裏話2
治安、よくないのかな?
こんな大都会なのに。
いや、むしろ年末だからかな?
人気のない薄暗い路地。
イキりまくったチンピラ。
そして、そのチンピラに絡まれている女性。
こんな絵に書いたような場面、現実にあるのか。
すげぇな魔界。
いや、女性のことを考えると不謹慎か。
交番、交番。
うー、土地勘無いからわかんないや。
ブランが居ればこんなことにはなっていないのに。
なんでブランがいないのかは、とても簡単なことである。
俺は絶賛迷子なのだ。
魔界に来て二日目、今日は二人であちこち行く予定だったのだが、その道中にて、俺はブランとはぐれた。
まさか高校生になって迷子になるとは思っていなかった。
ブランの携帯に掛けてはみたものの、電源を切ってるのか電波の届かないとこにいるらしく繋がらなかった。
魔界の地図アプリは携帯のプラン的に高額になるんだよなぁ。
そもそも有料なので、親の許可がないとどのみち入れられない。
人間界のは入ってる。
どうしたものか、と適当に歩いていたらいつの間にか人気のない路地に出た。
そして、ラノベやウェブ小説で百万回は読んだ光景を目の当たりにしたのだ。
どうしよう。
どっちも怖い。
うわぁ、やべぇ。女性と目が合った。
口ではチンピラを相手にしつつ、目は俺をガン見してくる。
怖い怖い怖い怖い怖い。
えーと、えーと、どうしよう?
あ、そうだ。こういう時は。
「あ、居た。すみません、お待たせして。
お取り込み中でしたか?」
俺は知り合いを装って、女性へ声をかけた。
声をかけつつ、携帯を操作する。
こっちでも使えるように設定かえておいて良かった。
携帯端末に、動画サイトが表示される。
俺は、チラリ、と女性とチンピラ両方を見る。
指を滑らせ、さらに目的の動画を検索。
チンピラが女性から離れ、怒鳴りながら俺の方へ近づいてくる。
女性もチャンスだと思ったのだろう、チンピラに気づかれないよう距離をとり始める。
よし、今だ!
俺は検索しておいた動画を再生させた。
まぁ、正確には音声のみだが。
途端に、けたたましいサイレンが鳴り響く。
反射して、響きまくっているので携帯からの音とは一瞬ではわからないはずだ。
魔界のパトカーで使われているサイレンの音である。
ちなみに、検索ワードは、『魔界 パトカー サイレン』である。
これで出てくる。魔界のところを他の国の名前を入れれば、その国のサイレンが出てくる。
さて、人というのはこういう不意打ちに弱い。
魔族のチンピラも同じだったようだ。
音に驚いて、俺の背後を警戒しつつ逃げていった。
「ありがとう。助かった」
女性が完全にチンピラが見えなくなってから、そう言ってきた。
「いえいえ」
「今のは魔法の応用か?
それにしては術式展開は無かったように見えたが」
女性が興味津々である。
「あはは。文明の利器の勝利ですよ」
俺は手に持っている携帯端末の画面を見せた。
女性が礼をしたいと言うので、恥を忍んで迷子であることを説明した。
そして、諸事情により地図アプリを入れられないので、出来るなら交番まで連れて行ってほしいとお願いした。
女性は快諾してくれた。
「なるほど、観光か」
「えぇ、同級生が魔族で。この年末年始に泊まりに来ていいよって言われたので、観光に来たんです」
女性の頭には立派な二本の角。髪は、紫色だ。瞳も同じ紫である。
名前は、レフィアさんと言うらしい。
「なるほど。時に、少年は甘いものは好きか?」
唐突にレフィアさんがそんなことを口にした。
「え、はい。好きです」
「交番まではまだ距離がある。
ちょっとお茶に付き合ってくれないか?
さすがに礼が道案内だけじゃ、こちらとしても気が咎める」
「え、でも」
「友人が気がかりなら、そうだな。順番を逆にするか。
これでも交番にいるヤツらには顔が利くんだ。
そう言えば、あの交番近くにも最近新しいカフェが出来たんだ。
友人に連絡をとって、来るのを待つ間そこでお茶にしようじゃないか。
もちろん、私の奢りだ」
どうしよう。
子供のころから、知らない人から食べ物貰ったり、付いて行ったらいけないって言われてたけど。
悪い人、じゃないよな?
怖い感じはするけど。
「そういうことなら」
レフィアさんがやばい人だったりした時は、走って逃げよう。
そうしよう。