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裏話1 ~糞担任視点、前編~

 「先生!! なぁ! 聖魔学園行くって本当!?」


 とある農業高校。

 今日も今日とて、生徒たちが生き物と触れ合っている。

 週に二回の休みといえど彼らに休みはない。

 生徒に休みが無いのだから、それを監督する教師にも休みはない。

 クソかな?

 クソだね。

 この環境が、ほんと糞。

 玉打ちに行きてぇ。馬もいいかもしれない。

 家畜小屋にいるのじゃなくて、競走するほうの馬。

 ビール片手に勝った時は、また最高なんだよなぁ。

 そんなことを頭の中で繰り返してつつ、家畜や作物の世話をしている生徒の様子を見てまわっていると、生徒に声を掛けられた。

 生徒の肩には退治したのだろう、どデカいクマのモンスターの姿がある。

 それをポイッと放り出して、その生徒は非常勤教師のその男へ生徒は駆け寄る。

 やる気無し、死んだ魚みたいな目をした教師だ。


 「よく知ってんね」


 ポリポリと頭を掻きながら、その教師は答える。

 とても怠そうだ。


 「本当なんだな!?

 なら、これ! こいつ!!

 こいつに会うかもだよな?!」


 言いつつ、その生徒が見せてきたのはこの農業高校のジャージをきて、モンスターの屍を積み上げた山の上で、なんか指を天に指して馬鹿っぽいポーズをとっている生徒の画像だった。

 『俺こそ最強』とか言ってそうな画像である。


 「待て待て、誰それ?」


 こんな生徒いただろうか?

 画像に写っているモンスターたちは、1年生で倒すにはかなり無理がある等級のものばかりだ。

 いや、ちゃんと役割をそれぞれにこなせば、そこまで無理ではないが。


 「先生は、コイツと入れ替わりでここに来たもんな」


 そう前置きをして、その生徒は話し始めた。

 その教師――アールがこの農業高校にやってきたのは夏休み明けだった。

 夏休みの合宿中に、教師の一人が魔物に遭遇して大怪我を負った。

 その教師が復帰するまでの穴埋めとして、雇われたのだ。

 日がな一日、酒を飲んでパチンコを打って、金が無くなったら適当に害獣指定の魔物を狩って金を作ってダラダラするという、理想的な生活に終止符を打つべく、アールの家族と親戚がありとあらゆるコネを使って、短期の非常勤という働き口を持ってきたのだ。

 一言で言うなら、アールという男は屑である。

 ホントなら働きたくなどない。

 男でも女でも誰でもいいから養って欲しいと常日頃から夢想し、実行に移そうとしている程度には屑である。

 さて、この生徒の話によると、画像の生徒――ヤマト・ディケは家族やこの農業高校の大人たちによって、あの名門校【聖魔学園】に売られたらしい。

 そろそろ契約期間が切れて、アールも御役御免となる。

 またしばらくダラダラ過ごすぞーと、うきうきしていたら、先日、今度はその【聖魔学園】から来てくれとお達しがあった。


 誰が行くかバカタレ。

 朝は寝床でグッスリして、昼から酒を引っ掛けてパチンコに行って、あとはダラダラ過ごすという、とても素敵な計画があるというのに。

 アル中一歩手前のクズ男に、そもそも子供を預かるような仕事をさせるとか狂気の沙汰でしかない。

 彼は、自覚のある屑なのだ。

 そう突っぱねたのに、なんか実技の授業で教師が死んで数が足りないとか、少なくともそういういざと言う時のための実力者が足りないとか色々言われた。

 突っぱねたら、家族から総スカン食らって、そこで働くことが決まっていた。


 世間体を気にしすぎだろ。

 あと、家を出たんだからほっといてくれとなんど思ったことか。

 生徒の言葉は続いていた。


 「一応、ネットとか電話とかで連絡は取り合ってるんだけど。

 どうも向こうに行ってから、ヤマトのやつ怪我が増えてるみたいなんだ。

 毒味したとか、内臓破裂で入院したとかさ。

 笑って冗談みたいに言ってたけど、心配なんだ。

 ほら、金持ち連中って俺たちみたいな下のやつらのこと道具か、その歯車程度にしか考えてないだろ?

 俺がなんど聞いても、平気平気っていってまともに取り合わないしさ」


 「うんうん、それで?」


 早く残暑厳しいこんな場所からは離れて、クーラーのガンガンきいた場所に行きたい。

 そんなことを考えながら、アールは聞き返した。


 「だからな、先生は優しいし、先輩やほかのどの先生よりも強いからコイツのこと助けてほしい。

 金持ち連中から守ってほしいんだ。

 殺されないようにさ。ね? 頼むよ!!

 このお願い聞いてくれたら、新米と大吟醸酒、先生にあげるからさ」


 いや、その金持ち連中の親が雇い主なんだけどな。

 思ったが、口には出さなかった。


 「米はいいや、その代わりその大吟醸酒を二ダースで手を打とう」


 やる気無し、死んだ魚の目をしていたそこに生気が満ちていた。

 酒は彼にとっての回復薬なのである。

 もう酒と結婚したいとか思ってるくらいには、彼は酒が大好きなのだ。

 米も好きだが、洗う手間とか諸々考えると邪魔でしかないので断った。

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― 新着の感想 ―
[一言] >彼は、自覚のある屑なのだ。 そうか、自覚があるならあの行動も・・・
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