そして、歴史から消えた存在と彼の会話
ヤマトの中にいる存在は、目を閉じた。
女神がこれ以上、この体を壊すことはないと確信していたからだ。
そして、この体の本来の持ち主。
ヤマトの魂の残りカス、あるいは記憶の残滓へと触れる。
夜闇よりも暗い、その世界にヤマトの残滓は、生前の姿をとって存在していた。
「……僕も嘘が上手くなったなぁ」
なんて、その存在は呟いた。
その顔は苦笑していた。
「……やぁ、気分はどうだい?」
「ウィルさん」
ヤマトの体に間借りしている存在を振り返り、彼の名前を、ヤマトは口にした。
「えぇ、すごくいいです。
やっと、自由になれたから」
「そう」
自由になれた。
でも、それは。
「つかの間、ですけどね」
ヤマトは理解していた。
「ずっと、こうしていたいですけど。
約束がありますからね。
計画と違う行動を取っちゃったから、あの人きっと怒ってますよね」
あの人、というのは今回の件に絡んでいるピンク髪――考察厨のことだ。
つかの間の、ヤマトにとっての自由。
それを叶えてくれると言った、あのピンクの髪をした少女。
いきなり現れて、今回のことを解決する手助けをするから、そしてヤマトの望みを叶えてくれるといったあの少女――エステル。
「エステルは怒らないよ。
あの子は、何事も楽しむ子だから。
まぁ、さすがに今回のことには驚いたかと思うけどね」
女神の目的は、ヤマトの中にいたアキラだ。
普段は眠っていて、絶対に表に出てこない存在、アキラが目的だった。
ヤマトを絶望させて闇堕ちさせようとしたのも、そうすれば魂が刺激されて、アキラが出てきやすくなるためだ。
でも、幸か不幸か。
ヤマトは自殺した。
結果的に目覚めたアキラは、ブランの中へと入ることとなった。
そして、ブランを守った。
ブランの体を一時的に乗っ取って、女神へ喧嘩を売らないようにした。
「計画と違うというよりも、予定が前後したと言うべきかな。
彼女達は約束を守るから。
この世界で君を死なせる。
そして、その代価として君は彼女達を手伝う。
ただ、自分の心臓を潰したのはやり過ぎだ。
いや、もしかしてわかってて、潰したのかな?
そうすれば、君は代価を払うことなく死ねる。
ブランを正気に戻せるし、君は当初の望み通り死ねる」
「まさか、ただの偶然ですよ。
でも、そうですね。
言われて気づきました。
俺、ずっと消えたかったから。死にたかったから。
俺の自殺の片棒をアイツに担がせたのは、利用したことは悪いと思ってますよ。
アイツの手を俺の血で汚したことも、後悔してる。
アイツは、ブランはきっとこういう誰かを殺すっていう世界とは無縁のまま生きるはずだったから。
アイツは家族に愛されてきた。
俺とは違う。
利用され続けるために、生かされ続けてきた俺とは違うから。
でも、最期を看取ってくれたのがアイツで良かった。
これは、俺が言っちゃいけない言葉ですけどね」
「……もうすぐ、君への迎えが来る。
少し、覚悟をしておいた方がいい」
「覚悟?」
「ブランはこの世界に君を縛り付ける気でいるから」
「……はい?」
「まぁ、詳しいことは目覚めたらわかるよ。
今は、つかの間の自由を満喫していればいい」