裏話4 ~選抜試験のための選抜 前編~
冬休みが明けて、すぐのことだった。
全校集会とクラスでのSHRで、それぞれ話があったのだ。
なんの話かと言うと、他校との交流会についてだった。
その交流会の一環として、魔法の技術を競う親善試合が行われるらしい。
まぁ、これは休み前に少しだけ聞いていたことだったので、そこまで意外性もなにも無かった。
で、この試合に出る人は、選抜試験で決めるらしい。
俺には関係のない事なので、聞き流す。
そんな事より、俺としては冬休みがあけると同時に、ぐんっとこの学園での扱いが良くなったことに困惑しているところが大きかった。
寮母さんが新しくなって、普通に部屋を使えるようになった。
他ならない寮母さんが、俺が魔界旅行から帰ってくるのを待ち構えていておしえてくれたのだ。
わざわざ小屋にまで来て引っ越しの手伝いをしてくれた。
まぁ、あんまり荷物という荷物が無かったから、ぎゃくに悪い気がしたけれど。
そんなわけでここ数日は、すきま風が入らない実に暖かい部屋で過ごすことが出来ている。
俺の学食の利用が難しいことも寮母さんは承知していたらしく、希望を出せばお弁当を作ってくれると提案された。
俺はすぐに食いついた。
何もしなくても食べ物がでてくるって、本当、最高の贅沢だ。
とはいえ、いつまた環境が変わって小屋に戻るとも限らない。
なので、あの小屋や畑はそのまま利用していくつもりだ。
俺の心は寮母さんの作ってくれた弁当でいっぱいだった。
早くお昼にならないだろうか?
そう心做しかウキウキしていたら、いつの間にか担任の話も終わっていた。
隣の席のマー君こと、ブランがなにやら意気込んでいる。
他の生徒も似たり寄ったりだ。
「なんか、大事な話でもしてた?」
不思議に思って、マー君に確認する。
すると、機嫌がいいのか教えてくれた。
なんでも、今日の魔法の実技授業で選抜試験に出る人を決める選抜をやるらしい。
あと、担任が生徒それぞれの能力を把握したいとかなんとか。
そのため、魔法杖や剣などの武器の使用も許可された、あとは制服でもいいが、できるだけ動きやすい格好で授業に出ること、と指示があったらしい。
随分、熱心な先生だ。
死んだ魚の目をして、やる気?なにそれ美味しいの? と言わんばかりの空気を纏っているわりに、本当熱心な先生だ。
さて数時間後に、俺はこんなふうに考えていた自分自身をぶん殴りたくなった。
新しい担任は、やる気のある、糞人間だとわかったのだ。
どの辺が主に糞だと聞かれたら、アレだ。
ニコニコヘラヘラ笑いながら人のものを勝手に他人、親戚とか従兄弟(外孫)とかに貸してぶっ壊して、許してやれとかいう実家の親父や爺と同じくらいの糞だ。
魔界で軽トラ借りた時、どれだけ爆弾積んで特攻仕掛けるのを我慢したことか。
そもそも、俺の金で新調した軽トラなんだからどう使っても文句は出なかったはずだ。
あ、今更ながら腹たってきた。
まぁ、なんだそのクソ親父達と同じノリで、授業が始まってから、俺は糞担任にこう言われたのだ。
「真面目にやらなかったら、手始めにお前が勝手に設置した洗濯機、壊すから♡」
最初、意味が理解出来なかった。
「そんなジャージ持ってたん?」
件の授業は午後からだったので。俺は農作業をする時に着用しているジャージに着替えてから集合場所にむかった。
授業を受けるのは、ドラゴン襲撃の時とはまた別の森である。
到着すると、他の生徒達から怪訝そうな目で見られ、ブランからも不思議そうに声を掛けられた。
そういえば、こいつの前だと着たことなかったっけ。
「農高のジャージ、デザインはクソダサいけど動きやすさと洗いやすさなら、これが一番いいから」
ちなみに武器はドラゴンの生き血を啜った鉈である。
他の生徒は鎧やら強化魔法でそれこそ鎧のように頑丈にした制服などを身につけている中、かなり目立っている。
ちなみに、この時点で俺は選抜試験のための選抜試験に真剣に取り組むつもりなど毛頭無かった。
適当にサボりつつ、横流し用の素材集めに勤しむためだ。
オシャレ?
そんなの気にしてたら、農作業なんて出来やしないし、オシャレ重視のブーツでも履いてみろ豪雪地帯だとそれは死を意味してしまうのだ。
これ言っても理解されないんだよなぁ。
「ふぅん?」
ブランは曖昧な感じで返してきた。
このジャージ、クソダサなことを除けばガチで高性能なんだよな。
正直、ドラゴン襲撃された時もこれ着てたら内臓破裂なんてしなかったと思うし。
さて、新担任のアール先生から授業の説明を受ける。
アール先生の独断と偏見によって班わけがされていた。
班わけと言っても、別に協力してもいいし、しなくてもいい。
選抜試験のための選抜ではあるが、個々の能力を見るという目的もあるらしい、そのため内容がアール先生との鬼ごっこだった。
制限時間が設けられ、逃げ切るか、先生に一発入れるかすれば生徒の勝ち。
前者はともかく、後者が妙な勘違いを産んだ。
すなわち、先生に一発入れられれば選抜試験に出られるのではないか、という勘違いだ。
ちなみに、先生はそんなこと一言も口にしていない。
まぁ、俺には関係ないことなので適当に素材を集めつつ、高みの見物と洒落こもうと思っている。
あ、ブランも同じ班だ。
最初の班が森の中へ入っていく。
ひと班五人から六人で分けられ、約三十人近くいるので全部で五つの班が出来た。
ちなみに、鬼ごっこの順番だが俺が所属している班は一番最後である。
さて数十分後の俺は、高みの見物をと、そんな余裕ぶっていた自分に、飛び蹴りをかましてタコ殴りにしてやりたい気分になってしまうのだった。