扉を叩いたのは……
***
コンコン、と。
固く閉ざされた、扉が叩かれた。
ボソボソと、扉の向こうから声が届く。
でも、小さくて誰の声なのかわからない。
「まだダメか」
アキラは言うと、ブランを見た。
「誰の声かはわかるかな?」
「女の声だ。でも、知らない奴だ」
「そっか。
じゃあ、もう少しだ。
もう少しだけ、話をしよう」
「これ以上なにを話すって言うんだ」
ブランにアキラは微笑んだ。
「あの子を世界に繋ぎ止める方法がある」
「…………」
「龍神が取ろうとした方法じゃない。
全く別の方法だ。
でも、それは最低最悪な方法だ。
きっと彼は泣くだろう。
泣いて、後悔して、それでも死ねない絶望に打ちひしがれる。
そんなことになっても、君は彼に生きてほしいかな?」
「…………だ?」
「うん?」
「どんな方法だ?!」
ブランは、アキラの胸ぐらを掴む。
「答えになってないよ。
君は彼の生を望むかい?」
「ふざけてんのか!!」
その返しに、アキラはニコニコとやっぱり微笑んだ。
「あはは、うん、ふざけられたらきっと幸せなんだろうなぁ」
そんなふうに返してくるアキラの表情を見て、ブランは言葉を失った。
「……っ」
あまりにも、似ていたから。
彼に、ヤマトに似ていたから。
「なんなんだよ、お前。
なんで、アイツに似てるんだよ」
「……似てるかなぁ。
似てないと思うよ。
俺と彼は別人だもん。
でも、君は俺の家族によく似てる。
けどモヒカンは無いかなぁ。ダサいよ、あれ」
「ダサ、い??
カッコイイだろ」
「うわぁ、センスヤバいね。
それなんとかした方がいいよ。
俺の家族は少なくとも君よりセンス良かったよ。
似てるけど、君はやっぱり俺の家族じゃないね。
当たり前なんだけどさ」
どこか楽しそうに懐かしそうに言って、アキラは自分の胸ぐらを掴んでいるブランの手に触れた。
「うん、もう大丈夫だ。
それじゃ、あとは頼んだよ?
俺は寝る」
その言葉は、しかしブランに向けられていない。
扉に向けられていた。
扉の向こうにいる、誰かに向けられていた。
「あ、入っていいんすね?」
その声にブランは扉を見た。
扉が開く。
同時にアキラが言ってくる。
「最低最悪の方法は、きっと彼を、ヤマトを絶望させる。
いいんだね?本当に??」
「クド…い」
ブランの言葉は途中で止まる。
アキラにヤマトを重ねてしまう。
「等価交換、代価、なんでもいいけど。
君がちゃんとそれを支払えると信じてるよ」
そう言って、それからなにか思い出したらしく、こう続けた。
「あぁそうだ、もう一つ、いい事をおしえてあげる。
年越しのドタバタ、覚えてるかな?
あの時、彼は君に対して誓いはおろか、契約すらしていなかった。
これがどういう意味か、君ならわかるはずだ」
「!!」
ブランの瞳が大きく見開かれる。
そんなブランを見て、でもそれ以上アキラはなにもいわなかった。
彼の目の光が消えて、人形のように動かなくなる。
それと同時に、誰かが部屋に入ってきた。
「ありゃ、寝ちゃったかぁ。
ま、いいや。
ようやく会えたな、マー君?」
振り返る。
そこには、見知らぬどピンク色の髪をした美少女が立っていた。