裏話5 ~選抜試験のための選抜 中編~
最初はドローンを使ってそれぞれの班の様子を流す予定だったらしい。
後の班になるにつれ有利になってしまうからと大ブーイングが起こって無しになった。
次々に先生に見つかったり捕まったりで失格する者が出てくる。
それとなく彼らの会話を聞いていると、果敢にもあの先生へ向かって行く生徒の方が多いようだ。
で、捕まってしまう。
あと、教師だけあってやはり強いようだ。
他のクラスや学年の話も時たま噂として流れてくるが、聞く度に俺はこう思っていた。
この学園は、一部の生徒、それこそチート野郎含めた生徒の方が強い、と。
権力や地位も、生徒の方が上だ。
そうなってくるとパワーバランスが崩れまくる。
実際、チート野郎なんて授業で教えることはない、とかで自由行動を許されていると聞いた。
なんだそれ、羨ましいな。
そう思う反面、こうも思う。
さっさと飛び級して卒業しろ、そして働け。社会に貢献しろ、と。
それにしても、よくもまぁ学級崩壊ならぬ、学園崩壊が起きていないものだ。
いや、それも当然か。
実際、そういう生徒、チート野郎みたいなのが少数派だ。
地位や権力のある生徒会長みたいな人もたしかにいる。
でもそういう人達ほど、なんと言うのだろう?
与えられた仕事や役割をきちんとこなすが、こう、チート野郎のようにひけらかすようなことはしていないように感じていた。
俺がチート野郎に対して持つ、気に食わないとかそういう感情があるのはひけらかしが鼻につくからだと思う。
こう、無意識の自慢というかなんというか。
チート野郎とは話したこともないし、そもそもクラスが別なので関わり合いになることはない。
しかし、同じクラスの、チート野郎まではいかないけれどそれなりに実力があって、家柄もそこそこな生徒たちの会話とかをたまに聞いたり、行動を見ると、似たようなひけらかしが多いことに気づいた。
で、思うのだ。
あー、はいはい。ボンボンたちの会話だ、と。
いや、試験の時も多かれ少なかれそういうのはあったけど、こっちの学園来てからさらにそれは顕著に感じられるようになった。
たとえば、経験を積むために海外へ留学とか。
学園を卒業したら、さらに交流を広げるために大学に行くとか。
生活費は全部親持ち。
あらためてここが、上流階級、上級国民の巣窟だと思い知らされる。
居心地が悪くて仕方ない。
実際、この待ち時間だってそうだ。
皆やることがないから雑談に花を咲かせている。
聞こえてくるのは、装備の性能の話。
使える魔法の話。
時々、チート野郎の功績の話等など。
……チート野郎、実技授業で本来その場所には出ないはずの強力なモンスターを倒して、賞賛されたらしい。
なんでその話をしながら俺をチラチラ見てくるんだ。
それも微妙に嫌味っぽい笑みだし。
嘲笑というやつか。
そうなのか。
まぁ、たしかにドラゴンの時はたくさん死んだらしいけど。
なんで、それとチート野郎の功績を比べられなきゃいけないの?
誰も怪我をせず、死なせず、魔物を倒せたチート野郎の方が凄いとかなんとか、なんでまたチラチラ俺見ながら言ってくんのさ。
(疲れる)
内心で呟いた時。
何故か隣にいたブランが、盛大な舌打ちをした。
見たら、俺とチート野郎を比べていた生徒達を睨みつけている。
そのブランの視線に気づいて、さっきまで嘲笑していた生徒達がその場を移動した。
少し離れた場所で、またこちらをチラチラ見ながら感じ悪くコソコソ何かを話していた。
さすがヤンキー。一睨みで撃退した。
しかし、ブランの悪口は言われてなかっただろうに。
まぁ、普通の感性だったらたとえ他人の悪口でも聞こえてきたら気分のいいものでも無いだろう。
「…………」
俺はいまだ睨みを利かせているブランを見た。
ブランがそれに気づいて、
「なんだよ?」
不機嫌そうに言ってくる。
「やっぱお前優しいね」
そう言ったら脇腹を小突かれた。
顔が赤かったので、たぶん照れたのだと思う。
そうこうしているうちに、順番が回ってきた。
森の中に入って、隠れる。
十、数える。
俺も風下へと移動する。
そして、気配を探った。
あちこちで、ソワソワとした気配がする。
野生の魔物や動物のそれではない。
生徒の物だ。
これなら、先生がやってきたら、誰かしらすぐ飛びかかりそうだな。
…………素材集めは隠れながら出来る。
とりあえず、確実にいざというとき逃げ切れるように動きだけでも確認しておこう。
そう考えて、俺は気配を消す。
臭いは、風下にいるから多分大丈夫のはずだ。
距離も充分にとっている。
先生が森へ入ってくる。
それを確認して、生徒が一人飛び出していった。
あ、さっき俺とチート野郎を比べてた生徒の一人だ。
あーあ、呆気なく捕まった。
続いて、一人。
また一人と、捕まっていく。
これじゃ参考にすらならない。
俺は気配を探る。
すぐ近くにブランがいる。
その事に気づいて、俺は移動した。
先生は、その場で立ち止まっている。
俺やブランが飛びかかるのを待っているのかもしれない。
ブランを見つけて、声を掛けた。
「おい」
「うぉ、驚かせるな!!」
俺はそんなことを口走るブランの口を手で塞ぐ。
「場所がバレる。静かに。
てっきりお前もすぐに向かってくかと思ったけど、まだ行かないのか?」
俺は手を離した。
「いま、いくとこだったんだよ!!」
小声でそう反論される。
「……やめといた方がいい」
「は? なんで?」
「わからないか?」
「三人捕まえて、油断してるだろ、あの担任?」
油断しているようには見える。
でも、少しだけ空気が震えている。
俺たちの気配を探っているんだ、たぶん。
そもそも、他の班の者たちがことごとく負けている、捕まっているのだ。
そっちから考えても油断していると取る方が自然だろう。
だけど、本当に油断しているなら気配を探るだけで、こんなに空気が震えるものだろうか?
微かな震えだ。
でも、コレは油断じゃない。
むしろ逆だ。
俺たち生徒のことを、甘く見ていない。
軽んじていない証拠のように思う。
つまり、油断なんて欠片もしていないのだ。
「……そうだといいな、って、あ、おい!!」
俺が説明する前に、ブランが突っ込んでいった。
そして、捕まってしまった。
アホ。
うわぁ、うわぁ。
めっちゃ探してる。
めっちゃ、俺の事探してる。
素材集めどころじゃない。
あの担任、殺りにくる気だ。
そう感じてしまうくらいの、ヤバめな気配が充満しつつあった。
俺は、その場を離れようとする。
その瞬間、背後で担任の声がした。
「みぃつけた♡」
アンッギャァァアア??!!