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裏話4

 おかしい。

 いや、おかしいでしょ、これ。

 なんで俺が魔法杖を突きつけられてんですかね?

 正確には側頭部だけど。

 

 こういう人質の役って、こう言っちゃアレだけど女性とかの方が効果的な気がするんだけど。

 あ、もしかして俺が観光客だからかな?

 地位や権力は無いけど、異界、外国から来た人間だ。

 傷つけると国家問題とかになったり、しないか。

 だって底辺も底辺の農民だし?

 人質()の命が惜しければーとかなんとか、没収した客の携帯端末越しに強盗の一人が警察に喚き散らしている。

 俺はと言えば、外からも丸見えな窓ガラスの前にて、もう一度言うが魔法杖を突きつけられている。

 手は後ろで縛られているから、抜け出すのはちょっと難しい。

 強盗さん達の要求は、逃走車両と逃走ルートの確保だ。

 うぇー、このままだと俺、強盗さん達とドライブすることになんのかな?


 他の客や店の従業員さん達は、奥の方で人質になっている。

 それでも下手に動くと攻撃魔法(流れ弾)に当たって怪我する人が出そうだし。

 いや、ここはプロに任せよう。そうしよう。

 

 そう決めた時だった。

 店の空気、いや、気配が変わった。

 気配が多い。


 動かずにいるのが多分正解だろう。生兵法は怪我の原因って聞いた事あるし。

 遊びに来たのに怪我をするのは、嫌だ。


 「…………」


 気配が消えて増えていく。

 気配が消えて増えていく。


 奥の方にいた人質達の気配が、全て別の気配へとすり変わっていた。

 そっちの見張りをしていた強盗さん達の気配すら、すり変わっている。

 残るは、俺と俺に魔法杖をつきつけている強盗さんだ。

 ピリっと、空気が一瞬だけはりつめた。

 手を出したいけれど、俺がいて上手く動けない。そんな気配、感情を読み取る。

 でも、強盗さんは気づかない。

 そのことに気づかない。


 さて、どうするか。

 魔法とか魔力関連の授業なんてまともに受けてなかったから、正直自分がどれだけやばい状況なのかわからない。

 この強盗さんは、すぐにでも俺の頭を吹き飛ばす程度の魔法を使えるのか、否か。

 ドラゴン含めた魔物なら、ブレスのための間がある。

 予備動作がある。

 それで判断できる。

 でも、魔法使い相手となると、装備が足りない。

 畑泥棒の魔法使いを何人か相手にしたことがあるし、なんなら倒したことだってある。

 思い出せ、魔法使いの畑泥棒たちはどんな風に魔法を使っていた?

 農業高校での実技の授業でも、その対策を勉強したはずだ。

 4ヶ月前まで、俺は何を習っていた?

 勉強していた?

 俺は、俺や友人たちはどうやって、対処していたっけ?

 脳裏に記憶が閃く。

 それは、農高の新入生への洗礼の儀式というか、通過儀礼。

 そう、上級生達による歓迎会のイベントの記憶だった。

 化け物並み、規格外、そう形容される先輩たちにボコボコにされた記憶がよみがえって、ちょっと泣きそうになってしまう。

 特に、かくれんぼと鬼ごっこは死を覚悟した。

 先輩たちとまたアレをやれと言われるくらいなら、全裸のフルチンでドラゴンに特攻仕掛けた方がマシだ。

 武器は爪楊枝とかでいいから。

 それにしても、ほんと、俺も、悪友達も、そしてほかの一年生もよく生きてたよなぁ。


 あぁ、でも、そうだ。


 結局、俺には馬鹿の一つ覚えしかないのだ。



 俺は気配を探る。

 その場の気配を探る。

 全ての気配を探る。


 イケそうだ。


 判断した後の、俺の行動は文字通り早かった。

 首輪があるために身体強化の魔法は使えず、こんな普通の日にカプセルは服用していない。

 旅行カバンの中に入れっぱだ。

 なので、純粋に早く動いた。

 まず、勢いよく強盗さんに回し蹴りを食らわせる。

 よろけた所へ追い討ちだ!

 体勢を整えて、強盗さんの腕を蹴りあげて杖を落下させる。

 そのまま、もうちょい、今度は強盗さんのボディへ蹴りを入れた。

 何がおこっているのか、わからない。

 そんな驚愕の表情筋を浮かべながら、はいもう1発。

 最後に顔面を蹴りつけた。


 強盗さんが倒れ伏す。

 同時に鋭い声が飛んだ。


 俺ではなく、もちろん強盗さんでもない。


 増えていった気配。その主の一人だった。

 それは、武装した救出班であり突入部隊だった。


 「動くな!!」


 俺は、言われた通りに動きを止める。

 両手は生憎塞がっている。

 なので態度と雰囲気で、敵意は無いですよ、むしろ被害者ですよアピールする。

 俺が人質だったのはわかってるはずだ。

 彼らの警戒が解けるのを、俺は待った。

 それには、数秒ほどかかった。

 今しがた俺が蹴りでノシた強盗さんの様子を確認するのが先だったようだ。

 意識を失った強盗さんが拘束される。

 やがて、俺への警戒が解けた。


 怪我を気遣われたあと、隊長さんらしき人に、危ないことはするなとめっちゃ怒られた。


 「す、すみません。なんか油断してたっぽくて。今なら蹴れる(殺れる)と思って」


 そう言うと、なんというかとても呆れられた。


 ちなみに、強盗さんはちゃんと生きている。

 息をしてるのだから、生きてる。

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