたから、やむなく飛び蹴りしたんだ。
あの時のもう一人の方かぁ。
ちゃんと生きてたか、良かった良かった。
「あの時の礼もまだだったし、それに選抜メンバーに選ばれたと会長から聞いたので、お祝いにご飯でも奢ろうかと思って」
うまい飯でも食わせておけば大人しくなるとか、生徒会長から思われてそうだな。
ちなみに、レイドが生徒会長と繋がりがあったのは、彼自身が生徒会の役員メンバーだからだった。
「私とレイドさん、あとブランさんは同じ救急車で運ばれて、それで知り合ったんです」
と、エルリーさんが補足してくれた。
モヒカンと一緒とは、中々個性的な絵面だな。
「なんだかんだと入れ違いやすれ違いが多くて、ヤマトさんにお礼をいう機会がなくて。
改めて、命を助けてくれてありがとう。そして、選抜メンバー決定おめでとう」
そうレイドさんが、畏まって言ってきた。
別にいいのに、礼なんて。
でも、悪い気はしないのは事実だ。
「あ、そうだ。そのさん付けだけど。
どうにもこそばゆいから、呼び捨てでいいよ」
「あ! あ! なら私も!」
二人がそんなことを言ってくる。
まあ、他ならない本人の希望なら。
「別にいいけど。
えーと、レイドとエルリー、今日はわざわざありがとう」
こんな感じでいいのかな?
そんなやり取りのあと、俺は二人からご飯を奢ってもらった。
外出許可はあらかじめ二人でとったおいたらしい。
高級焼肉だった。
とても美味しかった。
一応、出かける前に寮母さんにはそのことを伝えておいた。
夕食の準備に間に合ってよかった。
もう少し遅かったら注意されたかもしれない。
で、門限までには寮に帰って来たんだけれど、夕食を済ませたブランが何故か俺の部屋の前で待ち構えていた。
焼肉のことを話すと、不貞腐れてしまった。
ブランも食いたかったらしい。
ずるいを連呼された。
同じズルいという言葉なのに、拉致った連中よりは心地いい。
しかし、である。
俺はこいつに一言言わねばならない。
「お前、俺のこと勝手に選抜メンバーに推薦しただろ。
やめろよ、ほんと」
「悔しいけど、そりゃお前のためだ。
最初の頃の俺もそうだったけど、誰もお前のこと認めたがらない。
実力があるのに、実績もみせつけたのに、だ。
魔族として、それがムカつくんだよ」
「お前、ほんと、むぐっ」
優しいなあ、もしくは、俺のこと大好きだなぁと言いかけたが、ブランがその口を手で塞いだ。
「そう何度も小っ恥ずかしいこと言わせてたまるか!」
そう言ったブランは、どこか楽しそうだった。